ミステリ読書録

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津原泰水/「ルピナス探偵団の憂愁」/東京創元社刊

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津原泰水さんの「ルピナス探偵団の憂愁」。

私立ルピナス学園で青春時代を謳歌した『ルピナス探偵団』のメンバーたち。卒業して皆それぞれの
道を歩んでいた。しかし、そんな彼らの元に不意にもたらされたメンバーの一人の悲報。結婚して
幸せな時間を過ごしていた筈の彼女だったが、彼女の病魔は静かに彼女の身体を蝕んでいった。葬儀の
席に出席した他のメンバーたちは、彼女が夫の親戚から生前のある行動が元で恨まれていることを
知る。彼女らしからぬ行動にメンバーたちは首を傾げるが、その裏には何かが隠されているに違い
ないと真実を探り始める――。失った時間の輝きと尊さを詰め込んだ傑作青春ミステリー。


傑作。読んだばかりの前作(ルピナス探偵団の当惑)がなかなかに気に入ったので早速
続編も借りてみました。事前情報から主要登場人物が死んでしまうというのは知っていたの
ですが、冒頭からその死が伝えられて、やっぱりとてもショックを受けました。前作ではそれ程
目立った活躍をしていなかった彼女ですが、本書は間違いなく一冊通して彼女を偲ぶ為の物語です。
彼女自身の事件は一話目のみではあるのですが、時系列を遡る形で一作ごとに読み進めて行くと、
彼女の人となりが少しづつ浮き彫りにされ、彼女と過ごした時間がどれだけ他のメンバーたちに
とって輝いていたか、尊いものだったのかが鮮やかに浮かび上がって来ることがわかります。
この構成がとにかく素晴らしい。こうした形でなければ、ここまでの感慨を持って本を閉じる
ことが出来なかったのではないかと思う。『ルピナス探偵団』の活動を通して友情を深め合った
彼らの結びつきが強いのがわかるだけに、最後まで読むと失ったものの大きさにはっとさせられ、
第三話のラストの彼女の言葉が胸に重く残るのです。彼女はどこまで行っても美しく、高潔で
気高かった。その自信は、ゆるぎない友情の存在があったからだと、彼女の言葉でわかる。頭が
悪い計算が出来ないと言われて、からかわれていた彼女でしたが、犯罪者を前に毅然とした態度で
自分の言葉を伝える姿は本当に凛としていて、カッコ良かった。前作を読んだ限りでは、彼女が
こんなに強い人だとは思わなかったです。無邪気でただ可愛いだけの女の子だと。彼女に焦点が
当たった分、彩子の姉の活躍が少なかったのは残念ですが、ちょこちょこ出て来て楽しいことを
しでかしてくれるところは相変わらずで、しんみりした空気の中で笑いを提供してくれる貴重な
存在でした。

一つ一つの謎自体はそれほど大きなカタストロフがあるわけではないのですが、その事件の
積み重ねが『ルピナス探偵団』としての歴史であり、友情物語の一貫として最後の卒業シーン
に繋がって行く伏線となっているところが巧いですね。

最後の祀島君による四人の誓いの言葉がとても心に沁みました。


我ら四人このルピナスの苑にて

互いを思いやり互いに献身し

病めるときも健やかなるときも

ほかの最良のしもべたらんことを

そしてまた

たとえ死が我らを分かつとも

三度の別離と

最後なる睡りののちの

心愉しき再会を

すなわち永遠の友情を

固く誓い合う


こんな風に誓い合える友人がいること、心から羨ましいと思う。誓いの言葉の通り、
一人とは本当に死によって分かたれてしまったけれど、彼女との友情は永遠に色褪せ
ないし、他のメンバーたちにとってのかけがえのない宝物なのでしょうね。
どんなに時間が経っても、キラキラした青春の思い出が色褪せないように、彼女という
宝物はずっとキラキラ輝いたまま他のメンバーたちの手の中にあり続けるのでしょう。


学生時代から遠く離れてしまった私のような人間には、懐かしい郷愁を感じながら読めるし、
青春を謳歌している学生の方ならそのまま自分に投影して読める作品じゃないかな。
ちょうど卒業シーズンの今読めたのは非常にタイムリーだったと思います。
切ないけれど、余韻の残る素敵な青春ミステリーでした。お薦めです。

気になるのは彩子と祀島君の今後ですが・・・きっともう書かれることはないのだろうなぁ(寂)。


ちなみに、ルピナス(別名『昇り藤』とも言うのだとか)っていうのはこんな花らしい。
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花言葉は、
「貪欲」「空想」「欲深い心」「母性愛」「いつも幸せ」「あなたは私の心にやすらぎを与える」
など。「たくさんの仲間」なんて意味もあるそうです。学園の名前にはぴったりかも
しれませんね(「貧欲」はともかく^^;)。