ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

野村美月/「”文学少女”と死にたがりの道化」「”文学少女”と飢え渇く幽霊」/ファミ通文庫刊

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野村美月さんの「”文学少女”と死にたがりの道化」「”文学少女”と飢え渇く幽霊」。

中学三年の一年間、激動の人生を経験した井上心葉は、平和で平凡に生きて行こうと決めて高校に
入学した。しかし、ひょんなことから文芸部の天野遠子先輩と出会い、文芸部に入部させられて
しまう。遠子先輩の正体は、物語を文字通り”食べてしまう”妖怪だった。物語を食べて生きる
彼女は、甘くて美味しいラブストーリーが大好物だった。心葉は、放課後になると文芸部の部室で
遠子先輩の『おやつ』の為に物語を書かされる羽目に。そんな不思議な先輩に振り回されつつ、
平和な学生生活を送っていた心葉だったが、ある日遠子先輩が中庭に勝手に設置した文芸部の
ポストに書いた『あなたの恋を叶えます』という文言を見て、一人の女生徒が二人の元に
やって来る。彼女の恋を叶える為にラブレター代筆を請け負うことになってしまった心葉は、
毎日彼女の為にラブレターを書くことに。しかし、彼女の恋した『先輩』は学校に存在しない
人物だった――(「”文学少女”と死にたがりの道化」)。


以前から気になっていた文学少女シリーズ。古本屋に行く度探していたのですが、なかなか
一巻が見つけられずにいたのですが、先日ようやっと発見。二巻も一緒に売っていたので
同時購入。買った本は後回しにしてしまうことがほとんどなのですが、ちょうど図書館本も
落ち着いた時だったのでなんとなく読み始めたら止まらなくなってしまって、結局二冊とも
一気に読んでしまいました^^:
いや、面白い。多分私好みだろうなぁとは思っていたのだけど(慧眼の冴さんにはまるっと
見抜かれていたようですが^^;)、予想以上にはまってしまった。まずキャラ造詣が良い。
重い過去を持ちが故に、平凡に静かに日和見主義で生きて行こうとする心葉少年と、不思議
文学少女・遠子先輩、二人のズレた会話を読むだけでも楽しい。でも、それだけだったら
単なるラノベの域を出ないけれども、このシリーズは、そこにきちんとミステリと文学という
スパイスが絶妙な配合で絡められていて、しっかりとした『読み物』に昇華させられて
いるところが素晴らしいのです。ファミ通文庫というラノベレーベルに侮っていると痛い目に
遭う。ほんわかした主役二人の性格と関係から、のほほんとした青春小説なのかと思いきや、
どっこい、事件の背後には悲しく重い事実が隠されていて、読後はかなり苦いものが残る。
キャラとストーリーの甘辛と軽重のギャップとバランスが良いところが気に入りました。
表面的には軽いキャラでも、実は裏に違う顔を持っていたりして、なかなか意外性のある
キャラが多いところも良いですね。ちょっと完全にはまっちゃいましたぞ。これは早急に
三巻以降も手に入れなければ。続きが気になるぜよ。しかし、調べてみると、かなりの冊数
出ているんですね。こりゃ追いかけるのも大変だ。とにかくシリーズものは順番に読みたい派
なので、気長に揃えて行きたいです。二作読んだ限りでは心葉君と遠子先輩にラブ要素が出て
来るかわからないのですが、そういう展開になっていくのかなぁ。もちろんそうなって欲しい
という願望はありますけれど。明らかに『嫌い嫌いも好きのうち』を実践している琴吹さんの
存在も気になりますし。心葉君のトラウマである美羽ちゃんの事件のこともまだまだ謎のまま
ですし。ああ、続きが読みたい。じたばた。こういうほろ苦青春ミステリーはツボなんだってば。


以下、一冊づつの感想ちょっとづつ。

『”文学少女”と死にたがりの道化』
千愛ちゃんのキャラにはヤラレてしまいました。意味深に挿入される太字のモノローグ部分も
完全に騙されてましたし、なかなかに伏線の張り方が巧妙で感心してしまいました。ここまで
しっかりミステリ要素が入った話だとは思っていなかったので、嬉しい誤算でした。手法としては
シンプルですが、ラノベでこれだけ計算された構成の作品が読めるとは思っていなかったので、
すっかり油断しておりました。でも、この作品最大の読ませ所は、終盤で遠子先輩がある人物に
必死になって説明する太宰の作品のくだりだと思う。太宰は『人間失格』のような暗い作品
ばかりじゃない、いろんなタイプの作品を書いていた作家なんだということを必死に伝えようと
する遠子先輩の言葉は、あんな状況下だからこそ余計に心に響きました。私も、太宰を読まなきゃ
いけない気分になりました。ミステリとしても青春小説としても面白いけれど、文学の素晴らしさ
がしっかり伝わって来るところがこのシリーズの一番良い所なのかもしれません。苦いラスト
でしたが、心葉くんと遠子先輩の必死の説得が、ある人物に通じたことが救いでした。

『”文学少女”と飢え渇く幽霊』
これは一巻より更に重いお話でした。特に、真相のやるせなさにはどんよりしてしまいました。
でも、こちらも『嵐が丘』に絡めた作品構成でしっかり読ませてくれて満足でした。数字の暗号
解読に関してはちょっと拍子抜けではありましたが^^;
一巻では太宰を読みたくなりましたが、こちらでは『嵐が丘』をきちんと読みたくなりました。
裏で糸を引いていたある人物の正体にも驚かされました。明るいキャラだと思っていただけに・・・。
なかなかハードな展開で、結末もただただやるせないものではありましたが、その根底にあるもの
は、後味の悪いものではなかったので読後はそれほど悪くなかったです。何より、やっぱり遠子
先輩のキャラに救われたところはありますね。ラストで事件に関わった人物が残したメモを
寂しそうに食べる遠子先輩の姿に切なくなりました。物語を食べちゃう妖怪という設定に首を傾げる
ところもなくはないのですが、彼女の文学に対する真摯な態度と愛情には、頭が下がります。
本好きとして、本を破いて食べちゃうってのはどうなんだ、とも思うんですけどね(苦笑)。
でも、こんな可愛らしい妖怪なら、私も友達になりたいぞ。萌え(オヤジ)。


この萌え~なイラストも良いですねぇ。イメージぴったりです。
とっても面白かった。ファミ通文庫、恐るべし。続きも追いかけますよ~。