ミステリ読書録

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綾辻行人/「アヤツジ・ユキト 1996 - 2000」/講談社刊

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綾辻行人さんの「アヤツジ・ユキト 1996 - 2000」。

1996年から2000年までのエッセイや解説、推薦文、あとがき、アンケートへの回答など、
『小説以外』の文章を網羅した雑文集。ファン必読の綾辻行人回顧録


えー、読み始めた小説もあったのですが、どうも前二作のせいで調子が出ず、軽く読めるものを、
と思って借りてきていた綾辻さんの雑文集に手を出してリハビリ。うーん、面白かった。
1996年から2000年までに発表された小説以外の文章を総まとめにした綾辻回顧録
懐かしい作品のあとがきや、いろんな作家さんの作品解説、横溝賞や鮎川賞の選評、どれを
取っても綾辻さんらしい作品への苦言や愛が感じられて読んでいて気持ちがいい。面白い
小説が書ける人はどんな文章を書いても面白い。実はブログを始める前はこうしたエッセイやら
著者の解説集なんかはほとんど読まない人間だったのだけど、読んでみると、その作家の意外な
素顔や日常が垣間見えて楽しくて、今はちょっと病みつきになってます。

今回意外だったのは、綾辻さんがものすごーく麻雀好きだってこと。しかも、腕前も相当らしい。
出版社主催の麻雀大会なんてものが存在するのも知らなかったけど、なかなか伝統あるちゃんと
した大会らしく、綾辻さんは現在休止中のその麻雀大会の最後の優勝者なんだそう。この優勝
までには長い長い道のりがあって、優勝した時の喜びは日本推理作家協会賞を受賞した時より
大きかったのだとか。おいおい。

それにしても、この期間、どのインタビューでも書き始めた「暗黒館」の先行き不安を口にして
います。それというのも、最大の原因はRPGゲームソフト『YAKATA』の制作に関わっていたせい。
あの期間、あそこまで寡作だった理由はこれだったか・・・と思いました。毎年のように新作が
出ない出ないと喚いていた読者側としては、内心忸怩たる気持ちを抱えていたのだけれど。まぁ、
多分小説以外の仕事が多かったんだろうな、とは思っていたのだけれど、まさかそこまでゲーム
制作にかかりっきりになっていたとは。まるまる三年半、この『YAKATA』に携わっていたそうです。
発売された時やってみたいなぁと思ったのだけど、その出来栄えはどうだったんでしょうか。
ブック○フとかで売ってるかしら。

一番驚いたのが、p18の『ミステリー映画ベスト3』の筆頭に、私が学生時代に観ていまだに
トラウマになっている『サンタ・サングレ』が挙げられていること。しかし、今思うと世界観
なんかは確かにいかにも綾辻さんが好きそうでした・・・グロいくせに、変に映像美を意識
してる感じもあって、マニア受けしそうな映画だったので。結構、ホラー映画界では有名な作品
のようで。映画に関しては、後半、p290の『愛すべき「バカ」作品』の三つ目に出てきた
『キラー・デンティスト』も、実家にいた頃なんとなくWOWOWつけてたらやっていて、
タイトルが気になって観てみたら、あまりのバカさに呆れた覚えのある作品だったので驚きました。
確かにバカだった・・・。

いろんな作家さんのあとがき解説も興味深かったです。私はもともと綾辻さん推薦という文字に
めっぽう弱くて、綾辻さんが推薦してるなら無条件で手に取ってみようって気になります。
なんとなく、綾辻さん好みの作品って、自分も好みのことが多いので。それで読んではまった
作家も結構多い。筆頭をあげると道尾さん乙一さん。どちらも、綾辻さんが絶賛していたなぁ
と思って興味を引かれて手に取ったことが始まりでした。先見の明があるなぁ。恩田さん
綾辻さん推薦がきっかけではないのだけど、六番目の小夜子綾辻さんがそんなに絶賛
していたとは知りませんでした。知っていたら、もっと早く恩田さんと出会えていたのになぁ
(結局、恩田さんとの出会いはその後に出版された『三月は深き紅の淵を』だったのでした)。

取り上げたい話題はいっぱいあったんだけど、全然書ききれない^^;ちょっと嬉しかったのは
皆川博子さんのエピソード綾辻さんの作風なら当然皆川ファンだろうということは推して知れる
訳なのですけれども、お二人は東京の『母』と京都の『息子』というような親しい間柄だそうで、
綾辻さんは大変皆川さんを慕っておらるそう。皆川さんはめっぽう機械ものに弱く、ビデオデッキ
さえも使えなかったそうなのですが、ある年ついにPCを導入されて、綾辻さんのPCに突然メールが
送られてきた時は大層驚かれたそうです。しかもお茶目な文章で顔文字さえもが使われていた
というのだから、皆川さんってほんとに茶目っ気のある可愛らしい方なんだろうなぁとほのぼの
した気持ちになりました。それにしても、皆川さんって、ほんとにたくさんの作家さんから
愛されてる作家なんですね、beckさん。いろんな作家のエッセイにしょっ中名前が出て来るって
ことは、それだけ顔が広くて作家仲間からも尊敬されている証拠なんだろうな、と思いました。

いろんなメディアから映像化や舞台化のお誘いがかかる綾辻作品ですが、ドラマ化に関しては
やはり苦い思い出があるようです。話には聞いていたけれど『霧越邸殺人事件』のドラマ化は
本当にひどかったらしい。あんな長い作品を二時間ドラマにすること自体が無理がある気が
するけれど、とにかく原作なんてどこにあるのかって位の脚色っぷりだったそうで、本人相当
不満があった模様。その前例があるせいで、『鳴風荘事件』のドラマ化の声がかかった時の
綾辻さんの製作者サイドへの対応がいちいちおかしかった。原作者の意向を無視して勝手に
作品を変えてしまう製作者側には呆れましたけど。テレビってそういうもんなんですかねぇ。
ここはこう変えます、とかの許可とかないんですねぇ。ファンからだって苦情きそうなのにな。

本書を読んでとりあえず長年読まずに本棚の肥やしになっていた『眼球綺譚』を早く読まねば、
という気になりました。『殺人鬼Ⅱ』は、まぁ、いつかそのうち・・・。

綾辻さんが『この世でもっとも怖いもの』があの黒くおぞましい昆虫ってところは意外でした。
ホラーが大好きな綾辻さんでも、怖いものは現実的なんですね(笑)。いや、もちろん大いに
共感できるところではありますけれど。ほんとに、あいつらがいなくなったら、どれだけ日本は
平和になるんだろう・・・。北海道にアイツらがいないってのは本当なんでしょうか。私も
気になります。

ああ、まだまだ取り上げたいことがいっぱい。犬好きから猫好きに転んだ話とか、楳図かずお
への愛とか鮎川哲也先生と会った話とか笠井さんの『哲学者の密室』への賛辞とか・・・どれを
取っても楽しく読めました。綾辻さんの作家としての歴史を駆け足でおさらいした感じ。続きの
2001-2006の方も早く読もうと思います。うーん、いいリハビリになった(笑)。
どこを読んでも本格とホラーへの愛に溢れています(+麻雀とゲーム(笑))。
やっぱり綾辻さんの文章が大好きです。
お願いだから、次の館シリーズ『奇面館の殺人』早く書いて下さいね。ほんとに。