ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「球体の蛇」/角川書店刊

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道尾秀介さんの「球体の蛇」。

一九九二年、秋。一七歳の私は両親の離婚が原因で、隣家のよしみで居候をさせてもらっている
『橋塚消毒』の社長・橋塚乙太郎さんと供に、アルバイトと称して白蟻駆除の営業に回っていた。
その中の一軒に、私が住んでいる家の界隈では珍しい程立派な家があった。その家の床下を査定
すると見事に白蟻に喰われており、橋塚消毒は、白蟻消毒の仕事を請け負うことになった。その家で、
私は一人の女性と出会う。その人は、私が乙太郎さんの家の前で度々見かける憧れの女性だった。
彼女に再び会いたいと思った私は、夜中にその家に忍び込み、床下に潜った。すると、彼女と
その家の主人が愛人関係にあることを知る。それから私は度々夜中に抜け出しては床下に潜り、
彼女と主人の情事を盗み聞きするように――そして、ある日いつもの如くに床下に忍び込んだ私は、
きな臭い臭いに気付く。どこかから火の手が上がっているのだ・・・!パニックになった私は
急いで逃げ出すが、家に戻る途中の漁港に近い路地の入口で、火事の様子を見守る『彼女』の
姿を見た――青く暗くきらめく、青春の痛みを描いた傑作小説。


道尾さん新刊。実はその前に読もうとしていた本があったのですが、こっちを借りてきたら
我慢できずに読み始めてしまい、止められなくなって結局一気読み。読みやすい文体っていうのも
あるけど、ついつい先が気になって息をするのも忘れて(大げさ)読みふけってしまいました。
最近の道尾作品は、ミステリ要素よりも人間の心理描写の方に重点を置いて書かれるように
なってきていると感じていましたが、本書はまさにその頂点にあるような作品。ミステリ的な
要素はほとんど皆無と言ってもいいかもしれません。終盤で明かされる思わぬ事実みたいなものは
あるのですが、それも推測の域を出ず、純粋なミステリ要素ではないと思うので。ジャンル分け
すると、青春小説に入るでしょうか。ただ、一人の高校生の過ちと後悔という負の感情が中心な為、
作品全体に終始陰鬱な影を落としていて、高校生が主人公の割に爽やかさというものはかけらも
ありませんが・・・。

とてものめり込んで読めたものの、作品自体は正直好きではありませんでした。というのも、
とにかく主人公の友彦の言動に一切の好感が持てなかったから。青い高校生の言動だと笑い
飛ばせる域を超えているので、なんだかいちいち反感を覚えながら読んでました。床下に
忍び込んで情事を盗み聞きするってところからして引いたし、居候させてもらってる乙太郎
さんと気まずくなった後の態度も嫌だったし、何より自分の過去の行動を棚にあげて、その場の
激情からある真実を知った友彦が智子につきつけた言葉に腹が立ちました。それが作品のキモと
なって行く以上、作品に必要な要素だったことはもちろんわかるんだけど、若さに任せてなのか、
絶対言ってはいけないであろう暴言を平気で吐き散らす彼に吐き気がする程の嫌悪を覚えました。
とにかく、一つ一つのエピソードがどれも嫌な気分を起こさせるものばかりで、鬱々とした感情を
抱えながらの読書となり、精神的にちょっとしんどかったです。最初は主人公と乙太郎さんの
関係とかすごくいいな、と思っていたのに、途中でそれをぶち壊しにしてくれちゃうし。乙太郎
さんのやったことにもがっかりしたけれど、そのことで二人の仲が決定的に壊れてしまったのが
悲しくて仕方なかった。これが若さなのかもしれないけれど、四年間もお世話になっておいて、
その態度?って思っちゃいました。結局、友彦って激情型の単なるガキんちょなんだと思う。
智子との交際に口出しをしたナオに対する態度もそうだし。欲しいものが手に入らなくなりそう
になったら、周りにイライラと当たり散らす。おもちゃが手に張らなくてぐずって泣く子供と
一緒。なんかもう、いちいちムカつきました。サヨに対する結婚発言もそうですけどね。人を
思いやるってことのできない人間の発言ですよ、あれは。本人だって反省はしてたけどさ。
でも、そんな出来事があっても、一七歳の友彦が全く成長してないところが痛い。とにかく、
友彦には最後まで全く感情移入できないままでした。

ただ、終盤、星の王子様のあるシーンと絡めて真実に気付かせる辺りはやっぱりさすがに
読ませるなぁと思いました。スノードームの使い方も秀逸ですね。スノードーム、私の部屋
にもリサとガスパールのやつが飾ってあるけど、内側とか外側とか、考えたことなかったなぁ。
ひっくり返すときらきらして、綺麗で癒されます。
友彦は、結局球体の内側で守られた存在だったんでしょうね。本人だけがそれに気付いてなかった。
この作品で一番大人だったのって、ナオなんじゃないのかな。でも、彼女が語った『真実』だって、
本当かどうかはわからない。それが真実だとしたら、サヨの人物像が一番の謎。彼女がもし
あのまま生きていたら、一体どんな悪人になったのだろうと思うと、慄然とします。もしかしたら
友彦のことを殺していたかも・・・怖っ。
友彦は、自分の過ちを知って、一生後悔と悔恨を背負うことになった。これはもう、自業自得
としか言いようがない。消えない罪を抱えて、一生を生きるしか。若いって残酷だな、と
思いました。

終始嫌な気分で読み進めていたので、ラストは少し光があって良かったです。彼女は絶対
友彦のことを好きなんだろうと思っていたので。ただ、この展開、某アンソロジーで読んだのと
一緒だったので、ちょっと新鮮味はなかったです。いや、こういう展開好きなんですけどね。
でも、こういう形にするなら、もう少しそれに到るエピソードも書いて欲しかった気がしますが。
なんか、唐突すぎる感じもしたので・・・^^;
面白かったのは確かなのですが、やっぱり私はもう少しミステリ的な驚きがあって欲しかったな。
心理描写は一作ごとに巧みになって行く気がするけど、ここまでマイナスの感情が強い作品だと
読むのがしんどい。せめて一人くらいは『いい人』を登場させて欲しいです・・・。
作品としては、巧くまとまっているし、読ませる力はやっぱり素晴らしいものがあるな、と
思いました。でも、好きな作品かどうか聞かれたら、好きとは答えないなぁ、多分。