ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「福家警部補の再訪」/東京創元社刊

大倉崇裕さんの「福家警部補の再訪」。

航行中の豪華客船の中で女性が撲殺された。容疑者は警備会社社長(「マックス号事件」)。
人気脚本家が企んだ偽装誘拐事件とその裏で行われた殺人事件の真相とは?(「失われた灯」)。
解散の危機を迎えた漫才コンビ。解散を承諾しない相方に男が起こした犯罪とは?(「相棒」)。
昔の犯罪をネタに自称造形家に強請られていた玩具の企画専門会社社長。完全犯罪の顛末とは?
(「プロジェクトブルー」)ふちなし眼鏡に小柄で童顔、頼りない外見からおよそ刑事に見えない
福家警部補が鋭い推理で殺人事件の犯人と対決する4つの倒叙ミステリ集。シリーズ第二弾。


ようやく読めた福家シリーズ第二弾。地元図書館で予約待ちあと一人というところで、隣町
図書館の開架で発見。当然即行手にして、地元図書館の方は予約キャンセル。しかし、地元の
図書館ではまだ私の後ろにも10人の予約がいたというのに、隣町図書館ではすでに開架
扱い。単純に利用者数の違いなんでしょうけど、何にせよ、ありがたいことです。へこへこ。

このシリーズはやっぱり安定して楽しめますね。倒叙ものということで、パターンが決まって
いるから、いくらでも続きが書けそう(アイデアさえ浮かべば)。ただ、あらかじめ犯人の
犯行の一部始終が明らかにされた上で、その犯罪の証拠を一つづつ集めてつきつめて行くという
過程を面白く書くのは、犯罪の全貌が読者に知れているだけに難しそうです。大倉さんはそこを
実に巧く書いていると思います。犯人と対峙する福家警部補は、一見ひ弱で頼りなさそうな
外見をしていて、全く迫力を感じません。でも、ひとたび犯罪の臭いを嗅ぎつけると、証拠を
集める為に何度でも犯人や関係者の所に足を運ぶ。そして、犯人が残したどんな小さな証拠の
かけらも見逃さないず、その証拠をもとにじわりじわりと犯人を追いつめて行くのです。
犯人との対決シーンは相変わらず緊迫感があって読ませてくれます。一切の感情を差し挟まず、
淡々と犯人に自分の犯罪の証拠をつきつけて犯行を認めさせる福家警部補はやっぱりかっこいい
です。外見と鋭い推理能力とのギャップがいいですね。それに、今回は前作よりも福家さんの
意外な本性が垣間見えて、より親しみが湧いたように思います。毎回毎回初対面の事件関係者の
所に赴く度に警察手帳やバッジを忘れて鞄の中をがさごそ探す姿はちょっと間が抜けていて
微笑ましい。それに、カルトな映画や漫才やフィギュアに食いつく意外な趣味嗜好があるところにも
嬉しくなりました。相変わらず感情表現は控えめですが、その裏には意外に好きな物に熱狂する
マニア志向な性格が隠されているようですね。より人間味が感じられて好感が持てました。
でも、一日(どころか何日も?)寝ないで働いて、食事をするのも忘れちゃうところはやっぱり
人間離れしているように思いましたが^^;



以下、各短編の感想。

『マックス号事件』
捜査に熱中して船から降り忘れて、密航者と間違えられる福家さんに笑ってしまいました。
おいおい・・・。マニキュアから決定的な証拠を導き出す過程はお見事、でした。

『失われた灯』
偽装誘拐の裏で行う殺人。こんなに上手く行くもんかねぇとも思いましたが、良く出来て
います。推理面でも面白かったですが、個人的には福家さんがつぶれかけたビデオのレンタル
ショップに行って、店長に閉店を踏みとどまらせるくだりが好きでした。

『相棒』
内海が解散を渋った真相にはやりきれない気持ちになりました。相棒の変化の理由に気付いて
やれず、自分のことしか見えてなかった犯人に憤りを覚えました。長年付き合った相方にも
打ち明けられなかった秘密を抱えていた被害者。お互い、結局信頼していなかったということ
なのでしょうか・・・。

『プロジェクトブルー』
フィギュアというマニアックな世界が出て来るところがいかにも大倉さんらしいですね。
『失われた灯』に出て来た古物商の新開が再び登場。こういうリンクは嬉しいです。福家さん
はどこか憎めないキャラなので、本人望むと望まざるとに関わらず、今後も出会った人との輪が
増えて行きそうな感じがしますね。


どの話も福家警部補の卓越した推理力とそれに反したとぼけたキャラの魅力で楽しめました。
コロンボ古畑任三郎のような倒叙ミステリがお好きな方には是非お薦めしたいシリーズです。