ミステリ読書録

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有川浩/「ラブコメ今昔」/角川書店刊

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有川浩さんの「ラブコメ今昔」。

陸上自衛隊習志野空挺部隊第一空挺団大隊長であり二等陸佐・今村和久。五十を過ぎたベテラン
自衛官に、広報の女新人自衛官・矢部千尋が願い出たのは、隊内紙『あずま』に今村と妻の馴れ初め
話を載せること――必死で抵抗する今村に対し、千尋が出た手段とは――(『ラブコメ今昔』)。
野性時代』で不定期連載された‘自衛官ブコメシリーズ’6作を収録。


有川さんの自衛隊ものは今ひとつ肌に合わないのでスルーしていた本書ですが、開架で見かけて
やっぱり気になって借りてしまいました。タイトルからして甘甘恋愛ものなのはわかるので、
とっつきにくいところもなさそうかな、と。実際、いつもひっかかる自衛隊関係の特殊用語などは
それほどなく、想像通りラブコメストーリー中心だったのでとても読みやすかったです。
なぜここまで自衛官に拘るのかは相変わらず疑問を覚えるところではありますが^^;
『クジラの彼』がもう、ド直球のベタ甘恋愛ものだったので結構身構えていたのですが、あそこ
までのベタ甘さではなかったように思います。表題作なんかは主人公が50を超えたオッサン
だけに、奥さんとの馴れ初めはいかにも純愛プラトニックだし、『青い衝撃』は女ストーカー
を題材にしているだけに、重苦しく不穏なお話でしたし。自衛官たちのちょっと毛色が変わった
ラブストーリー集って感じでした。もちろん、要所要所でお約束の赤面シーンも挟まれてました
けれど^^;まぁ、それがなければ有川作品の醍醐味がなくなってしまいますからね。
相変わらずヒロインにはいまいち共感出来ないタイプが多かったのですが、どのお話も時に赤面、
時にじたばたニヤニヤしながら楽しく読めました。でも、いつも引っかかるのは自衛官の役職
ヒエラルキー。『ダンディ・ライオン』の千尋と吉敷の階級差とか、どうもピンと来ないんですよね。
これは警察官とかでもそうなんだけどね。公務員の階級制度はどうもよく分からない・・・。
なんちゃら一佐とかなになに一曹とかなんとか二尉とか、もう、どうなってるの?って言いたく
なっちゃう。ま、気にしなきゃいいだけって話なんですけど・・・^^;


以下、各短編の感想。


『ラブコメ今昔』
千尋のキャラはどうも好きになれないなぁ、と思ってたら、一番最後に彼女のお話が入ってました。
かといってそれを読んで印象が変わったかというとそうでもないんですが^^;今村さんの奥さん
が可愛らしくて好きでした。お見合いから交際に発展するまでの家庭も、初々しくて純情で素敵
だなぁって思いました。お見合いの釣書に趣味『漬け物』って書いちゃう正直さも可愛い。
ちなみに、うちの親もお見合い。母は父が可哀想だから結婚してあげたとか言ってたけど、
真偽の程はいかに?(笑)

『軍事とオタクと彼』
積極的だなぁ、ヒロイン。私には絶対出来ない行動です。しかし、こんな可愛い彼が捕まえ
られるなら・・・っ!(←おい)と思ったんだけど、彼にはある秘密が・・・!って、これ位
なら普通にいっぱい巷にいるんじゃない?『電車男』思い出しました。HDDプレイヤープレゼントは
やりすぎだと思うけど^^;言うとおりにしてあげる歌穂はエライ。愛ですねぇ。彼氏のベッドの
天井にコレがあったら彼女としては何より嬉しいですね。でも、今回一番好感が持てたのは歌穂の
弟君。グッジョブ。脇役にスポットを宛てた作品なら、千尋と吉敷の物語より、彼主体の物語の方
が読みたかったな。

『広報官、走る!』
理不尽な上司のイジメに耐えながら健気に頑張る女の子に惹かれる男の心理がリアル。きっと
男性はこういうのに弱いよね。王様ディレクターの言動にはムカムカイライラ。でも、テレビ
業界ってこういう人が多いんだろうなぁ。政屋のラストの行動には痺れました。こういうこと
されちゃったら、女の子としては落ちるしかないんじゃない?

『青い衝撃』
これは読んでいてストーカー女のやり口に寒気がしました。襟にメモ入れるって!!ある意味
ホラーですよ、コレ。ぞぞぞ。でも、こういうメモを発見しちゃったら、やっぱり疑心暗鬼になる
のもむべなるかな。旦那に対する不審と不安が芽生えて行く過程がとてもリアル。旦那が人気者
すぎるのも考えものですねぇ。

『秘め事』
上官に隠れて交際を続ける二人のラブラブっぷりに当てられながら読んでいたら・・・衝撃の
展開で突き落とされた気持ちになりました。でも、自衛官なら、いついかなる時にこういう事態が
起きてもおかしくないのですよね。それだけの覚悟が要るんだなぁと身が引き締まる思いでした。
一番、自衛官の恋愛のシビアな面が出ている作品かもしれません。

『ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編』
なんか、吉敷の態度の豹変っぷりがどうも理解出来なかったです。動揺していたとはいえ、あそこ
まで邪険にしておいて、隠し撮りって、アンタ。うーん、好きな人だからいいのかもしれないけど、
そうじゃない人にやられたらドン引きするかも。『女』を全面に出しているような千尋の性格も
やっぱり好きになれなかったです。すぐ泣く女は好きじゃないのです。これがイマドキの恋愛
なんですかねぇ。




重かったり暗い展開が途中にあっても、最後はハッピーハッピーで終わってくれたので、読後は
爽やかでした。実際、彼女に対してこんなに甘甘な男性がそうそう実在するものなのか、ツッコミ
たくもなるのだけど、そこはまぁ、希望的観測ってことで(苦笑)。
明るい気持ちになりたい時は有川さんのベタ甘恋愛モノが最適かもしれません(笑)。