ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

越谷オサム/「空色メモリ」/東京創元社刊

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越谷オサムさんの「空色メモリ」。

体重九十八キロ、ウエスト百十五センチ、まごう方なきデブのおれ。あだ名はそのままブーちゃん。
そんなおれは、部員でもないのに文芸部に入り浸り、文芸部唯一の部員のハカセこと河本博士と
つるんでいた。ハカセは、黒いセルフレームのメガネ、広い額に小さな目、無駄な豊富な知識を
持ちながら女性には免疫ゼロ、あだ名のハカセそのままの人物なのだ。そんな非モテ系男子二人が
たむろする文芸部部室にある日可愛らしい新入生部員がやってきた。入部希望らしいが、読書は
ほとんどライトノベル系のようなものしか読んで来ていないらしい。そんな文学にさほど興味の
なさそうな彼女が何故突然こんな辺鄙な部活に興味を持ったのか。どうやら、彼女には何か曰く
があるらしい・・・。おれはそんな文芸部での体験を、部室のパソコンで空色のUSBメモリに記録
し始めていた。しかし、このUSBメモリが思わぬ事態を引き起こし――爽やかな学園青春ミステリー。


読書メーターで絶賛されていて以前から読んでみたいと思っていた作品。越谷さんは『蝦蟇倉市
事件2』でドン引きさせられてちょっと読む気が失せていたのだけれど、お仲間ブロガーさんの
賞賛記事に背中を押されて、ようやく借りてみました。
多分、『蝦蟇倉市2』の一作が異色で、こちらの路線がこの人の本来のカラーなのだろうな。
メインに登場する高校生男子2名は、どちらもタイプの違う非モテ系』。語り手の陸はデブ
の汗っかきだし、文芸部部長のハカセはチビでメガネ、知識だけは一人前でも女性に一切免疫
のない根暗少年。小説の主人公にするにはどちらもかなり地味。でも、これがかえってこの作品
では成功していると思う。モテない純情男子二人が、可愛い新入生の為にひと肌もふた肌も脱いで、
必死で頑張る姿に、なんだかこちらまで勇気をもらえるような気がしました。特に語り手の陸の
キャラが気に入りました。太っていることを自覚して、周りに極力迷惑がかからないように
デオドラントスプレーやハンカチは常に常備して、なんとか『デブな自分』と向きあおうとして
いる前向きさに好感が持てました。大抵こういうタイプはコンプレックスに対して卑屈に
なってしまいがちだと思うのですが。可愛い新入生部員の野村さんにぞっこん惚れ込んでしまった
ハカセの言動にちょこちょことツッコミを入れるところも笑えました。人のことならいくらでも
いろいろ云えるんだよねぇ。でも、陸自身も野村さんの友達のサキと話すと動揺したりして、
やっぱりおかしな言動を取ってしまったり。恋する男子の必死さが伝わって来て、すでに三十路を
超えた身には、かなり相当くすぐったく、なんとも甘酸っぱい気持ちになりました。青春だねぇ。

ミステリ的要素はほとんどないと言ってもいいと思いますが、一応陸のUSBメモリを盗んだ人間や
野村さんへの嫌がらせをしていた人間は誰か、という辺りで辛うじてミステリの体裁を取っている
感じでしょうか。ただ、その真実も驚くようなところは皆無で、その謎よりは、その先の犯人
と文芸部一味(?笑)との対決の方が読みどころとなっています。脅迫状の犯人だけはちょっと
驚かされましたが。実は、読み終えてからこの作品が東京創元社から出ていることに気付いて
意外に感じました。どっかのジュヴナイル系出版社とかかと思ってた^^;版元が東京創元に
してはミステリ色が薄いなぁというのが正直な感想です。
ただ、キャラやストーリーの面白さで十分その辺りは補って余りあるので、別に不満がある訳
ではありません。非モテ系高校生男子が女の子の為に奮闘する爽やかな学園青春小説として、
楽しく読める一冊でした。

ラストはとっても気になるところで終わっています。突然出て来た森本君に唖然。誰だよ!って
誰もがツッコミを入れたくなることでしょう・・・。そして、ラスト一行の後の、この先が知り
たいのにー!と思わせることで、作者の企みは成功していると云えるでしょうね。続編が出るとも
思えないけれど、もし出るとしたら当然タイトルは『桃色メモリ』でしょうね(笑)。陸やハカセ
だけではなく、イケメン新谷君やお調子者の北畠君といった脇を固めるキャラ達も個性的で
良かったので、個人的には是非続編書いて欲しいな、と思います。

ところで、野村さんがサキに借りた『虐殺がはじまるとき』のモデルは当然、山○悠介氏の
『リアル○ごっこでしょうねぇ・・・って、伏せ字の意味まるでなしですが(笑)。ここまで
公然とこきおろすとは、越谷さん、相当腹に据えかねていたのか、あの作品に(苦笑)。しかし、
勇気あるなぁ。『これなら私でも書ける!』と素人に思わせる小説とは、また痛烈で皮肉な言葉
だなぁと苦笑しちゃいました。

なかなか面白かったので、他の作品も読んでみようかな。私勘違いしてて、この方ってこのミス大賞
出身だと思い込んでいたのだけど、日本ファンタジーノベル大賞出身なのね。そっちの作品はどう
なのでしょうか。今度開架にあったら借りてみよう。