ミステリ読書録

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北村薫/「元気でいてよ、R2-D2。」/集英社刊

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北村薫さんの「元気でいてよ、R2-D2。」。

小説という地図の、北の吹雪の中にも南の密林の中にも、あるいは白く凍えあるいは
赤く熱した毒を含み、されゆえ足を向けたくなる恐怖の王国がある。(まえがきより)
――人生の中にふと影が差す瞬間を描いた八つの短編を収録。


まえがきの北村さんの言葉がとても印象に残ったので、一部を引用させて頂きました(太字部分)。
北村さんの直木賞受賞後第一作。一作が20ページ前後の短い作品ばかり8作が収められて
います。しかし、どの話もラストで突き落とされたような怖さやひやりとさせる毒を感じる
ものばかり。読んでる途中は一体何が言いたいんだろう?と首を傾げながらページをめくる
のですが、ラストまで読んでぞぞぞー。うわ、こうきたか!と思うような展開ばかりで、
北村さんの巧さを感じました。中には読みとり不足でオチにピンとこないものもあったの
ですが・・・^^;どの話も短いだけにすぐ忘れて行っちゃいそうですが^^;北村さん
ご自身が冒頭で注意されている『腹中の恐怖』は、確かに妊婦は読まない方が良さそう
です・・・(まぁ、私は妊婦ではないのでおもいっきり読んじゃいましたけどね!←自虐?)。


以下、各短編の感想。

『マスカット・グリーン』
えみぞー、りょーすけのお互いの呼び方が微笑ましいなぁなんて思っていたら・・・えみぞー!
後半、ありきたりの展開ではありますが、その事実がマッサージを受けることから浮かびあがって
来るというところが非常に巧い。これは唸らされました。

『腹中の恐怖』
北村さんご自身が書いた作品を読んで逃げ出したくなったという問題作。妊娠中の方は
読んではいけません。・・・という程、私はそこまで怖いと思わなかったんですけど
(感覚おかしい?^^;)。まぁ、想像すると、かなりキモチ悪い話なのは確かです。

『微塵隠れのあっこちゃん』
これはちょっとピンとこなかった。五堂みたいな人間って、絶対どこの職場にもいますよねぇ。
むかむか。でも、ラストの主人公が感じる感傷的な思いは誰しも経験があるのではないかな。

『三つ、惚れられ』
これは厭な話ですねぇ。嫌いな人間に、自分のことが好きだと誤解されて、挙句結婚するからと
哀れまれる。耐えられない・・・。しかし、一番怖いのは後輩の亜梨沙の悪意ですね。こういう
執念深い女に睨まれた日には・・・怖っ。

『よいしょ、よいしょ』
二十年前に体験した嫌な思い出が、図書館で一冊の本を見つけたことで再び蘇り、息子の授業参観
で衝撃の出会いが、という話。こんな偶然あるんかい、と思いますが、ラスト1ページのある人物
の台詞がなんとも怖気を誘い、イヤーな気分にさせられます。こんな再会は経験したくない。

『元気でいてよ、R2-D2。』
なんとも切なくやりきれない気持ちにさせられる一作。主人公のような、こういう後悔は、身に
覚えのある人が多いんじゃないでしょうか。何気なく言った一言が、思わぬ出来事を引き起こして
しまう。そんな結末は望んでいなかったのに。ただ少し、文句を言ってみただけなのに。ぽつんと
残された切り株の姿がただ、悲しい。

『さりさりさり』
ラストの姉のセリフがとにかく怖い。身近な人の思わぬ悪意と裏の顔。姉のマンションから
聴こえてきた『さりさりさり』は一体、何の音なんでしょうか・・・^^;;人間、分を弁えないと
お仕置きされても仕方がないのだそうです。うへぇ。

ざくろ
ついこの間友人とざくろについて話していたばかりだったので、変なタイムリーさにちょっと
怖気が・・・(普通の作品なら喜ぶところなんだけど、こういう作品なので^^;)。ざくろ
は、私の中でも昔の漫画に出て来た『血の味』とか『人肉の味』とかのイメージがこびりついて
いて、ちょっと怖い印象のある果物。主人公の想像と現実が曖昧になるラストが効いています。
読んでいて辻村深月さんの「ふちなしのかがみ」に収録されていたブランコのお話を思い出しました。
現実だとしたら彼女の身に起きている出来事は・・・うわぁ(>_<)



タイトルや装丁は児童書のような体裁ですが、中身は完全に大人対象です。日常の中に潜む、
ちょっとした悪意や毒が見え隠れして、ひやりとした怖さを感じる短編集でした。