ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

津原泰水/「ルピナス探偵団の当惑」/原書房刊

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津原泰水さんの「ルピナス探偵団の当惑」。

エッセイストの岩下瑞穂が自宅マンションで殺害された。部屋のドアはオートロックで閉ざされて
いた。遺体を発見し通報したのは、合鍵を持った瑞穂の恋人。警察は前日瑞穂のマンションを
訪れていた編集者の勤野麻衣子を容疑者の一人と考えたが、有力な手がかりもなく事件の解決は
困難を極めた。事件を担当する警察官の吾魚不二子は、直感力に優れた妹の彩子にこの事件を
解決するべく資料を無理矢理提示。いい加減な姉にうんざりしつつも、事件に興味を惹かれた
彩子は、憧れの同級生・祀島君と、親友のキリエと摩耶と共に、事件の謎解明に乗り出した――
私立ルピナス学園に通う高校生たちが関わった三つの事件を収録。


ミステリ好きのお友達に以前からお薦めして頂いていた作品。津原さんは綾辻さんの雑文集で
絶賛されていた作家さんで、最近とても気になっていた存在でした。なかなかこの一作目を
開架で見かけることがなく読めずにいたのですが、先日ようやく発見。早速読んでみました。

いやいや、こんな面白い作品を読み逃していたとは・・・!!簡単に内容紹介すると、ルピナス
学園というミッション系の私立学園に通う高校生たちが主人公の青春ミステリ。キャラ造詣や
会話は非常に軽く、そこだけを切り取るともろにラノベ調な雰囲気なのですが(実際、一作目と
二作目は最初ラノベで発表された作品らしい)、基本はきっちり本格ミステリ。謎解きはやや強引
かな、と思わなくもなかったものの、収録されている三作どれもなかなか面白かったです。

キャラが非常に立っていて、それぞれが生き生きとしているのがいいですね。主人公の
彩子とぶっ飛びキャラの姉・不二子の会話がとにかく笑えます。不二子のキャラがいいなぁ。
こんな迷惑な姉は持ちたくないけど・・・^^;だいたい、警察官のくせに、女子高生に
事件解決を任せようとするってどういうことだ^^;無責任で自由奔放な不二子に振り回される
彩子が気の毒になりつつ可笑しかった。彼女の上司(年下だけどキャリア)の庚午も無責任さ
にかけては負けてないけど^^;いい大人が女子高生に頼りすぎ!ここの署はどうなってるんだ、
と呆れました(面白かったけど)。

それから何といっても彩子の憧れの君・祀島君のキャラが素敵。高校生男子のくせに女子に
無関心で、興味があるのは化石だけ、という不可思議クンなところがなんともミステリアス(?)
で良い。クールなのかと思ったら、案外人懐っこいところもあるし。淡々としているようで、
意外に熱い面もあったりして、面白いキャラでした。せめて一途な彩子の気持ちに気付いて
あげて欲しいのだけれど、全くその気配なし。なかなかの奇人変人で唐変木っぷりにも大いに
笑わせて頂きました。

どの話も面白かったのですが、残念だったのは彩子の直感推理で事件を解決したのは最初の
『冷えたピザはいかが』だけで、後二編は祀島君が探偵役に回ってしまったこと。祀島くん
でもいいんだけど、このシリーズは冒頭の作品みたいに彩子が直感力を働かせて推理した方が
面白い気がする。二人のキャラを考えると、祀島君が探偵役になる方が自然なのは確かなの
ですが、そこを敢えて、いやいやながらも『真相に気付いてしまう』彩子にやらせるところが
このシリーズの面白さに繋がるんじゃないかと思うので。



以下、各作品の感想。

『冷えたピザはいかが?』
エッセイストを殺した犯人は何故ピザを食べて行ったのか?というなんでもなさそうな謎が
重要なポイントになっているところが面白い。ただ、この真相にはちょっと首を傾げるところも。
わざわざ無理して食べなくても、ラップとかビニールに入れて持ちだしてどっかに捨てるとか
すれば良かったんじゃないの?と思わなくもない。だって、○○○が食べられないのに、わざわざ
食べるという選択肢を選んだってことが腑に落ちなかったです(それとも、○○○が食べられない
というのは犯人がついた嘘だった?)。

『ようこそ雪の館へ』
これはちょっと謎解きがわかりにくかった。三作の中では一番こてこての本格テイストな設定で、
ベタな雪密室もの。からくり自体はなかなか凝っていて面白かったのですが、被害者と犯人の関係
にどうも納得がいかないところがありました。動機はわからなくもないけれど、殺す前に話し合う
って選択肢はなかったのかなぁと思わずにいられません。敵対しているならともかくも。
彩子たちが止まった『おたふく荘』を不二子が『ブルドック荘』と言い間違えるところが妙に
ツボでした(どっかのシーンで祀島君も間違えるところが更にツボだった(笑))。

『大女優の右手』
自然死した女優の右手を持ち去った犯人は誰か、またその理由は、というのが軸。犯人には
ショックを受けたし、祀島君の謎解きを聞いてかなり落胆したところがあったのですが、最後の
最後に明かされる真実に少し心が軽くなりました。残念な展開なのは確かではあるのですが。
締めくくりには相応しい一作だったのではないでしょうか。




やー、面白かったです。ミステリとしてはちょこちょこと腑に落ちない点もあるのですが、
キャラたちの会話だけでも愉しめました。この辺りは初野晴さんの『退出ゲーム』のシリーズ
に通ずるところがあるかも。ヒロインのキャラも、片想いの相手への一途さも似ているし。
続編があと一冊あるようなので、そちらも絶対に読みたいと思います。

余談ですが、実は私、津原さんのことをずっと女流作家だと思ってました・・・だって
やすみだし、作風も女性っぽい感じがしていたので・・・男性作家さんなのですね^^;
文章ももっととっつきにくいのかと思っていたら、とっても読みやすかったです。
この作家さんは今後要チェックかも!