ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

綾辻行人/「アヤツジユキト 2001‐2006」/講談社刊

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綾辻行人さんの「アヤツジユキト 2001-2006」。

2001年から2006年までのエッセイや解説、推薦文、あとがき、アンケートへの回答など、
『小説以外』の文章を網羅した雑文集、第三弾。


この間読んだ同タイトルの1996-2000の続きです。前作が面白かったので、
続けて借りてみました。今回は2004年に上梓された暗黒館の殺人が完成するまでに
書かれたほとんどの雑文に『暗黒館』の進捗状況とその生みの苦しみが綴られていて、
あの作品はそこまで大変だったのか~と今更ながらに綾辻さんの苦労の大きさが伺い知れ
ました。その時々で暗黒館に対する弱気発言(ほんとに完成出来るのか不安、みたいな)が
繰り返されているので、『暗黒館の殺人』上巻のあとがき文を読んだ時は、私まで感慨深い
気持ちになってしまいました(もうとっくに読んでるんだけど^^;)。
あと、並行して受けていたプロジェクトで、佐々木倫子さんとの共作漫画『月館の殺人』
ことも良く出てきます。実は気になりつつも未だに読めてないので、買わねば、と改めて
思いました。

賞関係の選評も面白かったです。乱歩賞の選評まで引き受けることになって、本人としては
荷が重いご様子。そりゃ、各賞の応募作全部読まなきゃいけないんだものね。駄作もいっぱい
あるだろうし、その中からこれは!と思うものを選ぶのって、主観だけじゃなくて、その賞の
性格とかも考慮に入れて選ばなきゃいけないんだから大変だと思います。個人的には横溝賞
特別賞の『背の眼』の道尾さんの高評価の選評が嬉しかったですね。ただ、現在上梓されている
作品よりも、賞に応募した時は300枚くらい多かったんだそうです・・・ええーー、あれで
減ったの!?と思いました・・・^^;だって、刊行作品も十分冗長だったのに^^;
あと、初野さんの『水の時計』も絶賛していたんですね。もっと早く知っていたらもっと
早く初野作品と出会えていたかもしれないのになぁ。こう考えると、綾辻さんてやっぱり
先見の明があるなぁと思わされるのでした。だから綾辻さんが推薦文を寄せている作品って
つい手に取りたくなっちゃうんですよね~。

だから、綾辻さんの『オールタイムベスト』で挙げられている7作は是非とも読まなきゃ
いけない気になりました。
ちなみに、綾辻さんの選んだ海外ミステリオールタイムベスト7作は、

①ガストン・ルルウ『黒衣婦人の香り』
アガサ・クリスティアクロイド殺し
③エラリイ・クイーン『ガラスの村』
④エラリイ・クイーン『Yの悲劇』
⑤ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』
カーター・ディクスン『プレーグ・コートの殺人』
トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』

今年は翻訳ものにも目を向けようって抱負を立てたこともあるし、この辺りから攻めて
行こうかなぁ。取り敢えず②と⑥は既読なので、それ以外からですかね。ってかまずは
④からだよなぁ。横向くと本棚に置いてあるし・・・。クイーンはやっぱり読んでおかないと
いけないですよねぇ(そう思いつつ、なかなか手が出ないのが現況なんですが^^;)。


本書で取り上げられている期間に、綾辻さんは随分と親交の深かった方を亡くされています。
作家の鷺沢萠さんや、麻雀プロの安藤さん、館シリーズの装幀を手がけていた装幀家辰巳四郎さん。
中でも、特に大きかったのは鮎川哲也先生と、講談社の名物編集者である宇山日出臣さんでしょう。
鮎川先生の想いと思い出が綴られた文章にはぐっと来ました。鮎川先生が綾辻さんに生前かけた
言葉はとても温かく思いやりのあるもので、本当にお優しい方だったんだなぁと思いました。

でも、もっと綾辻さんに打撃を与えたのが宇山さんの死。私も様々なミステリ作家の方から
いろんな所(あとがきとか)で名前があがって、すぐれたミステリを発掘される名物編集者
として馴染みのあるお名前だったので、訃報を聞いた時はとてもショックだった覚えがあります。
ミステリーランドを立ち上げたのも宇山さんでしたし、京極さんをデビューさせたのもそうでした。
綾辻さんはデビューからずっと親交があって、盟友のような存在だったそうで、とにかくしばらく
何も手につかない程の状態に陥ってしまったのだそうです。宇山さんに向けての追悼文には綾辻
さんの氏への想いが溢れていて、胸が締め付けられるようでした。そして、本書の一番最後に
ひっそりと収録された、宇山さんの告別式での弔辞を読んで、思わず涙が出てきそうでした。
宇山さんへの想いがこもった、素晴らしい弔辞だと思います。あの、故赤塚不二夫氏へのタモリ
さんの素晴らしい弔辞にも匹敵する内容なんじゃないかな、と思いました。この部分だけでも、
読む価値のある作品ではないかと思います。ミステリ界にとって、本当に大きな宝を失ったことが
改めて残念に思えました。