ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三羽省吾/「ニート・ニート・ニート」/角川書店刊

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後先考えずに会社を辞め失業中のタカシ。ヤバイ女に手を出して追われる身になったレンチ。引き
こもりの社会不適合者キノブー。中学時代からの腐れ縁の三人が東京を脱出して向かった先は
北海道。途中、レンチが旅には美女が必要と出会い系で引っ掛けた女と合流するも、その場に
いたのは冴えないメガネの家出少女・月子。曰くありげな月子に弱みを握られ同行を許す羽目に。
三人のニート+家出少女の奇妙な珍道中が始まった――。


久々三羽さん。タイトルそのまんま、ニートの物語です。主役となるのは、失業したばかりの
タカシ、仕事もしないで女のヒモになっていた挙句、ヤバイ女に手を出して追われる身になった
レンチ、ひきこもりのキノブーの、ニート三人組。そこにワケありの家出少女・月子が加わり、
四人は北海道を目指してロングドライブをすることに。中盤に差し掛かるまでは、とにかく
それぞれの人物(特にレンチと月子)の社会をなめた態度や自分勝手な言動にイライラムカムカ、
何度も読むのをやめようかと思ったくらいだったのだけど、次第に彼らのハチャメチャぶりや
屈託のないバカさ加減が憎めなくなって来て、引き込まれて行きました。特に、彼らが北海道
のタカシの伯父の所に行ってからは面白さが加速して一気に読めました。三人の男ニートだけの
お話だったら途中で間違いなく読むのをやめていたと思うのですが、紅一点の月子の存在が
あるおかげでぐっと作品が面白くなっているように思います。ただ、月子自体は最初の印象は
最悪。あまりの自分勝手な言動に唖然とする場面がいくつも。特に、キノブーに木彫りの人形を
買わせるくだりには本当にムカっときました。普通の理屈が通用しない人間と会話するのって
ほんとにストレスたまるだろうなぁとキノブーが気の毒になりました。ただ、それを受け入れて
しまうキノブーの心の広さ(というか、諦め?)には感心を通り越して呆れてしまったのですが。
社会不適合者という負い目があるにしたって、優しすぎでしょ。旅に加わる羽目になったレンチ
からの仕打ちに対しても、寛大すぎるし。優しいっていうより気が弱いだけなのかもしれません
けれど。でも、月子には月子の、キノブーにはキノブーの、人に言えなかった重く辛い過去が
あるとわかって、ぐっと彼らに好感が持てるようになりました。特に月子の身勝手な行動の裏に
隠されたものは思った以上に重いもので驚かされました。彼女がタカシの伯父のゴジさんの子供に
優しかった理由もそのことがわかって腑に落ちました。みんなで彼女の誕生日を祝うシーンが
好きでした。ゴジさんの奥さんのミサコさんの優しさにも温かい気持ちになりました。
ゴジさんやミサコさんと彼ら四人の触れ合いが良かったですね。特にニートな彼らがゴジさん
から肉体労働をさせられることで、彼らが労働によってお金を得るくだりが挟まれているところ
が良かったです。やっぱり、ぐーたらなだけで世の中生きていける筈がない訳で、その辺りの
厳しさもきちんと彼らには学ばせてほしかったので。とはいえ、それも一時的なことでしかなく、
結局最後まで彼らはニートのままなので、それほど目に見えて彼らが成長しているとは言い難い
ところがあるのですが。でも、この旅の中で彼らが出会った人や経験したことは確実に彼らの中の
何かを変えたでしょうし、未来に向けて一歩か二歩は前進出来たのではないかな。

彼らが肉体労働するくだりは、太陽がイッパイいっぱいを彷彿とさせました。こういう場面
を書かせたら、やっぱり巧いですねぇ。はちゃめちゃなストーリー展開や妙なテンションの高さ
も似ているかも。

北海道から帰った彼らがこれからどうするのか非常に気になります。レンチはきっと何も変わらない
んだろうけど(苦笑)。タカシは働くでしょうね。キノブーも引きこもりからは脱出出来そうな気が。
月子は・・・どうだろう。叔父夫婦に引き取られるとしたら、学校に行くのかも?三人と月子が
再会することはもうないのかもしれないけれど、きっと心のどこかで繋がっているんでしょうね。
恋愛でも友情でもなく、強いていえば同志とか戦友とかって感じなのかな。こういう存在がいる
のって心強いですね。

前半はちょっとだるかったけど、なかなか痛快で楽しく読めました。でも、やっぱりニート
ヘタレで他人のお金を頼って生きようとするような、世の中をなめているレンチたちには、
ついつい心の中で『働けよ!』と悪態をついてしまう自分がいたのでした・・・^^;