ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕/「白戸修の狼狽」/双葉社刊

イメージ 1

大倉崇裕さんの「白戸修の狼狽」。

世界堂出版に就職して二ヶ月。白戸修は、正式な配属が決まる前に、適性を見る為、見習い社員
として二週間づついろいろな部署を回らせられているところだった。五つ目の配属先は「月刊
模型」。配属から一週間経ったある日、帰り支度をしていた白戸は、先輩から雑誌の表紙を担当
しているイラストレーターの轟の家に届け物に行って欲しいと頼まれる。轟の家は中野だという。
中野は白戸にとって数々の災難を呼び起こした街だ。嫌な予感にとらわれつつ、頼みごとを嫌と
言えない白戸は届け物を持って中野に向かったが、途中で道に迷ってしまう。そこで一人の男と
出会ったことから、白戸はまたしても事件に巻き込まれてしまうのだが――お人好しの白戸青年
が中野の街で巻き込まれる5つの事件を収録。


楽しみにしていた『ツール&ストール(文庫版では『白戸修の事件簿』に改題)の続編です。
お人好しの白戸君のキャラが大好きだったので、続編をずーーーっと待ち望んでおりました。
お久しぶりの白戸君、今回も更にお人好し度がグレードアップしていて、もうここまで行くと
あっぱれとしか言いようがない『いい人』っぷりに今回も多いに楽しませてもらいました。
ほんと素敵なキャラです、白戸君。本人全く望んでいないのに、なぜか毎回中野に行かされ、
事件に巻き込まれてしまう。きっと、彼の中に、中野に吸い寄せられるような磁石でも持ってる
んじゃないのかな(笑)。どのお話も彼を事件に巻き込むキーパーソンが出て来て、白戸君は
その人物と行動を共にせざるを得ない状況に陥ってしまいます。『一緒に来て』と言われたら、
断れないのが白戸君。なんだかんだで協力してしまう。この辺りのドタバタな感じが読んでいて
とっても楽しい。ミステリとしてはどのお話も特筆すべきところはないのですが、白戸君が
行きたくないと避けている中野に行かされ、事件に巻き込まれて、結局最後にはお人好しっぷり
を発揮して事件を解決してしまう、このいい意味でのワンパターンの展開がとっても痛快で
気持ち良く読めました。やっぱり、なんといっても、白戸君のキャラが生きているのが良い
ですね。悪く云えば単なる優柔不断なんですが、彼の場合、それがなんとも憎めない。要するに、
どこまで行ってもお人好しなんです(笑)。ほのぼのとあったかい気持ちになれるユーモア
ミステリーです。気持ちがささくれた時に読むと、白戸君のキャラが嫌なことを忘れさせて
くれますよ(多分)。


以下、各作品の感想。

『ウォールアート』
落書き犯を捕まえる手助けをすることになった白戸君。
シンナーで○○って消えないんですね。布とかでこすったらその部分も剥がれちゃったり
しないのかな。ラストの白戸君のお人好しなセリフにほろり。ここで帰って寝ないところが
白戸修。

『ベストスタッフ』
若干15歳のアイドルのコンサート設営のアルバイトをすることになった白戸君。
仙道先輩って、前作で出て来てましたっけ・・・全然覚えてないんですけど^^;;仙道先輩、
ベテランとはいえ単なるバイトの筈なのに、ホールの責任者と対等に話しているところが大物だ。
他のバイトも仙道先輩には従ってるし。何者?^^;しかし、雛美紀子、若干15歳で○○は
まずいでしょ。加護ちゃんみたいになっちゃうぞー。ラストの白戸君の捨て身の勇姿には頭が
下がります。そして、腰を痛めているにも関わらず、やっぱり先輩の手伝いを買って出てしまう
白戸君、だから良い人すぎだってば。

『タップ』
盗聴犯を捕まえる手助けをすることになった白戸君。
女性の部屋に仕掛けられた盗聴器には意外なからくりが隠されていました。事件の裏にあったのは
ある人物の諦観とやるせない思い。このシリーズにしては重苦しさを感じる事件でしたが、ラストは
ご都合主義的展開とはいえ、救われた気持ちになりました。

『ラリー』
電車でとんでもないスタンプラリーに参加させられることになった白戸君。
大倉作品でおそらく唯一読み逃している『無法地帯』とのコラボ作品。くぅ、読んでおけば
良かったーー!!と後悔しきり。図書館に蔵書がなくて、ずっと読めずにいた作品なのですが、
この作品を読んでなんとしてでも入手して読まねば、という気になりました。宇田川のキャラが
とても良かったからね。最後に出て来たあの人もそちらのキャラですよね。白戸が巻き込まれた
出来事の裏には、ある人物の優しい気持ちが隠されていました。ほろり。途中で出て来た二人の
小学生は絶対何かある、と思ってましたが・・・こういうからくりでしたか。良いお話です。

『ベストスタッフ2 オリキ』
今度はデビューしたばかりの5人組グループのコンサートの会場設営のアルバイトをすることに
なった白戸君。仙道先輩再登場。
オリキって何なんだろ?と思ってたら・・・『追っかけにリキ入れてる人』の略だそうです・・・
し、知らなんだ^^;ブラリブラックリスト行き』とか、追っかけに関するいろんな特殊用語
やルールが出て来て勉強になりました(笑)。なかなか厳しい世界なんですねぇ。どこまで現実
かはわかりませんけど^^;ラストはまたも白戸君の捨て身の献身でアイドルを救いました。
一体、彼はどこまで有名になるんでしょうか(笑)。本人地味なのに、名前だけが一人歩きして
行っちゃいそうで、ちょっとお気の毒^^;このままベストスタッフに関わっていると、業界内で
知らない人はいないくらいになっちゃいそうだぞ。そして、長野県にもあるんですね、中野駅(笑)。



こんなにお人好しで、ちゃんと世の中渡って行けるのか心配になってしまう白戸君ですが、なぜか
これがちゃんとやっていけちゃうんですね。そして、関わる人がみんな彼のことを好きになって
しまう。なんとも癒し系なキャラクターです。私も大好きです。
表紙の絵がなかなか凝っていていいですね。アルファベットでNAKANOを表わしているのね。
それぞれの事件のキーポイントとなる物もそれぞれに描かれているし。読み終えた後、内容と
照らし合わせてみると面白いかもしれません。

白戸君みたいな友達が私も欲しいなぁ。ついつい何でも頼んじゃいそうだけど(笑)。