ミステリ読書録

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東川篤哉/「ここに死体を捨てないでください!」/光文社刊

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東川篤哉さんの「ここに死体を捨てないでください!」。

大手中小企業『中島仏具』のOL、有坂香織は、仕事中に妹の春佳から電話を受ける。春佳は、自分
の部屋で、見知らぬ女性を殺してしまい、死体をそのままにして宮城県の仙台に逃亡していると
いうのだ。妹のピンチを救う為、即行で早退し、妹の部屋に向かった香織は、血まみれの状態で
死亡している見知らぬ女性の死体と体面することに。香織は、事件を隠蔽する為、死体を誰にも
知られず捨てに行くことを決意。そこでおあつらえ向きに一人の若者と出会い、弱味を握って
協力させることに。一方、二宮朱美の所有する黎明ビルで探偵事務所を営む鵜飼杜夫は、前日に
電話を受けた依頼人の到着をオフィスで待ち受けていたが、一向に現れる様子がなかった。前日の
不穏な電話に依頼人の身に何かあったのではないかと危惧した鵜飼は、朱美と弟子の戸村流平を
連れて依頼人の電話の中に出て来た猪鹿村のクレセント荘というペンションに向かった――烏賊川
市シリーズ最新作。


とっても楽しみにしていた東川さんの新刊。どれくらい楽しみにしていたかというと、同時に予約が
回って来た柳さんの『ダブル・ジョーカー』や、辻村さんの新刊『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』を後回し
にして、真っ先に手に取るくらい、個人的に贔屓にしている作家さんです。新刊が出たら内容如何
に関わらず絶対読むと決めているので、今回の作品の予備知識とかが一切なかったため、烏賊川
市シリーズだったのは、思わぬ嬉しい誤算でした。単行本だったからてっきりノンシリーズだとばかり
思っていたので。
今回は、シリーズ前作の交換殺人には向かない夜よりは大分すっきりした構成。『交換~』の
凝った複雑な構成にも随分感心させられたものですが、本書では構成の複雑さがない分、メインの
トリック一本で勝負してきた感じ。でも、今回もゆるーくとぼけたバカミス風を装いながら、謎解き
を読むと伏線のきっちり張られた本格ミステリであるところは健在。お笑い要素に騙されていると、
ラストでまんまと作者の術中にはまってることに気づくんですよね。いつも。ほんと、この笑いと
ミステリの絶妙なバランスには毎回感心させられます。
今回の作品は読んでいて、アンジャッシュのシチュエーションコントを彷彿とさせました。特に
鵜飼と鉄男がお互いにお互いを○○○だと誤解し合うくだり。巧い!と膝をたたきたくなりました。

しかし、毎度のこととはいえ、今回ものっけからツッコミ所が満載です。そもそも、自分の部屋で
人を殺して、気が動転したからって死体そのままにして仙台に逃げるって、どういう神経なんだよ!
とか、その妹を助けるためだからって、赤の他人巻き込んで、死体運搬させるってあり得ない
でしょー!とか、言い出したらキリがないくらい、めちゃくちゃな設定で話は進んで行きます。
でも、東川ファンにとって、そんなことは瑣末なことなのです。多分、他の作家が同じようなことを
書いたら私も激怒すると思う。でも、なぜか東川さんなら許せてしまうのです。なぜだ。わからん。
常識からかけ離れた設定が面白いと受け入れられてしまう・・・これぞ必殺、東川マジック
所々に挟まれるギャグ要素がまたいちいちツボにはまって、ついつい何度も噴き出して
しまった。いつもゆるいギャグには苦笑はしても実際に笑ったりすることはそんなになかった
のだけど、今回はかなりギャグが冴えていたのでは・・・私の笑いのツボが変わっただけ?^^;
でも、終盤に出てきたエグザイルはほんっとーーーーーに、ツボにはまった。その光景を頭に
思い描いたら、もう・・・涙出ました。あ、あほすぎる・・・。あの緊迫した状況で、よくぞやって
くれました!って感じでした。ひー。あー、お腹痛かった・・・。やっぱり、烏賊川市シリーズ
最高です。私が考えた東川作品のコピーをひとつ。

このばかばかしさ、一級品。

・・・ダメ?^^;

ところで、一作ごとに流平君の扱いがひどくなって行く気がするのは気のせいでしょうか・・・。
砂川警部の志木刑事に対する扱いも酷かったけど^^;朱美さんの鵜飼探偵へのツッコミは今回も
冴えわたっています。でも、なんだかんだ暴言を吐きつつ、鵜飼探偵のことが気になるみたいですね。
将来恋愛要素が出てきたりすることあるのかなぁ・・・ないだろうなぁ・・・(笑)。

いやぁ。面白かったぁ。やっぱり、東川さんの作品は烏賊川市シリーズが真骨頂だと思います。
タイトルもインパクトあっていいですよねぇ。内容よく考えると「・・・ん??」って気もするん
ですが^^;
ゆるくてアホなバカミスをお求めの方、自信を持ってお薦めいたします。でも、寒いギャグセンスに
拒否反応がある方、あり得ない非常識な設定が許せない方、手を出すのはやめておきましょう。
もちろん、東川ファンなら文句なく楽しめる一作。問答無用で読みましょう。