ミステリ読書録

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「風が強く吹いている」

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「風が強く吹いている」



<あらすじ>
寛政大学4年生のハイジはある日、貧乏な新入生カケルを陸上部の寮・竹青荘に連れてきた。
カケルはかつて天才ランナーと呼ばれたが、今は陸上部に所属していない。竹青荘の寮長も務める
ハイジはカケルに対し、陸上部入部などを条件に家賃格安の竹青荘への入寮を許可。そして
ここからハイジの野望が始動する。それは寛政大学陸上部で箱根駅伝に出場すること。ハイジは
長距離専門の竹青荘メンバーらを徐々にその気にさせていき……(あらすじ引用)。


一部の方には「観に行くつもりはない」宣言をしてしまっていたのですが、諸事情あって急遽
観に行ってきました^^;今回も選択肢がこれと「スペル」しかなくて、「スペル」も気に
なってはいたのだけど、絶対観たらおばあちゃんがトラウマになりそうな気がしたので、
爽やかに観れそうなこちらにしました(笑)。ほんとは明日以降だったら阿部サダヲ主演の
映画とか、「ゼロの焦点」とか候補がいくつもあったんですけども^^;

原作は三浦しをんさんの同名小説。ご存知の方も多いと思いますが、大変気持ちのいい爽やかな
読後感の傑作青春小説です。原作が大好きな作品なので、あの終盤の駅伝シーンの疾走感を
どう表現するのかなぁと少々不安に思っていたのですが、素晴らしい臨場感で原作同様、
選手たちと箱根駅伝を走り抜けた気持ちになれる映画でした。
原作を読んだのが大分前なので、どの辺がどう変えられているのか、とかの比較はできなかった
のですが、細かい部分は随分設定が変わっていたようです。私も、導入部はかなり端折られて
いるな~と思いました。竹青荘の住人たちがみんなで箱根を目指して一致団結するまでが
異様に早い。原作ではもうちょっと紆余曲折あったと思うのですが・・・。
その辺りの展開の早さは、二時間ちょっとで原作一冊分をまとめなければいけないので仕方の
ないところだろうとは思うのですが、映画だけ観た人にはちょっとご都合主義的に感じて
しまうかもしれません。
とはいえ、原作にはない要素もちらちらと盛り込み、笑いと涙の場面を絶妙なバランスで
配置していて、とても良い映画になっていると思いました。特に、寛政大陸上部のマスコット
になった呪いの人形の使い方には大ウケ。ちっちゃいたすきをかけてるところが妙にラブリーで、
なんとも微笑ましい気持ちにさせてくれました。『呪い』の人形だけど(笑)。

個人的にはハイジ役の小出恵介君はあまり好きな役者ではなく、今回のキャストを聞いた時
かなり不満を覚えていたのですが、映画を観たら、実にハイジにぴったりないい演技をして
いたので、認識を改めさせられました。走るところも、かなりこの作品の為に走り込んだのが
わかるフォームで良かったと思います。みんなから愛される、青竹荘の「お母さん」みたいな
ハイジを巧く演じていたと思います。
でも、今回目を瞠ったのはなんといっても走役の林君。実は、今回観るまで全くその存在を
知りませんでした^^;名前みて、なんだ、この無名俳優は?とか、失礼なことを思って
いました(汗)。でも、どうやら業界では話題の若手俳優だそうで。しかも、『DIVE!』にも
出ていたんですね~!誰役か知らないけど・・・。
顔はそんなに好みじゃないんだけど、大きな瞳が印象的で、一度観たら忘れられない目力の強さ
を感じました。ナイーブで気の強いカケル役を見事に演じていたと思います。
しかし、何より特筆すべきなのは彼の走りの美しさ。上体のブレない、スピード感あふれる
足運びは、まさにカケルの走りそのものに感じました。細いけれども引き締まった筋肉のついた
身体も、陸上選手そのもの。原作読んだ時、ハイジが心底惚れ込んだカケルの美しい走りを実際
見てみたいなぁと思ったのだけど、その理想の走りを見事に表現してくれたと思いました。
欲を云えば、カケルが9区を走った時のランナーズハイの部分をもっと劇的に表現して
欲しかった。カケルが、他人には到達しえない頂点に達した素晴らしい名場面だと思うので。
その最大の山場のシーンをあっさり流されちゃったのがちょっと残念。でも、原作同様、走ることや、
10人で襷を繋げることの素晴らしさを味わうことのできる、素敵な青春映画でした。原作ファン
でも十分満足の出来栄えになっているのではないかな。竹青荘のメンバーたちも一人一人見せ場
があって、それぞれの個性を引き出していて良かったです。

思った以上にとても良かったです。観終わって晴れ晴れとした気持ちになれました。
ただ、一点気になったのは、ラストでみんなが久しぶりに竹青荘に集まるシーンなのですが・・・
これは一体何年後の話なんでしょう?みんなで「久しぶり」って言い合ってるってことは、
みんな竹青荘を出ちゃってるってことでしょうし。なんで集まったのか、とかの説明も一切
ないので、ちょっと唐突に感じてしまいました。原作にないですよねぇ、こんなシーン・・・
(ラストって、どうやって終わったんだっけ?^^;)。同窓会みたいな感覚で集まったって
ことなのかな。
走るシーンの臨場感や疾走感を十二分に味わえました。来年の箱根駅伝を観る時は、今度は
映画の青竹メンバーを思い出してしまいそうです(笑)。
原作ファンなら観て損はしない映画でしょう。おススメ。