ミステリ読書録

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アイザック・アシモフ/「黒後家蜘蛛の会 1」/創元推理文庫刊

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アイザック・アシモフ黒後家蜘蛛の会 1(池央耿訳)」。

科学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の六人が集まる月一度の晩餐会、その名も
黒後家蜘蛛の会』。給仕係のヘンリーが給する絶品料理に舌鼓を打ちながら、メンバーたちは
あらゆる四方山話に花を咲かせる。毎月、ホストとなった会員は、一人のゲストを連れて来る。
そして、ゲストを交えて、ゲストが体験した不思議な出来事の謎についてあれこれと論議を交わす。
しかし、メンバーたちが謎解きに息詰まるとみるや、最後に助け舟をだして謎を解くのは我らが
給仕係のヘンリー――!連作安楽椅子探偵シリーズ、第一弾。


今月の翻訳ミステリはコレ、以前からずっと読んでみたいと思っていた、アイザック・アシモフ
黒後家蜘蛛の会』。アシモフといえば、SF作家としての顔の方が有名だと思うのですが、設定
などを読んでなんだか私好みっぽいなぁとずっと気になっていた作品。SF作家がミステリ書くと
結構面白いことが多いしね。

うんうん、面白かった。設定からして非常に好み。肩書きの違う六人の紳士たちが集まって、
月一回の贅沢とばかりに豪華な食事に舌鼓を打ちながら、いろんな話題で議論を交わし合う。
正直、彼らの会話にはピンと来ない部分も結構あって、その辺りはやっぱり翻訳ならではの
読みにくさを感じたところもあったのだけど、ヘンリーを交えての謎解き部分の面白さが
それを凌駕してくれた感じ。オチは予測出来たものもあったのですが、ほとんどが目から
ウロコが落ちるとばかりに、なるほど!と腑に落ちるものばかりでした。一編が長すぎず、
コンパクトに纏まって、すとんと落ちるところも好み。

何より、給仕係のヘンリーのキャラが渋くて素敵です。他のメンバーたちはイマイチ誰が誰
だか把握しきれないところもあったのですが(^^;)、ヘンリーのキャラが突出してるので、
他はその他大勢でもいっかって感じでした(おい)。多分、こういうのは文字よりも映像で
見た方が各キャラの個性がわかっていいのかもしれないですね。全員おっさんだしさー。
作家ルービンの作家仲間にアイザック・アシモフがいるというくだりはニヤリとしちゃい
ました。ちょっぴり自虐ネタも入ってて。こういうユーモアもそうだし、一編ごとについている
各作品のあとがき解説読んでても、作家自身のお茶目で気さくな人柄が伺えて微笑ましい気持ちになり
ました。特に、毎回の解説で、自分がつけた題名と雑誌掲載時に編集部がつけた題名のどちらが
作品に似つかわしいかが言及してあるのが笑えました。大抵、自分がつけた方がいいって勝ち
誇ったようにしてるところがなんかウケました(笑)。きっと、編集部がつけた方がいい題名
だと、負けたような気になってたんだろうなぁ(苦笑)。
読者の反応を見越して前書きやらあとがきやら書くところも可笑しい。ユーモアセンスのある人
だったんだろうな。それはブラック・ウィドワーズの会員たちの会話を読んでいても感じましたけど。

印象に残った作品はいくつもあるのですが、やっぱり第一話の会心の笑い』の衝撃的なヘンリー
登場は印象的でした。初回からゲストが私立探偵ですし。『盗んだもの』に関してはなんとなく
予測がついてしまったのだけれど、『盗んだ人の正体』に関しては全く意表をつかれたとしか
言いようがなかったです。
『明白な要素』のオチにも唖然としました。三千マイル離れた場所の火事を言い当てた少女は
本当に予知能力を持っているのか?という謎。作者お得意のSF的な作品かと思いきや・・・実に
現実的な答えがそこにありました。ミステリ的には反則技のような気がしないでもないんだけど、
妙に納得させられてしまった。
続く『指し示す指』も、真相は「なーんだ」って感じなんだけど、謎を単純化する、という
盲点をついたヘンリーの指摘に感心させられました。だいたいにおいて、みんな物事を複雑に
考え過ぎて失敗してるんだよね。特にミステリに於いては。
『アリス』をモチーフにした『不思議な省略』も好きでした。最近、ほんとに○○○が出て
来る作品を良く読んでいるなぁ。海外の古典なら出て来るのが普通だとしても、国内作品でも
読む本ごとに出て来るからびっくりする。やってくるのか、○○○ブーム・・・。


美味しい料理を給しながらさらりと謎解きをしてしまうヘンリーは、ちょっぴり読んでいて
北森さんの香菜里屋シリーズの工藤さんを思い出しました。もちろん、普通は逆なんでしょうけれど。
北森さんはもしかして、このシリーズを念頭に置いて工藤さんという人物像を作ったのかな?
と思ったりして。真相はわかりませんけれど。でしゃばり過ぎず、あくまでも給仕役として
控えめな態度を取りつつ、最後は美味しいところを持って行く(笑)、ヘンリーのキャラがとても
好きでした。作家ルービンの個人宅で例会が行われて、ヘンリーがゲスト役に回ったブロードウェー
の子守唄』での、ヘンリーの居心地悪そうな様子が可笑しかった。普段給仕をしている側が
給仕される側に回ると、やっぱり落ち着かないものなんでしょうね(苦笑)。


SFではなくいきなりミステリを読むという、アシモフ初心者としてはかなり邪道な入り方をして
しまいましたが(^^;)、まぁ、楽しめたからいっか。時間を置いて、続きも読んでみたいと
思います。とりあえず7月の翻訳本もクリア出来てほっとしました^^;ちょっとこの後予約本
がどどどーっと回って来ていて、自分でもどう読書計画を立てていいやらわからない状態なんで
・・・^^;さて、これを読んじゃったら、来月はどうしようかなぁ。