ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「こぼれおちる刻の汀」/講談社刊

イメージ 1

西澤保彦さんの「こぼれおちる刻の汀」。

不条理な出来事に遭遇する女性宇宙パトロール隊員のSF。世界の揺らぎに翻弄される女性科学者
のSF。「時間の環」に嵌っていく老女のミステリ…。SFとミステリの融合にこだわる著者の最
終到達点(あらすじ抜粋)。



えーと、すみません、久しぶりに黒べる子登場記事でございます。
これから作品を読まれる方、批判的な記事を読みたくない方、どうぞお引き取り下さいませ。












西澤さんの最新刊。もー、どうしたもんか、これ。↑のあらすじ通りにSFとミステリの融合が上手く
行っているとは到底言い難いです。三方向の視点から順番に物語が進んで行くのですが、これが
最終的に綺麗に繋がるっていうならまだ理解出来るのですが、最後までバラバラなまま。一応
登場人物の名前だけは被っているのですが、それぞれの人物に因果関係も今ひとつよくわからない
まま、もしかしたら前世とか輪廻とかそんなものなのかもしれないですが、そこも説明不足
なので、一体なぜこの三つを繋げて一つの作品にしようと思ったのか甚だ疑問です。もともと
それぞれのお話は別々に考えられたものだったようなので、それぞれをもっと膨らませて一作
づつ書いた方がまだ統一感があったんじゃないだろうか。とにかく、SFの部分は何が何だか訳
わかんなくて一応目で文字を追うものの、ほとんど頭には入って来なかった。ちょっと前に西澤
さんのSF短編集を読んだ時も全く同じ状態だったのですが、どうも、私は西澤さんのSFとは
相性が悪くなってきているようです。もともと宇宙系のSFは苦手ではあったのですけれど、
それにしても、西澤さんのSFは自己満足が過ぎる。いや、SF好きの人なら理解出来るのかも
しれないけど、それにしても特殊用語が多すぎるし、SF初心者にも面白く読ませようって
意志が感じられない筆致に、なんだかイライラしました。これは上記に挙げたSF短編集に収録
されていた『マリオネット・エンジン』を読んだ時と全く一緒。どうやら、本書のSF部分は
著者が同人誌時代に書いていたものの焼き直しだそうなので、ある程度の設定の甘さは仕方がない
とはいえ、今は職業作家として本を出しているのだから、もう少し読者が理解しやすい内容に出来
なかったのかなぁと思わずにいられない。そもそも、そのSF部分と唯一のミステリ部分である
コーダAの部分をくっつける必要性を全く感じなかった。個人的にはそこの部分が一番面白く
読めていたので、はっきり云えばその部分だけ繋げて一作にしてくれた方がずっと評価出来た
と思うので残念です。ただ、そのミステリ部分も、殺人の動機には唖然。こんな身勝手過ぎる
理由で殺されちゃたまらんよね、ホントに。まぁ、ラストは自業自得な皮肉な結末が待って
いるので、その辺りでは溜飲が下がった部分もありましたが。

三つの要素で共通していることと云えば、西澤さんお得意のレズビアン。そこでだけ統一感出して
もさぁ。や、やっぱり出たかーーって感じで苦笑い。もう、いい加減に少しはそこから離れたら?
と言いたくなるのですが、きっとこれからもこの要素だけは使い続けるんだろうなぁ。レズ描写も
毎回マンネリなので、さすがに飽きる。もうちょっと、角度を変えて書けないものなのか。
西澤ワールド内でのレズビアン率といったら、ものすごいものがありますね。別に、その世界を
否定するつもりは毛頭ないけれど、もうちょっとまともな恋愛も書いて欲しいと思ってしまう。
SFとミステリの融合って聞いたから、『七回死んだ男』のような傑作がまた読めるのかと思って
期待していただけに、残念。『マリオネット・エンジン』でも思ったけれど、西澤さんのSFとは
距離を置いた方が良さそうだ。新作って聞くとすぐ飛びついちゃうんだけど、今度からちゃんと
ジャンル確認して予約しよう^^;








SF好きなら面白く読める作品かもしれませんが、この作品でますますSFに苦手意識がついて
しまったかもしれません・・・。
ミステリパートはそれなりに面白かったんですけどね。三つの要素がバラバラだったのが
なんとも痛かった。もう少し全体的な纏まりが欲しかったです。残念。