ミステリ読書録

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岡嶋二人/「99%の誘拐」/講談社文庫刊

岡嶋二人さんの「99%の誘拐」。

昭和四十三年、九月九日、イコマ電子工業の社長生駒洋一郎の5歳の息子・慎吾が誘拐された。
犯人による身代金は5千万円。それは、イコマ電子工業に取って、重要な意味を持つ金額だった。
犯人はその五千万円を金の延べ棒で用意しろと言って来た。受け渡しは犯人の巧妙な手口により
成功し、慎吾は無事帰された。しかし、犯人は特定出来ないまま長い年月が経った。イコマ電子は、
この事件によって五千万を失ったことで、リカード・カメラに吸収合併され、洋一郎はリカード
カメラの技術者として雇われの身になった。このことは、洋一郎に死ぬまで禍根を残すことに
なった。洋一郎はこの事件の顛末を詳細な手記として遺して死んだ。その手記を息子の慎吾が
読むことになったのは、昭和六十二年に起きたある事故がきっかけだった。そして、翌年二月、
二十年前に起きた誘拐事件をなぞるように、リカードの武藤社長の孫・兼介が誘拐された。身代金
は十億円分のダイヤ。犯人は、受け渡しにリカードに入社していた生駒慎吾を指定してきたのだ
――。


岡嶋さんの作品を読むのは多分十何年ぶり。といっても、読んだ作品自体も『クラインの壺』と
『チョコレート・ゲーム』だけなのですが(覚えている限りでは、多分)。それなりに面白く
読んだ覚えはあるのだけど、なんとなく、好みど真ん中からは微妙にはずれていて、その後
他の作品に手が出せずに来てしまいました。でも、なんとなく開架で岡嶋コーナーを眺めていたら
久しぶりに読んでみたくなって借りてみました。以前からタイトルが気になっていた『殺人!
ザ・東京ドーム』と迷ったのだけれど、とりあえず傑作と言われていた覚えがあったので、
こちらにしてみました。

タイトルからも明らかなように、誘拐もの。個人的には誘拐をテーマにしたものってそんなに
好きでもないのですが、なかなか面白かったです。ただ、二つ目の誘拐に関しては倒叙形式を
取っていて、犯人の視点から犯行の過程が綴られている為、緊迫感はそれ程ありません。
犯人が人質に危害を加えることがないことも予め明らかだし。ただ、これが書かれた当時の
コンピューター産業の現状を考えると、驚く程最先端の誘拐方法が実行されているのではない
でしょうか。もちろん、今だったらもっとすごい技術でやれるのかもしれませんが。携帯もない
時代に、ここまでのハイテク方法で誘拐物語を考え出したというのは驚愕に値するのではと
思うのですが。時代が平成に変わる直前とはいえ、それほど古臭さを感じずに読めたことから
考えても、この作品が誘拐ものの傑作として読み継がれているのが納得出来ますね。犯人が
取った方法が実行可能なのかどうかはわかりませんが、良くもまぁ、こんな手の込んだ誘拐
方法を考え出したものだ、と驚きながら読み進めました。特にアスカとの会話。最後の雪山
をスキーするシーンで、現在時刻をアスカが言うのだけれど、予め組み込んでおいた言葉を
言わせているとしたら、数分の狂いでも不自然になってしまうリスクを含んでいます。ここまで
来るのに渋滞に巻き込まれたりしてたらどうしてたのかな~とか疑問に感じたりはしたのですが・・・。
その辺りも二重三重にプログラムが組まれていたのかな。あと、公衆電話とPCって繋ぐことが
出来るんでしょうか。線とかあるっけ??まぁ、あとがき解説で西澤(保彦)さんもおっしゃって
いるように、すべてが実行可能なものにしてしまうと模倣犯が出てしまいかねないから、これは
あくまでも架空のものとして純粋に奇抜な誘拐方法を楽しむべきなのでしょうね。まぁ、今なら
可能なことばかりなのかもしれませんが。

結末は少々あっけないとは思いましたが、犯人がダイヤを受け取った方法に関しては驚きました。
10億分のダイヤモンド、一体犯人はこの後どうしたんでしょうか。お金が欲しくてやった
犯行じゃない割に、金額が大きいのが気になりますが。ある人物の無念の代償と考えての金額
なのかもしれませんが・・・。

気になったのは、生駒洋一郎の手記の最後で、洋一郎が塗りつぶしたという部分の扱いについて。
これって、結局、何の伏線でもなかったってこと?それとも、これがこの時の慎吾誘拐の真犯人に
至る伏線だったのでしょうか。その割に、その人物が明らかになるシーンでも、その手記の部分に
ついては触れられていませんでしたが・・・。なんとなく、意味深に出て来た割に意味なかった
なぁと拍子抜けでした。

犯人の視点で物語が進んで行くので、もう少し犯人側の心理描写があったら良かったかな。
っていうか、これ倒叙形式にしない方が良かったのでは・・・?犯人とアスカとの会話とかが
あるんだから、犯人が最後に明らかになる方が衝撃だった気がするんだけどなぁ。
いや、まぁ、面白かったんですけどもね。なんとなく、ちょこちょこツッコミ所があったような。
ラストがちょっとゆるいので、もう一捻りあったら良かったかな。

ところで、タイトルの99%って何を指してるんでしょうか?内容読んだらわかるかと思った
けど、結局よくわからなかった・・・いつもの読み取り不足?^^;;