ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦/「ペンギン・ハイウェイ」/角川書店刊

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小学四年生のぼくは、たいへん頭の良い人間でノートを取るのが大好きである。おそらく、ぼくは
日本で一番ノートを取る小学四年生のはずだ。父から「毎日の発見を記録しておくこと」と言われた
ぼくは、毎日の出来事をノートに記録しておくことにした。そんなぼくがペンギンを目撃したのは
五月のことだった。ぼくが通う歯科医院の先にある空地のまんなかに、たくさんのペンギンがよち
よちと歩きまわっていたのだ。なぜこんなところにペンギンがいるのか。突如現れたペンギンたちに
街中は大騒ぎ。その上、その謎には、ぼくが仲良くしている歯科医院のお姉さんが関わっているよう
なのだ。それというのも、ぼくは、お姉さんがペンギンを出現させるのを目の前で目撃したのである。
「この謎をといてごらん」。ぼくはお姉さんとペンギンの研究を始めることにした――。


入手までは少々のごたごたがあったものの(^^;)、無事一番手で回って来ました。モリミー
新刊。今までの森見作品とは違う作者の新境地と言われているようなので、どうなのかなぁと
ちょっぴりこわごわ読み始めましたが、楽しく読めました。ただ、確かに今までのモリミーとは
一味も二味も違う。そもそも、京都が舞台じゃない。これはちょっと残念なところではあるの
ですが、かなりファンタジー要素の強い作品なので、どこかわからない架空の街にしたのは
正解でしょうね。それに、主人公が小学四年生の少年。つまり、モリミー初のジュヴナイルと
云えますね。とはいえ、主人公のアオヤマ少年、小学生のくせにやたらに達観していて、歯科
医院のお姉さんのおっぱいにやたらに拘ったりして、モリミーらしいキャラ造詣は健在。彼が
大人になったら、きっと今までの森見作品に登場する妄想京大生男子みたいになるんだろう
なぁと思わされます(苦笑)。イジメにも淡々と対抗して、相手に何をされても怒らない姿勢は、
なかなかに大人だと思う。いじめる側も、こういう態度に出られたら、一番嫌だろうな。頭がいい
割に、計算高くもなく、ひたすら自分のやりたい研究やら実験に邁進するひたむきなところに
好感が持てました。大人びているけれども、恋愛に対してはまだまだ子供で、ハマモトさんや
スズキ君の気持ちを斟酌することも出来ず、自分自身の気持ちにすら最後の最後まで気付かない。
そういう所がなんだか憎めないというか、小学生らしくて可愛らしいなぁと思いました。

ストーリーとしては、突如空き地にペンギンが出現するとか、そのペンギンを歯科医院のお姉さん
が缶コーラから作り出すとか、とにかく奇想天外。荒唐無稽ともいうかな。あまりにも現実離れ
しているので、この辺りは評価が分かれるところかもしれません。私も最初は戸惑った部分も
あったのですが、少年少女たちの研究と冒険物語に次第に引き込まれ、ワクワクしながら読め
ました。アオヤマ少年と歯科医院のお姉さんの独特のテンポで交わされる会話も楽しかった。
お姉さんの存在は本当に謎で、最後まで正体がわかりません。というか、最後に明かされる謎も、
結局真実はぼかされたままのような。でも、彼女に関してはミステリアスなままでいいのかな、
という気も。ラストはとっても切なくて、胸がキュンキュンしてしまいました。ここまで読んで、
ようやくこれは、ちょっぴり風変わりな少年の冒険と成長を描くと同時に、ほろ苦くも甘酸っぱい
初恋の物語でもあったんだなぁと気付かされました。この切ない余韻が残るラストは好きだなぁ。

ペンギン大好き人間としては、ペンギンがたくさん出て来るのは嬉しかった。ただ、ここで出て
来るペンギンたちは可愛いだけじゃなく、謎の生物のような存在でもあるのですが。生態も行動も
謎に満ちていて、ちょっと不気味な存在でもあります。こういう形でペンギンを使うというのが
面白い発想だなぁと思いました。

今までの森見作品とは大分趣が違うけれど、森見さんらしいキャラ造詣と語り口とストーリー展開
は顕在で、楽しく読める一冊でした。アオヤマ少年の語り口が小学生らしくなくて面白かったな。
この間のマキメさんの『~でござる』に続いて、今度は『~するものである』みたいなアオヤマ少年
独特の語尾の口調が移っちゃいそうです(苦笑)。

表紙がなんともキュートで良いですね。中の装幀も細部にこだわっていて素敵。奇想天外な
ファンタジーを軸にしつつ、人の生死や人生についても、ちょっぴり考えさせられる作品なのでした。

ちなみに、最初アオヤマ君は『恋文の技術』の守田の少年時代かと思ってしまった(苗字違う
んだけど^^;)。だって、おっぱいにいちいち拘るんだもの。こんな小学生どうよ!?って
思ってしまったよ・・・。でも、おっぱいケーキ、美味しそうだった(笑)。