ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大村友貴美/「霧の塔の殺人」/角川書店刊

大村友貴美さんの「霧の塔の殺人」。

岩手県の小金牛村と住田町の境にある雲上峠の展望台のベンチで切断された男の頭部が発見
された。遺体の身元は地元の名士で、村唯一の漁協、刺子田漁業協同組合の長で、漁師たちに
絶大の権力を持っていた。故人と確執のある一人の人物が浮かび上がるが、決め手がなかった。
捜査が続く中、再び雲上峠で切断された男の頭部が発見される。魁時新聞の若手記者・一方井将棋
が見た事件の真相とは――。



すみません、またしても結構な黒べる子記事になっちゃってます・・・。
以下の記事を読むかどうかは自己責任でお願いします。
気分を害されたらすみません^^;;;





大村さんの三作目。これは藤田警部補シリーズになるのかなぁ。でも、肝心の藤田警部補の
活躍はほとんどなくて、前作で出て来た(完全に忘れてたけど^^;)、記者の一方井が一応の
主人公っぽい扱いになってます。探偵役も一応彼が担っているし。でも、視点がころころと
変わるので、一体誰が主体の話なのかを把握したのは物語も後半になってから。どの視点も
中途半端にちょこちょこ出て来るので、非常に読みづらくて苦戦しました。前作もかなり読み
づらかった覚えがあるのですが、それを上回る読みにくさ。何度挫けそうになったことか。
でも、返却期限が明日で、今日中になんとしてでも読まなきゃいけない!と思って休み一日
使って読みました。でも、それだけ頑張って読んだ割に、なんとも微妙な読後感・・・。一作目
の赤熊シーンみたいな盛り上がりもなく、淡々と事件記者の一方井の取材シーンが続くので、
読んでてだれる、だれる。しかもいろんな要素を盛り込もうとしている上に、人物関係が煩雑で
複雑なものだから、読んでて話の本筋がどんどんわからなくなって行く。もう、終盤の謎解きは
何でもいいから早く終わってくれ、と思っている自分がいました・・・。一応、謎解き部分は
それなりに整合性があるとは思いましたが、既存のミステリのトリックを寄せ集めたような真相
で、しかも途中の伏線があまりにもあからさまだから犯人も全く意外性がなく、何だかなぁ、もう、
って感じでした。一応、実質上の犯人がわかった後でもう一捻りあるのですが、はっきりいって
エピローグのその部分を読むのがだるくてだるくて。まだあんのかよ!って思っちゃいました・・・。
だって、それでなくてもそこまで読み進めるのにつかれていたのに、更に○○談義とかされても。
もういいからさっさと本題に入れ!って思いました・・・(黒べ)。

殺人事件部分の本格要素を軸にしながら、村の過疎化や就職難という社会問題を絡めたばかりに、
作品全体のバランスがおそろしく悪い。しかも、一作目から問題にしている人物造形がまた
相変わらず薄い上に登場人物が多いので、誰が誰だか混乱して来ちゃうのも致命的。
特に出世欲まるだしの小清水課長とか、いまいち性格の掴めない魁時新聞の森とかのキャラの
扱いが中途半端で、こんな扱いなら出さない方が良かったんじゃないのかなぁと思いました。
キャラの印象が薄いから、終盤の小清水のあるシーンがすごく浮いた印象になってしまって、
全く行動に説得力がなかったです。なんだ、この展開・・・ってかなり引きました・・・。

そもそも魁時新聞の一方井が30過ぎて「~っす」とか目上の人に対しても使うこと自体に
かなりイラっときました。一方井のキャラはその時々ですごくブレがあって、最後まで人物像が
一定しなかったです。

タイトルも普通このタイトルだったら「霧の塔」で起こる殺人事件の話だと期待しちゃうよねぇ
・・・まさかああいう意味だとは^^;気になったのは第二章のタイトルの『一方井の恋』
この第二章の部分でこのタイトルはどう考えてもおかしいと思ったのですが・・・だって、この章
だけに限って云えば、恋の片鱗も出てこなかったぞ?確かに、この後で恋心が芽生えることになる
女性との出会いはあるけど、一方井が恋愛感情を抱いたという表記は一切なかったので、首を
かしげてしまいました。
この一方井の恋愛要素も作品に必要だったのかどうか・・・あの出会いで恋愛感情を抱くものか?
とちょっと腑に落ちないものを感じました。

地方での就職難や親の期待に押しつぶされそうになって、精神を崩して行く成一の心理描写は
真に迫っていて良かったですけどね。成一の身の上話は、現代の就職難の象徴のように思いました。
確かに、今仕事を辞めたらって考えると怖い。成一のような人間はきっと今の世の中には溢れて
いるんだろうな、と空恐ろしくなりました。





うーん。でも、なんか、頑張って読んだ割に残るものがなかったような・・・。一作ごとに
最初の横溝風ミステリから離れて行くのが悲しい。一作目の感想の時に、書き慣れて行けば
もっと面白い本格ミステリの書き手になるかもって書いたのですが、残念ながら一作ごとに
最初に持っていた勢いとか面白さが減って来ている気がするのが正直なところ。
さすがに追いかけるのが辛くなってきたなぁ・・・。次回作読むかは巷の評判次第かも^^;
この手の本格作品を真っ向から書く作家は最近少ないから、応援して行きたいのだけどなぁ。