ミステリ読書録

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望月守宮/「無貌伝~夢境ホテルの午睡~」/講談社ノベルス刊

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望月守宮さんの「無貌伝~夢境ホテルの午睡~」。

他人の顔や身体の一部を奪い取るヒトデナシの怪盗・無貌。探偵・秋津承一郎もその顔を奪われた
一人だった。秋津のもとで探偵助手として働くことになった望は、秋津の探偵事務所に寝泊まり
しながら、事務所の掃除に勤しんでいた。そんな折、秋津の元に宿敵・無貌が逮捕されたという
一報が届く。秋津と望は、無貌が捕らえられている夏原ホテルへと急ぎ向かうことに。夏原ホテル
は、別名『夢境ホテル』と呼ばれ、夢と光景のヒトデナシ・明海によって取り憑かれたホテルだった。
一年のうち一週間だけ明海は自らの能力を発揮し、ホテルに宿泊する客たちに夢を見せるのだ。
しかし、夢の一週間に宿泊できる客は、ホテルによって選ばれた者だけに限られる。秋津と望は
宿泊する為の誓約書に揃ってサインをするが、ホテルに宿泊を許されたのは望だけだった。秋津が
いない中、望は必然的に『ホテル探偵』に指名され、夢の一週間の間、ホテルに面倒事が起こらない
よう監視、警護する役に立たされる。しかし、望の思惑とは別に、ホテルの一室で中年の男の
刺殺死体が発見される――!シリーズ第二弾。


前作がなかなかの良作だったので、続きを読むのを楽しみにしていました。その割に、無貌とか
ヒトデナシの設定とかきれいさっぱり忘れてましたけど^^;前作はそういった荒唐無稽な設定が
謎解きにきちんと生かされていて感心したのですが、今回はまた随分と趣向を変えて来たなぁ
という感じ。ヒトデナシに憑かれたホテルが一年に一週間だけ見せる夢の世界。一日ごとに
決まったテーマに従って姿を変えるホテルという設定はなかなか面白かった。月曜日は月、
火曜日は火、水曜日は水、木曜日は植物(木からでしょう)、金曜日は音楽(金色に輝く楽器から
来たもの)、土曜日は死者(土に還ったもの)と、それぞれのテーマ通りの不思議な現象が
体験出来る、というもの。そうしたホテルが見る夢の世界の中で殺人事件が起きたり、殺し屋
が誰かの命を狙っていたり、詐欺師が身代金目当てに老婆を誘拐したり、手術ミスをした医師が
こっそり再手術を行おうとしたり、と、いろんな人の思惑が複雑に絡みあって、目まぐるしく
視点が変わります。不思議と、これだけ視点が変わる割には人物関係はそれほど混乱しなかった
のですが、ストーリー自体はやはり煩雑すぎてわかりにくい印象がありました。読み終えた今でも、
整理しきれてないような^^;謎解きは、今回も夢の一週間の出来事が実は※○○○の出来事である
という一点を軸に、なかなかきれいに解かれていて感心しました。実は、中盤辺り(木曜辺りかな)
まではどうもファンタジックすぎる設定に引いてしまったところがあって、乗り切れないまま読み
進めていた感じだったのですが、終盤でいろんな要素のからくりがわかって行く過程は、たくさん
盲点をつかれた感じで驚きの連続でした。秋津の存在感のなさにもきちんと理由があったし。今回
ほとんど出番がないので、一体何の為の探偵なんだと思ったりしていたのですが。ラストでは
なかなか存在感のある登場の仕方で溜飲が下がりました。ただ、望に探偵役押し付けて、やってた
こと自体には「おいおい」とツッコミたくなりましたが^^;それ、完全に私情入ってるじゃんか。
秋津の奥さんの遥さんが一緒に来た理由もいまいちわからなかったんですよね、実は。この人
この話に要るか?って思ったんだけど、それも一応ちゃんと理由があったのですっきりしました。
ただ、遥さん自体の印象はあんまり良くない。ってか、よくわかんない人。無貌に人生を狂わされた
という意味で不幸な人だとは思うけど、望への接し方とか言葉とか、無機質すぎて何考えてるのか
よくわからなかった。望が苦手って思うのもわかるなぁと思いました。

今回一番楽しかったのは近松と茜のシーンかも。なんか、二人の距離がだんだんと近づいて行く
感じがドキドキしました。立場は敵同士なんですけど。終盤、近松の為に頑張る茜の勇姿にちょっと
感動。私も一緒に『届け!』って思っちゃいました。でも、それだけに、もとの場所に戻された後の
近松のシーンはちょっと残念でした。あーあ、そうなっちゃったのか、と。今後二人が再会する日は
来るのかな。来て欲しいな。






以下、先述した※○○○のネタバレ


















※短時間。『逆』浦島太郎ものですか(苦笑)。それなら何でもアリだよなぁ、と思わなくも
なかったり(ぶつぶつ)。でも、まぁ、真相は望が願う通り、(この年には)一件の殺人事件も
起きていなかったのだから、望にとっては救われる結末でしたね。あの人の自殺だけは阻止
できなかったけれども。






















巷の反応が今ひとつっぽかったので、あんまり期待しないで読んだのですが、私は結構
楽しめました。夢の一週間は私もすっごく体験してみたい!月のカクテル飲みたい~!
水の中で息してみたい~!とか思いながら読んでました。楽しそうだなー。
無貌の設定が今回はいまいち生かされていないし、無貌自体の活躍も少なかったので
タイトルの無貌伝はどうなんだ、と思いましたが、まぁ、思ったよりもずっと読みどころが
いっぱいあって面白かったです。最終ページに次回作の予告がすでに。あの娘と望の再会が
楽しみですね。