ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三木笙子/「世界記憶コンクール」/東京創元社刊

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三木笙子さんの「世界記憶コンクール」。

質屋を営む高広の友人・兎川博一は、瞬時に物を覚える記憶力という特技を持っている。ある日、
新聞に載った『記憶に自信ある者求む――協力の御礼として一日一円を支給』という広告を見た
博一の義父は、博一に応募を勧める。気が進まないままに応募し見事に合格した博一は、ひと月の
間、大学教授のような男の元で、記憶力の訓練をさせられることに。男が言うには、『世界記憶
コンクール』という世界規模の頭脳コンクールに日本人を優勝させ、日本人の頭脳を世界に知ら
しめることが目的らしい。しかし、ひと月経って第一段階が終了したと言われ、男とは連絡が
取れなくなってしまう。博一は、何か犯罪の片棒を担がされたのではないかと不安になり、高広
の元に相談に訪れた。そこへたまたま居合わせた美貌の天才絵師・有村礼は、この事件がホームズ
の『赤髪連盟』に酷似していることから興味を引かれ、高広に探偵役をやらせようと意気込むの
だが――(『世界記憶コンクール』)。明治を舞台に繰り広げられる帝都探偵物語、シリーズ
第二弾。ミステリフロンティアシリーズ。


前作人魚は空に還るがなかなか好みの作品だったので、続編が出たと知って読むのを
楽しみにしていました。二作目にして、四作中三作がスピンオフ的な作品でちょっと面食らった
ものの、どの作品もとても楽しめました。前作ではキャラの良さでミステリ部分の弱さや展開の
強引さをカバーしていた印象があったのですが、今回はそれにストーリー自体の良さが加わって、
より読ませる作品になっていたように感じました。ミステリとしての弱さは相変わらずではあり
ますが、前作よりはその辺も工夫が凝らしてあって良かったと思います。ただ、残念なのは、
先述したように表題作以外はスピンオフ的な作品の為、高広と礼の絡みが少なかったこと。若干の
BL色を期待しているヨコシマなファンとしては、二人の仲良し風景がもっと見たかったなぁ~と
不届きな感想を抱いてしまったのでした。あは。でも、表題作の中のある一文で妄想が暴走し、
「いや~ん!」と一人じたばた赤面していたアホの子は私です・・・(完全に深読みしすぎな
だけなんですけど・・・どの文章かは言いません。アホだから^^;)。


以下、各作品の感想。

『世界記憶コンクール』
これだけがシリーズ正編。なのだけど、作品としてはこれが一番評価が低いかも。博一が騙される
手口はあまりにも胡散臭いし、そのからくりもちょっと強引さが目立つように感じました。でも、
兎川親子のラストには温かい気持ちになれました。ちなみに、ホームズの『赤髪連盟』の内容の
ネタバレがあります。読書メーターで、冒頭にネタバレに関する注意書きがないことを非難する
声が多く見られましたが、その通りだと思います。その辺りはきちんと読者に断っておくべき
でしょう。

『氷のような女』
高広の義父・里見基博が大臣になる以前の夫人との馴れ初めのお話。この時代は氷がとっても
貴重なものだったんですね。氷売買で詐欺まで横行するとは。悪どい人間が流通させた氷が
原因で伝染病が流行るなんて、ぞっとする話です。でも、それより更に悪どいのが氷検査の裏
である人物がしていた悪行でしたが・・・酷い。基博がよし乃さんへの気持ちに気付くくだり
には微笑ましい気持ちになりました。タイトルの意味がわかるラストの基博の狼狽っぷりに
くすり。天下の里見大臣も女心には疎かったってことで(苦笑)。

『黄金の日々』
前作で出て来た脇役キャラの恵(さとし)が主人公。美術の才能を伸ばす為東京美術学校
入学した恵が、同じクラスの問題視、唐澤幸生と出会い、頑なだった幸生の心を少しづつ
ほぐして行き、友情が芽生えて行くという青春ストーリー。ベタですが、友達っていいな
って思える爽やかな友情話になっていて、ラストは清々しい気持ちで読み終えました。恵の
聡明なキャラがいいですね。幸生とはお互いに才能ある同士、認め合って切磋琢磨出来る親友に
なれそう。彼らの同級生たちもいいヤツばかりで、恵がいい友達に恵まれて良かったです。

『生人形の涙』
高広と礼が出会うまでの前日譚。といっても、礼の出番はラストのみ。ミステリとしても、
物語としても一番読ませる作品だったと思います。生き人形の正体や、トーマスの前から姿を
消した喜平に起きた出来事の真相など、良く考えられています。ラストの喜平のトーマスへの思いに
胸が切なくなりました。この後で喜平は・・・。余韻の残るラストの演出が巧いな、と思いました。
ただ、高広と礼の出会いのシーンはもっとページ数を割いて書いて欲しかった!礼のシーン
これだけかよ!ってツッコミたくなりましたもん・・・。ちょっと、今回は全体的に礼のキャラを
ないがしろにしすぎな所が不満といえば不満でした。




基本的には前作以上にとっても楽しめた一冊でした。
どの作品も温かい人情味が溢れていて、じんわり余韻の残るラストが心に沁みました。キャラ
だけでなく、物語にも深みが出て来て、シリーズの今後も楽しみになってきました。すごく
気に入ってきたかも、このシリーズ。続編も楽しみ!(*^^*)♪
次は礼と高広の絡みをもっと入れて欲しいなぁ(何かを期待しているヨコシマファンの願い←おい)。
表紙の絵は今回も完全にBL小説入ってますね~(笑)。
憂いを帯びた礼の横顔にウットリ・・・(アホ)。