ミステリ読書録

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平山夢明/「DINER ダイナー」/ポプラ社刊

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平山夢明さんの「DINER ダイナー」。

報酬三十万の広告に目が眩んだ挙句に、殺し屋専門の定食屋(ダイナー)にウェイトレスとして
雇われる羽目になったカナコ。一度粗相をすれば待っているのは即、死。恐怖に怯えながらも、
オーナーのボンベロの元、働き始めたカナコだったが、やって来るのは凶悪な人物ばかり。
極限状態の中、果たしてカナコは生き延びられるのか――平山夢明、9年ぶりの長編小説。


11月に予約して、やっと回って来ました。もう新刊レビューじゃないや^^;いやー、しかし、
あの平山さんがポプラ社から本を出すとは。私の中で『ザ・児童書』のイメージが強いポプラ社
なんとも、思い切った作品を刊行したものです。でも、グロ度は思った程ではなく、美食と
ハードボイルドと恋愛を上手い具合にミックスさせた極上の読み物になっていて、大満足。
平山さんにこんな引き出しがあったとは、驚きです。いや、基本的には『らしい』設定ばかり
ではあるのですが、その裏で切なかったりやるせなかったり、人間の感情の機微が行間から
にじみ出していて、心に響くのです。出て来る登場人物はみんな、過去に人を殺したことが
あるような、平気で人を八つ裂きにして拷問にかけられる冷血人間ばかり。中には顔を背けたく
なるような残虐なシーンもたくさん出て来ます。そもそも、のっけから拷問にかけられるシーン
から始まるし。冒頭読んだ時点では、この先読み進めて大丈夫なんだろうか・・・と若干不安に
かられました^^;だから、痛いのはダメなんだって~~~(>_<)
でも、カナコがキャンティーンで働き始めてからは、思った程グロいシーンもなく、それを
上回るボンベロの極上料理の数々にお腹が鳴りそうでした・・・まさか、平山作品を読んで
食欲が湧くなんて・・・!!(大抵いつもは減退するのに^^;)
でも、ボンベロの作るハンバーガーはほんとに美味しそう。私はまた、タイトルからカニバリズム
なのかと身構えて恐々としていたのだけれど・・・(苦笑)。確かに、そういう表記もちらりとは
出て来ましたが、その変のグロ度は最低限に抑えられていて良かったです。まぁ、グロくなければ
平山夢明じゃない、と思わなくもないけれど(苦笑)。でも、書評ちょっと見てたら、グロい、
食欲減退したって書いてる人が多かった・・・あ、あれれ??もしかして、私の感覚おかしく
なってる?^^;;なんだかヤバい人みたいじゃないかー^^;;

残虐なシーンを挟みつつも、登場人物たちの過去を少しづつ浮き彫りにして行くことで、物語は
クライマックスに向けて急速にドラマティックになって行きます。特に、ボンベロとカナコの関係が
少しづつ変化して行くところがいい。最初は冷血でスパルタなボンベロが、最後にはめちゃくちゃ
かっこいいヒーローのように思えてしまった。過去はともかく、現在の容姿はとてもかっこいい
とは言えないのに。でも、冷血な態度を取りながらも、ちょっとづつカナコに情が湧いて行くのが
伝わって来て、終盤のカナコの「ありがとう」を巡るシーンでは、こちらまで胸が切なくなって
しまいました。
終盤ちょっと駆け足になって急いだ感じがなきにしもあらずでしたが、一冊通して愉しめる
エンターテイメント作になっていて、満足感の高い作品でした。

獰猛なのに、妙に愛嬌があって憎めないブルドックの菊千代がとっても好きでした。ボンベロの
最高・最強のパートナーとして最後まで頑張りました。命を救われたことで、何気にカナコにも
懐いて、彼女のピンチに駆けつける姿がカッコよかった。ひと度相手を敵だと思うと容赦なく襲い
かかる恐ろしい殺人犬ではありますけれど^^;カナコとボンベロと菊千代、二人と一匹の関係が
とても好きでした。ラストは気になる終わり方だけど、きっとカナコが望んだことが起きると
信じたい。どちらもタフだもの。きっと大丈夫ですよね。
気になったのは、炎眉の毒を受けたにも関わらず血清を打たなかったボンベロは大丈夫なのか
というところなのですが・・・。片腕だけで済む問題??なんで全身に毒が回らないのかな~と
不思議に思ったのですが・・・ま、無事ならそれでいいんですけどね。

びっくりしたのはあとがきがあったこと。平山さんてあとがき書く人なんだ!?しかも、結構自虐
っぽいこと書いていて、びっくり。こんな作風だから、周りの評判とか評価なんて気にしない人
なのかと思ってた^^;(←失礼)。行間からこの作品にかける意欲や自信が伝わって来ました。
しかし、この作品が美女と野獣の物語だとは思わなかったなぁ・・・。カナコって美女か?^^;
スタイルのことは出て来たけど、顔の作りに関しては表記がなかった気がするんですが。まぁ、
ごくごくフツーの女と、残忍で顔が崩れた殺し屋の物語なんて書くと身もフタもないですしね(苦笑)。

いやいや、とっても面白かったです。やはり、平山夢明、タダモノではありません。
そういえば、この作品の新聞広告を見た時、本谷有希子さんの推薦文の「平山さんの、人として
間違ってるところが好きです」という文言がすごく印象に残っていたのですが、私は本書を読んで、
それ程、人として間違っている作品とは思わなかったんですよね。確かに、殺し屋だけが来る
定食屋って設定だけで大々的に人として間違っているといえなくもないのですけれど(^^;)、
残虐描写の裏に隠された本質は、もっと純粋で美しいもの(愛情であったり、友情であったり、
信頼であったり)なのではないかな、と思いました。
それに、なんといっても、この作品は『美女と野獣』の物語なんですから(笑)。