ミステリ読書録

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麻耶雄嵩/「貴族探偵」/集英社刊

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麻耶雄嵩さんの「貴族探偵」。

山荘の一室で、都倉計器の社長が殺された。現場は密室。警察が現場検証をしている中、現れたのは
口元に髭を蓄えた身なりのいい青年。戸惑警察官たちをよそに、現場にずかずかと入り込んで来た。
どうやら青年はやんごとなき身分であり、警察上部とも繋がりのある上流階級の要人らしい。自らを
貴族探偵』と称した青年は、使用人を従えて、悠然と現場を調べ始めた。しかし、いざ、推理の
段階になり、推理を始めたのは彼の使用人――!?著者5年ぶりの新作、ついに登場。


基本的に麻耶さんとはあまり相性が良くないので読まず嫌いなところがあったのですが、
5年ぶりに出たというこの新作、書店で見かけてタイトルやら設定が面白そうなので、
久しぶりに手に取ってみました。うん、なかなか面白かった。タイトルから、ヨーロッパの
どっかが舞台かと思いきや、100%舞台設定は日本。しかも、主人公の自称(他称?)貴族探偵
本人の名前も年齢もはっきりとは出て来ません。なんとも謎に包まれたキャラ設定で、かなり
面くらいました。貴族のお道楽とばかりに趣味で探偵を名乗っているこの貴族探偵、何より
目が点になったのは、推理をするのが本人ではなく使用人ってところ。多分読んだほとんどの
人が『おいおい、アンタが推理するんじゃないのかい!』とツッコミたくなることでしょう。
だいたい、事件に関わる関係者たちもほとんどがそう思いますしね(そりゃそうだろう)。なぜ
自分で推理しないのか?の問いに対して、貴族探偵はこう答えます。

『どうしてこの私が推理などという面倒なことをしなければならないんだ。雑事は使用人に
任せておけばいいんだよ』

オー、貴族!貴族たるや、こうでなくてはいけないのか。うーん、奥が深いぜ、貴族の世界。
推理は雑事ですか。じゃ、なんで探偵なんて名乗ってるんだーー!とツッコミを入れたくなる所
ですが、まぁ、その辺は流しておくべきなんでしょう。推理せずに、関係者の美女を口説く方に
忙しい探偵って一体・・・。
好感が持てるのか持てないのかイマイチわからない貴族探偵のキャラはともかく、彼の三人の
使用人たちはみんなデキる人物ばかり。執事の山本、メイドの田中、運転手の佐藤。彼らが
交代交代で貴族探偵の推理をお手伝い。というか、彼らが真の探偵と言い換えてもいいでしょう。
もちろん、それぞれ使用人としても完璧に仕事をこなし、主人(貴族探偵)への献身的な態度も
使用人の鑑と言わんばかり。
なんとも、人を食った設定ですが、面白かったです。ミステリとしてもなかなか。特に
唸らされたのは『こうもり』。メインの佐和子殺しに関しては『ふーん』てな位の感想
だったのですが、ラストにもう一ひねりあるところがいいですね。まさか、絵美の彼氏が
ほんとに・・・私は完全に逆の騙し方だと思ってたんですよね。これにはやられました。ええっ!?
と思って、もう一度ある人物の登場シーンを読み返してしまったよ。なるほど、こういう騙し
だったのかーと驚かされました。これはどうやら一番評判の良い作品らしいですね。なるほど。
ただ、一部で○の○で騙すのはアンフェアって意見もあるようですね。個人的には、こんな風に
すっきり騙してくれれば文句なし。
『トリッチ・トラッチ・ポルカのトリックも印象に残りました。状況を頭に思い浮かべると
相当にシュールで、大胆な犯行だなぁと背筋が寒くなりました・・・。
ただ、全体的に伏線があからさまだな、と思えるものもちらほら・・・。出来にはちょっと
ばらつきがあるかな、という感じはしました。
ラストの『春の声』も、使用人三人が勢揃いで推理するものだから、ちょっと頭がこんがら
がってしまい、状況が把握しづらかったです。真相もちょっとご都合主義な感じで受け入れ
難かったかな。

タイトルはすべて作曲家のヨハン・シュトラウス二世の作品から取ったものだそう。それぞれ
どんな曲なのかも気になりますねー。

それにしても、貴族探偵には一体何人の彼女がいるんでしょうか。なんか、良く考えると結婚
詐欺師にも思えてくるな(苦笑)。『使用人はあくまで道具』と言い切っちゃうところが真の
貴族なんだろうな。たまたまヒットしたこの作品の麻耶さんのインタビューを読んだら、貴族
探偵が本当に推理が出来るかどうかは謎にしておきたいのだそうな。『実は推理出来るのでは・・・』
と思わせる記述をしないように気をつけたようです。あくまでも、推理は使用人にさせる、という
スタンスで書きたいみたいですね。ただ、貴族探偵が無能だとも思われたくないようですが。

久しぶりの麻耶作品でしたが、なかなか思い切った設定で(笑)楽しめました。最初の作品が
書かれてから10年が経っているようですが、また続編が書かれるとしても、本にまとまるのは
何年先になるんでしょうか^^;