ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

佐藤友哉/「デンデラ」/新潮社刊

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佐藤友哉さんの「デンデラ」。

70歳になった齋藤カユは、当然の如くに『お山』に捨てられた。いかなる事情があっても、
70を超えた老人は年明け早々の冬に一人づつ『お山参り』をするのが『村』の決まりごと
だからだ。捨てられた後、死の先にあるのは苦患なき極楽浄土と言われ、齋藤カユは満足した
気分で『お山』の中で死を待っていた。しかし、夜になってようやく意識が途切れかけた時、
複数の足音が聞こえることに気付いた。しかし、為す術もなく意識がなくなり、次に起きた時、
周りには齋藤カユを見守るいくつもの見知った『顔』がいた。そこは、『お山参り』の後で
生き残った老婆たちによって作られた一つの集落『デンデラ』だった。死ぬことが幸せだと
信じていた齋藤カユは、生き残ることに疑問を覚え、デンデラの老女たちと対立するが、
彼女たちと生活しながら生きるうちに、次第にデンデラの生活に馴染んで行く――。


というわけで、ユヤタンです。うーん、すごかったです。老女パワー、熊パワーに圧倒されて
読み終えた時はへろへろになってました。言ってみれば、『姥捨て山』の後日談ような作品。
人減らしの為に山に捨てられた老女が、実は死んでおらず、老女だけのコミュニティを
作って生活していた、という、なんとも荒唐無稽な設定。そして、この生き残った老女たちの
生命力の強いこと強いこと。まぁ、はっきり云えば70、80を超えた老女がここまで過酷な
状況下でこんな精神力の強さで生きて行ける筈もなく、まったくもってリアリティは欠如して
いると言わざるを得ないのですが、ある意味ファンタジーともいえる、彼女たちの生きる力の
凄まじさに次第に引きずられて読みふけっている自分がいました。正直、最初は次から次へと
出て来る老女の区別がつかないし、それぞれのカタカナ名は読みにくいしで、何度も挫折
しかけたんですけど・・・^^;;それに、何といっても赤背と呼ばれる羆(クマ)が彼女たちを
襲うシーンがかなり猟奇的で、老女たちが次々とあっさり虐殺されて行くところもちょっとグロくて
引いてしまったし。いくらなんでも、一撃で人間の身体が真っ二つになるとか、ありえないでしょ。
一体どんだけ巨大なクマなんだ^^;内容の割に語り口が『ですます』調で寓話調なのもちょっと
違和感ありました。これ、別に地の文は普通で良かったんじゃないのかなぁ。昔語り風にした
かったのでしょうけど・・・どうも、老女たちの話し方と、語り手の丁寧語がちぐはぐで、
読んでいて落ち着かなかった。基本的に、この人の文章自体が私の感性と合わないせいも
あるのかも・・・。

最初50人いた老女が、物語が進むごとにクマの襲撃や疫病によって一人また一人と死んで行き、
最後には一桁にまで減ってしまいます。結局、『お山参り』で素直に死んでいた方が静かな死を
迎えられたんじゃないのか、と思わなくもなかったですが、自分の意思で生きようとしていた
老女たちはみんな本当に逞しくて、現代の元気のない老人たちに活を与えて欲しいような気持に
なりました。最後は不本意な死を迎えたとしても、村の為に『捨てられて』、一人孤独に死んで
行くよりも、仲間たちと共に少しでも生きられたことは、やっぱり良かったのかもしれません。

中盤の老女V.S.赤背の攻防は緊迫していて迫力ありましたし、ラストはこの戦いの行方が
どうなるのかドキドキしました。疫病の真相には拍子抜けしましたが・・・。この原因となる
○○○のくだりはちょっと説明不足だな、と思いました。どういう経緯でこ疫病の原因となる
○○○が作られることになったのか、とか、結局よくわからないままなので・・・。でも、
細かい部分をいちいちツッコむ作品じゃないのかな、とも感じました。あくまでもフィクション、
あくまでもエンタメ、と割りきって読むべき本なんじゃないかと(ここまで書いておいて今更
何をって感じですが^^;)。
でも、ラストはここまで引っ張といて、そこで終わるのかよ!とは思いました・・・おそらく、
齋藤カユの思いが遂げられたんだろうと思いたい。そうなったら相当に黒い結末とも云える
けれども。あそこまで満身創痍で頑張って結局その一歩手前で無念・・・てことになったら
あまりにも可哀想すぎるもの。

老女たちそれぞれの考え方や性格はあまり共感も好感も覚えられなかったので、読んでる間は
鬱々とした気分になりました。でも、貧しくて山に捨てられて、生き延びてもやっぱりひもじい
思いをしなきゃいけなくなったら、人間みんなどこかひねくれてしまうのも当然なのかも。
老人同士がいがみ合い、対立し合う姿なんてあまり見たくないものではあるけれど。

なんだかんだ言って、今まで読んだユヤタン作品の中では一番面白かったです。ミステリじゃない
作品を読んだのが初めてだったせいか、あの講談社ノベルスのシリーズと同じ作者が書いてるとは
思えなかったです^^;
今日本屋に行ったら、この本がでん!と平積みになっていて、ポップに何かの雑誌かなんかで
本書が一位に選ばれたという推薦文が載ってました。確かに、話題になるのも頷けるかな、と
思う作品でした。まぁ、好きかどうか聞かれるとちょっと返答に困るけど^^;うちの父親も
もうすぐ70になるんで、ここに出て来る老女たちのようにしぶとく強く長生きして欲しいな、と
思いました。まぁ、といっても、『デンデラ』の場合は男子禁制だから、男はそもそも捨てられて
そのまま死んで行くしかないのですが^^;男性バージョンの『デンデラ』も読んでみたい気も
しますね(もっとえげつない内容になったりするかな?^^;)。