ミステリ読書録

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大門剛明/「罪火」/角川書店刊

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大門剛明さんの「罪火」。

伊勢神宮の花火大会の夜、中学二年の少女が殺された。殺したのは元派遣社員で前科のある若宮忍。
少女は、若宮の恩師の娘だった。後日、一人の男が容疑者として逮捕された。しかし、それは若宮
ではなかった――。若宮はなぜ恩師の娘を殺してしまったのか?事件の裏には意外な真実が隠されて
いた――横溝正史ミステリ大賞受賞『雪冤』に次ぐ第二作。


雪冤がなかなかに読ませる力作だったので、早々に出た二作目も手に取ってみました。
前作は賞を意識した作品だったせいか、いろんな要素を盛り込もうとして煩雑になってしまった
点が残念だったのですが、今回は全体的に焦点をしぼった分、かなりすっきりと読ませる作品に
なっています。実際ページ数も少ないのですが、その割にはしっかりとした構成で力作になって
いると思う。最初は主要登場人物である若宮のキャラ造詣が、場面場面で別人かと思うくらいに
ブレがあって、その時々で違和感を覚えていて不快だったのですが、最後まで読んでこれの為
だったのか、と腑に落ちました。でも、前半は本当に主人公の言動が不快で、ムカムカしながら
読んでました。特に、レトルト食品工場の上司にした仕打ちはあまりにも酷いと思いました。
上司の言動にもムカつきましたけど、それにしたって、いくら上司の酷い扱いに我慢出来ずに
キレた上での行動にしたって、やりすぎだろう、と呆れました。

キャラ造詣でもう一つ気になったのは、年齢。キャラと年齢がどうも合ってない気がして、違和感が
ありました。若宮の36歳ってのも、双子の花歩と智人の13歳も。この作品を読んだ印象としては、
若宮が二十代で、双子が高校生くらいだったら、もっと作品にリアリティがあったように思うの
ですが。いくら母親の影響があるとはいえ、花歩の言動は中学生にしては達観しすぎな感じが
しました。ただ、彼女がなぜ修復的司法にそれほど興味を覚えたのか、という点に関しては
ラストまで読むと納得が行くのですが。細かい違和感がきちんと最後の仕掛けの為の伏線になって
いるところは感心しました。

今回のテーマも司法における難しい問題。『修復的司法』という、馴染みのない言葉が頻発して
出て来ます。修復的司法とは、犯罪の加害者と被害者を仲介者立ち合いの元で引き合わせて、
謝罪させてお互いの心の回復を目指す、というもの。といっても、被害者が立ち合いに応じる
ことはなかなか難しい。時間が経ったって、被害者の加害者への憎しみは変わらないことが多い
からです。どんなに更生したと思われる加害者からの謝罪でも、受け入れられない被害者の心情も
とても理解出来る。とても難しい。人の死が関わっているだけに、どちらの心も重い。相変わらず
この手の司法をテーマにした社会派の作品には考えさせられてしまう。ラストでは、被害者と
加害者という概念が根底から覆される事実が明かされ、驚かされました。その事実を日記の中の
ある言葉だけで見抜いた町村校長の慧眼には恐れ入ります。その事実を知った上で、最初のある
シーンに戻ると、同じシーンなのに全く違う会話が交わされていたことに気づきます。これには
やられました。二度読みたいシーンじゃないのに、つい読み返してしまった・・・。

最初は主人公の性格が嫌で嫌で、ムカつきながら読んでいたのですが、一人の女性と出会って
少しづつ内面の心理状態が変わって行くにつれて好感度も上がって行ったところは良かったです。
でも、犯行が暴かれた時の豹変っぷりでまた一気に落とされて、最悪!と思っていたところ、
ラストでまたガーっと浮上。ここまで一作の中で一人の登場人物に対する見方が変わった作品も
珍しいです。その性格の変貌も仕掛けの一つと言えなくもないので、なかなか巧いな、と思いました。

二作目にして、これだけの作品を書いて来たことは賞賛に値すると思う。ページ数の割に、重厚な
テーマの力作になっていると思います。作風が乱歩賞作家の薬丸岳さんと被るので比較されて
行きそうな気もしますが、本格ミステリ度でいえばこちらが上なので、こちらはこちらで
安定した評価が得られそう。私も俄然読み続ける気持ちになりました。文章も読みやすいですしね。
修復的司法に関してはもう少し掘り下げて欲しかった気もしましたが、ページ数の割には満足感
の高い良作でありました。お薦めです。