ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川浩/「キケン」/新潮社刊

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有川浩さんの「キケン」。

成南電気工科大学『機械制御研究部』略称【機研(キケン)】。しかし、その行動ふるまいは、
在学生や教授を始め、学内のあらゆる人々から畏怖や慄きを持ってこう認識されていた。つまり、
機研(キケン)=危険。その黄金期を支えたのは、二人の危険人物に率いられた、正しく危険集団
の塊であった――これは、今なお在校生の間で語り継がれる、キケン黄金期に作られた伝説の
エピソードを描いた物語である。


有川さんの最新刊。蔵書の入荷が多いと人気作でも回って来るのも早くて嬉しい。
うん。面白かったです。何も考えずに楽しめるエンタメ作品ですね。
とある工科大学のとある部活動にスポットを当てたドタバタハチャメチャ青春コメディ、って
感じでしょうか。工科大学ってことで、ほっとんどヤローしか出て来ません。もう、今回は
完全に男の世界のお話。しかも、その部の名前が『機械制御研究部』。モロに理系。
一体何ですか、その部活?って感じですよね。そして、タイトルのキケンは、この部の略称
【機研】から来たもの。とはいえ、そのキケンには、【危険】の意味も多分に含まれている訳
なのですが。物語は、語り手の元山が大学に入学して、いきなりこの機研に入部させられるところ
から始まります。勧誘したのは、その当時の二年生にして部長の上野と、同じく二年の副部長・大神。
入学式で席が隣合わせだった縁で親しくなった池谷と共に、無理矢理に近い形で機研に入部させ
られた池谷は、勧誘したこの二人の二年生たちを筆頭に、機研黄金期と呼ばれるメンバーたちと
数々の伝説を残して行く・・・という感じ。とにかく、上野と大神の二本柱にさんざん振り回されて
こき使われる後輩たちの苦労と受難がテンポ良く描かれていて、可笑しい。なんだかんだと
文句言いながらも、誰も彼もが二人のことを好きで慕っているのがわかるから痛快なのです。
先輩から出された課題に真剣に取り組み、一致団結して達成させて行く彼らの連帯感も爽快。
若さと勢いで突っ走れる年齢の頃、何より輝く宝となるのは、彼らのように一緒にバカやって、
怒って笑って、行動を共に出来る信頼する仲間がいること、なのだと思う。こういう作品を
読むと、ついつい自分の学生時代を思い出して懐かしい気持ちに浸ってしまう。もちろん、彼ら
のような特殊な経験なんて一つもしなかったし、サークル活動もこんなに激しくやってはいなかった
けれど^^;でも、入ったサークル仲間たちと旅行したり一晩中飲み明かしたり、恋愛のゴタゴタで
悩んだりしたエピソードが走馬灯のように駆け巡りました。ああ、若さってホントにピカピカ
していて、宝物だ。あの頃の自分は、今の自分には到底持ち得ない輝きがあったんだと思う。
先の未来のことなんか考えず、ただその瞬間を必死で生きて楽しんでいた頃。うーん、タイムマシン
があるならその頃の自分と会っていろいろ言いたいこともあるなぁ。未来は厳しいぞ、とかね
(凹ませてどうする^^;)。

あれ、なんか話が逸れた^^;すみません。構成は、この機研に強制入部させられた元山という
青年が、卒業後何年も経って、結婚した相手にこの機研での数々の武勇伝を懐かしく思い返して
語って聞かせる、という形になっています。この『現在』パートだけは有川さんらしいラブラブ
要素がちょっぴり顔をのぞかせますが、回想部分(機研時代ね)はある人物の恋愛を除いては、
ほとんど男しか出て来ないので、恋愛要素はほぼ皆無。そのある人物の恋愛も、結末は散々でした
しね。でも、これは完全に相手の女が悪い!と思いました。そこまでしたら、この年齢の男なら
間違いなく例外なく、同じ行動取るでしょう。おいおい、アンターーー!ここでソレ言う!?って
私も元山の妻同様、ツッコミ入れました・・・。ただただ、振り回されたその人物が哀れだと
思いました・・・^^;まったく、お嬢様ってやつは、始末に負えないやね。

やっぱり、一番楽しかったのは学祭のキケンラーメンのお話。奇跡の味を創りだそうと頑張る
お店の子(誰かは読んで下さい)の努力に拍手。みんなで団結してお店を切り盛りして行く機研
メンバーたちの頑張りも目を見張るものがありました。これもやっぱり若さだね。一つの目標に
向かって、みんなで一致団結して達成させるってのは、やっぱりどんなことでも清々しいです。
それにしても、奇跡の味、食べてみたいなぁ・・・夜中に読まない方がいいですよ、この部分。
絶対お腹空くから!

とっても面白かったのですが、機研という部活の持つ特殊性みたいなものがイマイチ感じられ
なかったのは残念。ロボット対戦の辺りだけは工学部ならではではあったけど、これも機研
だからっていうエピソードでもなかったし。結局機研の本来の活動内容がほとんど出てこない
ままだったような・・・ボールペン弾のエピソードが一番機研らしかったのかな。ユナ・ボマー
上野の爆弾エピソードも、もう一つくらいあった方があだ名の信憑性が増したんじゃないのかなぁ。
ちょっと全体的に物足りない感じはありました。あと100ページくらいは欲しかったな。

でも、表紙や扉絵の徒花スクモさんの絵の遊び心は愉しいし、ラストの黒板メッセージを見た時は、
元山同様、嬉しく爽快な気持ちになりました。ある時期苦楽を供にした仲間っていうのは、時間が
経っても絆が切れることはないのよね。彼らの関係がとっても羨ましくなりました。


有川さんらしいドタバタエンタメ。学生時代を思い返しながら懐かしく読みました。
ちなみに、私が通っていた大学は理工学部だけが違う場所にあったので、大学時代に理工学部
の学生と会う機会が全くなかったのですよね。理工学部に遊びに行ったら、彼らみたいな学生
たちがわんさといたのかなぁ。まぁ、上野みたいなのとはあんまり仲良くなりたくはないです
けどね(遠巻きに眺めるだけで十分^^;)。