ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

誉田哲也/「月光」/徳間書店刊

誉田哲也さんの「月光」。

高校一年の野々村結花は、両親の反対を押し切って亡き姉と同じ高校に入学し、同じ写真部に
入部した。その理由は、高校二年の時に交通事故で死んだ姉の事故には裏があると思い、その
真相を調べるためだ。天才的なピアノの才能があった結花は、姉の事故以来ピアノが弾けなく
なっていた。誰よりも結花のピアノを応援してくれていた優しい姉の死の真相を知るまでは、
一歩も前へ進めない――しかし、姉の死の真相の裏にはおぞましい事実が隠されていた――。


爽やかさ120%の武士道シリーズ以外の誉田作品を初めて読みました。同じように高校生が
主人公なのに、ここまで作風に隔たりがあるとは驚きました。こんな救いのない読後感最悪の
話を書く人が、あの武士道シリーズを書いたのか。ただ、主人公結花の人物造形だけは通ずる
ものがありましたが。でも、この結花の人物造形も、このどんよりと重いだけのストーリーの
中では浮いているとしか思えなかったのですが。唯一の明るい要素と言えばそうなのですが・・・。

ストーリーは、高校二年で死んだ姉の事故の真相は殺人だったのではないかと疑った妹が
事件の真相を探って行く、というもの。美人で優しくて誰からも慕われていた姉が実は・・・
ここから先は、あまりにも気が滅入って書きたくありません。ほんっとーに、嫌な話でした。
でも、姉の涼子の人物造形は、あまりにも人間離れしていないだろうか。聖人君子か聖女か、
と思いました。でも、現実にこんな出来事があったら、絶対表面上だって普通でいられないと思う。
もちろん、最終的に彼女が下した結論はそこに行き着いた訳だけれど。でも、それもきっかけは
ある人物の一言によってであって、それがなければこの後も延々とこの地獄絵図のような出来事
が繰り返されていたのかもしれない。自分を守るよりも誰かを守ることを優先にする。どんな時も
誰にでも優しくて、完璧な姉という人物像には実は裏があったりするのかも、と勘繰ったりして
いたのだけど、本当にそのまんまの人物でした。それだけに、彼女に起きた出来事を読むのが
しんどかったし、彼女の最後の決断が悲しかった。

学園ミステリーなのに、出て来る登場人物がことごとく好感が持てない。主人公の結花だけは
姉の事故という重い過去を背負っている割にあっけらかんとした性格で、先述したように
唯一の明るい要素ではありましたが。でも、彼女の性格もそれほど好感が持てた訳では
なかったです。最低なのはやっぱり涼子の同級生二人組でしょう。特に『猿』の方は、絶望的
なまでに最悪の人物像でした。涼子と同級生二人のシーンは、本当に読むのがきつかった。

嫌な気分にさせられながらも、ぐいぐい読まされたことは確かで、ほとんど一気読みでした。
先の展開は読みやすいけれど、ラストである人物に関してだけは驚かされました。油断してた~。

タイトルの『月光』は、ベートーヴェンピアノソナタ夜の音楽室で一人月明かりを
浴びながら(実は月明かりではないのですが^^;)『月光』を弾く美少女(涼子)の
シーンだけは幻想的で美しかったです。そのシーンが美しいだけに、その後の破滅への展開
のおぞましさが増した気がします。

はぁ。なんかもう、とにかくイヤな話でした。誉田さんって、他の作品もこんなに性描写が
キツイのかなぁ。読みやすかったのは確かなんだけど、二度と読みたい話ではなかったです。
この人の作品はやっぱり、武士道うんちゃらシリーズだけでいいのかも・・・(えー)。
あ、『ストロベリー・ナイト』が積読棚にあったんだった・・・(今思い出した)。