貫井徳郎さんの「後悔と真実の色」。
神楽坂の路地裏の空き地で、若い女性の惨殺死体が発見された。死体は右手の人差し指が切断
されていた。警視庁捜査一課の若きエース西條輝司は、通報を受けて駆けつけた死体の第一発見者
でもある交番勤務の大崎巡査とコンビを組み、鑑捜査の担当になる。成果の見込みのない鑑担当に
されたことで不満を覚える西條は、密かに人を使って他の担当の捜査内容を探ろうとしていた。
捜査が続けられる中、再び第二の殺人事件が起きた。死体は同じように滅多切りにされ、右手の
人差し指が切断され、持ち去られていた。そして、インターネットの掲示板で、犯人と思われる
人物から第三の犯行を予告する書きこみが――自らを「指蒐集家」と名乗る事件の犯人の素顔
とは?更に、錯綜する事件の裏で、西條を陥れる陰謀の影が――傑作長編ミステリ―。
貫井さんの新刊。なんとなく大まかなあらすじがこの間読んだ福田栄一さんの「狩眼」と
似ています。なぜか最近いやに警察小説づいている気がします。どうも、今年の流行りは
司法やら刑法が絡んだ社会派に傾いているような。やっぱり、裁判員制度がスタートした
せいもあるんでしょうか。本書も割とストレートな警察小説。といっても、途中からある
人物の身上が変わるせいで、がらりと雰囲気を変えるのですが。出だしは貫井作品にしては
めずらしくテンポが遅く感じてなかなか乗れずにいたのですが、先述したある人物の身上が
急変する辺りから俄然面白さが加速して、そこからはノンストップで最後まで読みふけって
しまい、気がついたら夜中の三時になってました・・・^^;;出だしで躓いたのは、視点が
次々変わり、それぞれの人物があまり好感が持てないタイプばかりだったからかも。中心人物
である西條自身のキャラも、場面場面で印象が変わり、いまひとつ人物像が定まらずにいたし。
警察での西條と、家庭での西條があまりにもギャップがあるのも引っ掛かりました。西條の妻・
秋穂は最初から最後までよくわからない人物でした。名前といい、性格といい、これはもろに
東野さんのステロタイプのファムファタルそのものだなぁと思いました^^;秋穂ってキャラ、
どっかで出てきませんでしたっけ??あれは雪穂か?^^;
基本的に警察小説が苦手な私でもぐいぐい読まされてしまうところはさすがだと思いましたが、
ミステリーとしては貫井さんにしてはひねりがなかったのが残念でした。指蒐集家の正体は
かなり早い段階で気がついてしまい、まさかそのまんまじゃないよなぁと思いながら読んで
いたのですが、そのまんまでした・・・^^;終盤の展開もほとんど予想通りで、もう一つ
どんでん返しのような驚きがあると良かったなぁと思いました。読み応えはあるとは思いますが、
この真相だったら500ページもいらなかったんじゃないかなぁ。ただ、本書の読みどころは
ミステリ以外の、警察内部の人間関係の軋轢や、駆け引きなんかにも比重が置かれていると
思うので、この長さになってしまったことも肯けるのですが。警察内部の身分の上下関係に
よって生じる軋轢なんかは、非常にリアリティがあって、それだけに嫌な気分になりました(苦笑)。
刑事なんてみんなそれぞれに腹に一物抱えてるものなんですかねぇ。でも、中でも、綿引のキャラは
秀逸でした。最初は最悪の印象しかなく、彼のせいで西條は酷い目に遭ってしまうけれど、
自分のやったことを認めて罪滅ぼしをしようとする綿引生来の生真面目な所は好感が持てました。
非常に複雑な心中を抱えた彼の内面描写は胸に迫るものがありました。出世をしたいという出世欲
まる出しの所も、彼の家庭環境を知れば納得できるものでしたし。終盤の、ライバルの為に手を
尽くそうとする綿引の言動には読んでいて嬉しくなりました。綿引がこの後出世できるのかどうかは
非常に気になる所です。出世させてあげて欲しいなぁ。苦労している母親と障害を抱えながらも
明るい息子、そしてそんな家族を大切にしている綿引自身も、もっと幸せになって欲しいです。
先に述べたように、最初はストレートな警察小説なのですが、途中からある人物の身上が変わり、
その人物の焦点を当てたエンタメ小説になって行きます。この辺りは好みが分かれるところかも
しれませんが、私は後半の方が断然面白かったです。まさかあの人物があそこまで・・・!という、
転落人生にびっくり。でも、終盤ではしっかりその人らしい活躍で人生を立て直して行くところが
良かったです。タイトルの後悔は、その人物の後悔でもあり、綿引の後悔でもあるんでしょうね。
真実の色、の方がいまひとつ意味が掴み切れてませんが^^;
読み応えたっぷりの社会派エンターテイメント小説でした。面白かったです。ただ、今年一冊
選ぶとしたら、やっぱり『乱反射』の方かなぁ。あれもラストは尻すぼみな印象ではあったの
ですが、どちらがより読ませる力があったかと考えると、あちらに軍配が上がるかな、と。
でも、やっぱり貫井作品は何を読んでも水準以上の面白さがありますね。大好きです。