ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

日明恩/「ロード&ゴー」/双葉社刊

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日明恩さんの「ロード&ゴー」。

恵比寿消防出張所に異動してきた消防隊員の生田は、入庁以来消防車を運転してきたベテラン
機関士だが、異動になって救急車を運転することになり、求められる運転技術の違いを痛感
していた。慣れない救急車の運転に四苦八苦する中、ある日、路上で喀血して倒れた男を収容
する。車内で手当をしようとすると、突然男がナイフを取り出し、救急隊員の一人を人質に
取って救急車をジャックした。男は、ある人物に家族を人質に取られ、仕方なく行動に出ている
という。その人物から告げられる携帯の指示で、救急車は都内の救急病院をはしごすることに
――緊迫した救急車ジャックの行く末は?


年末最後に読んだ本です。有川さんが絶賛していたそうですが、なるほど、この作品に限っては
作風やキャラがかなり有川さんと被っている印象を受けたので、いかにも有川さんが好きそうな
作品だなぁと思いました。特に、途中の女性救急隊員、森がトイレに行きたくなるくだり。
男の職場で働く女性の辛さ大変さまで掘り下げる辺り、有川さんっぽいなぁと思いました。
犯人の指示に従って、指定の時間内で目的地に着かなければ爆弾を爆発させられてしまうという、
緊迫した状況の中で繰り広げられる人間ドラマはなかなか読ませてくれました。全体的に
ちょっと間延びしたというか、冗長な印象はあったのですが、その辺りはこの方の特徴なので
仕方がないのかな、という感じ。ただ、文章自体の冗長さは随分改善されてはいますけどね。
以前は一文がやたらに長く、無駄な言い回しが多くて読みづらい印象があったのですけれど。

途中、『鎮火報』シリーズの大山が出て来たりして、両シリーズのリンクにニヤリ。あちらの
シリーズに生田が出て来てたかどうかってのは全く覚えていないのですが、多分出て来てる
んだろうなぁ。なんとなく名前も覚えがあるようなないような・・・(適当発言)。
気になったのは途中、救急車のガソリンがなくなった際に給油しにきた星野が乗っていた
救助車を運転していたのが誰か。最後まで明かされなかったのですが、誰だったんでしょう。
『鎮火報』シリーズに出て来た人物なのかなぁ。最初大山かと思ったのですが、大山は違う
場面で出て来たから違うみたいだし。

終盤の展開は正直かなりご都合主義だと思いましたし、消防車があんなに一度に出動したら
それこそ大問題なんじゃないかと思いましたが、まぁ、その辺はあんまり突っ込んじゃいけない
ところなのかなって感じもします。大団円で気持ち良く読み終えられたのも確かですし。
でも、途中で生田がこの救急車ジャックの為に、救急車が一台ずっと使えなくて困ったと
いうようなことを言っていたのに、ラストであんなに何台も救急車が出動しちゃう辺りは
生田の主張に反してるんじゃないのかなぁとツッコミたくなったのも事実。その辺は
ブレないでお話を作って欲しかったかな、とちょっと残念に思いました。

あと、無線の女子高生の部分は正直なくても良かったんじゃないかと思いました。ま、明日の
消防隊員を目指す若者が一人が増えた、というのが書きたかったんでしょうけども。母親との
エピソードもいい話なんだけど、どうも作られ過ぎててしらける感じがなきにしもあらず・・・。
最後になっていきなり理解ある母親になっちゃうのがなんか腑に落ちないというか。
まぁ、作品自体の評価がそれで下がるということはないのですけどね。

でも、全体的にはとても面白く読みました。相変わらずこの人はキャラ造りが上手いなぁと
思います。生田や森を始め、救急隊員たちの熱き職業魂を感じられる快作でした。
生田の妻・冴子さんがかっこよかった~!冴子さんって名前のキャラはどの作品でも素敵
ですねぇ。凛とした強さみたいなものを感じるキャラが実に多い。自分の子供にも冴子って
つけようかしらと思っちゃうくらい(先走りすぎ)。
森さんはちょっと可哀想ですが、相手が冴子さんじゃ勝ち目がないですねぇ・・・^^;
続編が書かれるとしたら、森さんの苦しい片想いなんかも追って行くのかな。生田は鈍感そう
だから、苦労しそうだ(苦笑)。