ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

初野晴/「初恋ソムリエ」/角川書店刊

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初野晴さんの「初恋ソムリエ」。

春休み。入学前の物品購入や制服の採寸の為に学校にやって来る新入生たちを狙って、各部活
勧誘活動に必死だった。というのも、今年度は一年生のクラスが一つ減ってしまう為、遅れを
取って新入生獲得にしくじると、弱小部にとっては死活問題となるからだ。もちろん、弱小
吹奏楽部員の穂村千夏もその例に洩れず、女子ばかりの吹奏楽部に男子部員を引きいれる為、
必死の勧誘活動に勤しむのだが、首尾は上手くなかった。そんな春休み、吹奏楽部の面々は
広い校内に散らばって個人練習をしているのだが、吹奏楽部のエースであるハルタ、マレン、
成島さんの三人は、時々合図を出し合ってアンサンブルの即興をしていた。そのアンサンブルに
ある時から、クラリネットの音が加わるようになった。その音の主は、プロを目指し、幼い頃
から英才教育を積んだ破格の実力の持ち主だった。チカは、なんとしてでもその人物を吹奏楽
に引きいれようと勢い込むのだが――(「スプリングラフィ」)。『退出ゲーム』待望の続編。


楽しみにしていた初野さん新刊。退出ゲームの続編です。期待に違わずとっても楽しかった
です。全体的にミステリ色が大分薄れてしまったのは残念でしたが、出て来る新キャラたちが
ことごとくひと癖もふた癖もある個性的な人物ばかりで、チカとハルタの周りはますます賑やかに。
一人ずつ吹奏楽部に実力のある部員が増えて行くところは今回も同様。一人、『スプリングラフィ』
で初登場した芹澤さんだけは残念ながら部員にはなってもらえませんでしたが。でも、四話目の
表題作『初恋ソムリエ』のラストを読むと、なんとなく、彼女が吹奏楽部の一員になる日も
そう遠くないのでは・・・という印象を受けましたが、どうなるでしょうか。

チカとハルタのコンビネーションは更に絶妙になって、かけあい漫才のような会話が楽しくて、
にやにやしっぱなしでした。幼馴染にして、親友でもあり、一人の男性を巡るライバルでもあり。
異性同士だけど、恋愛感情が挟まないだけに、ほんとにいいコンビ。二人の関係、すごく好きです。
特にチカちゃんのキャラは最高ですね。彼女の草壁先生や吹奏楽への想いは、こちらが恥ずかしく
なるくらい、一直線で熱い。こんな風に猪突猛進で何かに突き進んで行けたら、学生生活も意義
あるものになるだろうなぁって思う。それだけに暴走しがちですが、そこを抑えるハルタ
いるから大丈夫。それに、新キャラの芹澤さんもストッパーになってくれそうな気配。周囲の人
からことごとく可愛がられるのも、チカちゃんの愛すべきバカ正直さゆえでしょう。のっけから
『男だ。男がほしい』には噴き出しましたよ・・・(笑)。

ただ、前作でもそうだったのですが、チカやハルタはなぜあそこまで草壁先生に入れ込むのか、その
辺りの気持ちがちょっと理解できないんですよね。多分、恋に落ちたきっかけとなるそれぞれの
エピソードがあるのだろうけど、そこが明らかにされてないので、どうも恋愛部分が上滑りして
いるように感じてしまうというか。今回は草壁先生自体の出番も少なかったので、恋愛部分は
ほとんど進展がなかったですし。草壁先生の人物造形はもう少し掘り下げて欲しいですね。



以下、各短編の感想。

『スプリングラフィ』
ミステリ色がほとんどありません。しいて云えば、芹澤さんがなぜ春休みに音楽準備室に来たのか、
って部分でしょうか。あっさり謎が解かれちゃいますけど・・・^^;芹澤さんの紹介みたいな
意味合いの作品だったのかな。今時糸電話ーー!とちょっと笑ってしまいましたが、実際に
使われる場があるんですね。タイトルは、糸電話を応用して考案された楽器『ストリングラフィ』
と春のスプリングをかけているのかな。

『周波数は77.4MHz』
チカとハルタが聴いていたローカルラジオ番組に出演していた人物たちの正体は意外でした。
かなりご都合主義的な部分もありますが、面白かったです。高校生が稀少価値のある宝石を
市内の歴史をたどることで探り当てるっていうのは、どうも荒唐無稽なような気もしました
が・・・^^;でも、カイユのキャラがいいですね。

『アスモデウスの視線』
担任教師が一か月の間に三度席替えをした理由の真相は、かなりえげつないです。直接の原因
となった生徒は、結局なぜそれをしたのでしょうか。それに、大河原先生の身体に○○があった
理由も端折られたままだし。その辺りは、敢えてぼかしているのかもしれませんが。全てを
語らないのが初野さんらしいのかもしれませんが、ちょっと消化不良でした。
それにしても、携帯の機能にそんなものがあるなんて、怖い。これって本当なのかな?いくらでも
悪用できちゃいそうですけど・・・。

『初恋ソムリエ』
初恋を鑑定する初恋ソムリエ。もう、この設定だけで笑えますね。まぁ、個人的には初恋はそっと
しておきたい派かなぁ。今更会って当時の記憶を呼び起こしたところで、いいことなんてない
気がするけどなぁ。想い出の中にあるからこそ、初恋は美しい。ロマンチストのたわごとです。
真相はかなり苦い。でも、エスペラント語であだ名をつけて呼ぶところなんかは、いかにも
初野さんらしい設定で面白かったです。エスペラント語でいうと、わたしはベルーオになるの
かな~(笑)。



ミステリ部分が弱くなったのは残念でしたが、吹奏楽部を軸にした青春小説として十分楽しく
読めました。次作、チカたちの吹奏楽部はついに普門館出場となれるんでしょうか。三角関係
の行く末も気になるし、更なる続編を期待したいところです。