ミステリ読書録

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桜庭一樹/「道徳という名の少年」/角川書店刊

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桜庭一樹さんの「道徳という名の少年」。

町でいちばんの美女が産み落としたのは自分とそっくりの四姉妹、1、2、3と悠久。四人の
姉妹はすくすくと素晴らしい美女に育ったが、ある日母親が商人と恋に落ちて家を出て行って
しまった。四姉妹は、お金を稼ぐために順番に娼婦になった。15歳の悠久が娼婦になった頃、
いなくなった母親が突然家に戻って来た。母は旅の商人との間に一人の男の子を産んでいた。
四姉妹の弟は、美しい四姉妹とは全く似ていなかったが、末っ子の悠久は、この痩せこけて
悲しげで、父親譲りのバターみたいな黄色い目をした弟をたいそう愛した。やがて悠久は
弟の子供を身籠り、生まれて来た子は『道徳』と名付けられた――(「1、2、3、悠久!」)。


桜庭さんの新刊。手にした瞬間思ったのは「薄っ」でした(笑)。全部併せても123ページ
しかありません。しかも間にイラストがぼこぼこ挟まっているので、本文はさらに少ない。
実質1時間もかからずに読めてしまいました。ただ、ページ数は少ないですが、内容はかなり
密度が濃く、背徳的なお話。語り口や装幀は童話調なのですが、中身はかなりアダルト向け。
何代にも渡って語り継がれる不道徳な愛と性の物語。桜庭さんらしいねっとりとした淫靡で
濃密な空気に支配された作品です。いかにも桜庭さんって感じの荒唐無稽で奇抜な設定は
嫌いではないのだけど、途中から一貫性のない荒唐無稽さになって行ってる感じがして、
ちょっと最後ついて行けないところがありました。冒頭の『1、2、3、悠久!』辺りは
なかなか好みだったんですけどねぇ。ネーミングセンスもいかにも桜庭さんって感じで面白い。
桜庭さんは、よくよくタブーの恋愛を描くのがお好きらしい。もう少し綺麗な描写だったら
良かったのですが、そこを敢えて下品にエグく描いていて、個人的にはその辺りの『行き過ぎ』な
感じが不快で、ちょっと読んでいて気持ち悪かった。そのエグさが桜庭一樹らしさだとも思うの
ですけれど・・・この辺りは読む人によって好き嫌い分かれそう。美しかった母親が年を取ると
こぞってぶよぶよと太って肉の海に溺れてしまうという辺りの描写が繰り返されるところも
ちょっとくどさを感じて好きじゃなかった。綺麗な人は綺麗なままでいて欲しいと思ってしまう。
年月の無常さを表現したかったのかもしれませんが、血の濃さ故にか、全員がそういう体質に
なってしまうというのは、なんとなくやりすぎな感じがしてしまいました。童話調なのだし、
その辺りはもう少し綺麗な描写でまとめても良かったんじゃないのかなぁ。

この奇抜で独特の世界観自体は好みですが、読み終えて「だから?」って言いたくなってしまった。
中身は濃いのだけど、濃すぎて消化不良起こして食傷気味になってしまった感じ。あと、多分
多くの人が印象的だと感じる『バターみたいな黄色い目』っていう描写が個人的にはすごく
不快だった。なんか、黄色い目って、想像すると不潔な感じがするんだもの。なんとなく。
バターっていう、しつこさの代名詞みたいな物質名が出て来るところも、胃にもたれる感じ。
面白くなかった訳じゃないし、決して嫌いな作品でもないのだけど、どこか肌に合わない不快さ
を感じて、はまりきれずに終わってしまった感じでした。最後の現代パートだけちょっと
浮いてる感じもしたし。桜庭さんて、何世代にも渡る血族の物語を書くのがお好きみたい
ですが、大抵最初は良くても最後の現代に近くなるパートが尻すぼみになってしまう傾向に
ある気がする。だったら、そこまで書かなくても、一代だけの濃い物語を書いた方が作品として
すっきりして面白くなる気がするんだけどなぁ。って、何か偉そうだな、この発言^^;;

装幀は非常に凝っていて美しいです。ただ、私には中のイラストがいまいち作品にはまっている
ように思えなかったんですよね・・・。イラスト(特に人物)は入ってない方が良かった気がする・・・
(なんて書くと、この挿画を書かれた野田さんのファンに殺されそうですけど^^;;)。


良くも悪くも桜庭さんらしい大人向けの童話です。『少女七竈』と『ファミリーポートレイト』の
第一部と、『私の男』をミックスさせて童話化したらこうなるんだなーって感じ?(わかりにくい?^^;)
短くてあまりにもあっさりと読めてしまうから、なんか、数日後にはほとんどの話を忘れてそうな
気がするな・・・。
読んでた時よりも記事にしてみたら辛口になってるなぁ。あれれ。そんなに印象悪い作品じゃ
なかった筈なんだけどな~^^;すみません^^;;