ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

渡部建/「エスケープ!」/幻冬舎刊

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渡部建さんの「エスケープ!」。

大学4年のシュウは、大して未来もなさそうな中小企業に就職が内定し、残り僅かの大学生活を
のんびりと過ごしていた。付き合って4年になる彼女のチカゲは、就職が決まった今、そろそろ
結婚をせがんできそうな気配だ。このまま結婚して将来を平穏無事に過ごして行くのだろうか・・・。
チカゲは最近、大金持ちのお嬢様の友人が出来たらしく、金持ちを羨む発言をする。そんなシュウ
の眼にとまったのが、たまたま買った雑誌に載っていた「プロが語る!空き巣手口のすべて!」
という特集記事。そこには、空き巣への防犯意識を高める為に、空き巣のさまざまな手口が
載っていた。そして、そこには空き巣が狙いやすい家の条件が載っていた。その条件にぴたりと
当てはまるのがチカゲの金持ちの友人・フーちゃんの家だった。それに気付いたシュウは、天啓
の如くに、フーちゃんの家に空き巣に入る計画を練り始めた。そして実行日当日、フーちゃんの
家に忍び込んだシュウは、思いがけない出来事に遭遇する羽目に――!


芸人本第二弾。アンジャッシュ渡部さんの初小説。もともと、アンジャッシュのコントは大好き。
どちらかというと、その緻密な伏線と構成の妙に感心してしまい、笑いが置き去りにされて
しまったりするので、コントを観ているというよりは、演劇を観ているような気持ちにさせられる
のですが。かねてから、小説書いても面白そうだよなぁと思っていたので、刊行するという情報を
聞いて、読むのを楽しみにしていました。地元図書館で早々に予約したものの、蔵書一冊であと
10人待ちという状況でまだまだ読めそうになかったのですが、またも隣町図書館の開架で発見。
またも幸運に恵まれました。いつもありがとうございます、隣町図書館様。

というわけで、本書。まさしくアンジャッシュのシチュエーションコントそのまんまって感じの
作品でした。出だしは文章が危なっかしくて、ちょこちょこ引っ掛かりながら読んでいたのですが、
文章に慣れて来たら面白さも倍加。ちょっとしたボタンの掛け違いで大きな勘違いを生んでしまう、
あの掛け合いの面白さで最後までテンポ良く読み終えられました。全体の展開はほとんどが先が
読めてしまうのだけど、それでも、特殊な状況に置かれた人物たちの、認識の違いから来る心情の
ズレが巧く描かれていて、面白かったです。緻密に張り巡らされた伏線が後々効いてくるところも
ニクイ。伏線自体はあからさまなので、ラストでそこに触れられないままだとかなり消化不良に
感じるところなのですが、きっちり全てが回収されてすっきりしました。さすがにその辺りは
普段のコントでお手の物って感じなんでしょうね。手慣れてる処理の仕方だなぁと思いました。

一点、気になっていた個所があったのですが、それがラストのオチに使われていて「なるほど~!」
って感じでした。他はほとんど予測できたのですが、このオチだけは予測できなかった。ただ、
そうなると、自分のアレは手に持って帰ったってことなんですかね。なぜ、主人公のアレが問題に
ならなかったのかなぁと疑問に思っていたので、すとん、と腑に落ちました。巧い!座布団一枚!
ちゃんと、ラストできっちりオチをつけるところは芸人さんならではなんでしょうけどね。

まぁ、いつものアンジャッシュのコントをちょっと長めにしたような作品といえば、それまで
なんですが、構成の巧さはやっぱりさすがだな、と思いました。文章的にはまだまだこなれて
いない未熟さを感じるものの、この緻密な構成の妙は渡部さんの強みだろうな、と思います。
コントのシナリオそのまんまってご意見もありそうですが、私は一冊の小説として十分面白く
読めました。ちょっとわかりやすすぎるきらいがあるので、もっと話の筋を複雑にして、先の
展開が見えないような作品を書いたら、傑作が生まれるかも。ミステリだって書けそうだと
思うんだけどな。挑戦してくれないかなぁ。
このライトさ、読みやすさが良くも悪くも芸人本らしいのかもしれないですけどね。