ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

舞城王太郎/「獣の樹」/講談社ノベルス刊

イメージ 1

舞城王太郎さんの「獣の樹」。

生まれた時から14歳だった僕を生んだのは、名無しのメス馬だった。めちゃくちゃな話だが
本当だ。僕が生まれたのを発見したのは、河原家の長男・正彦。歯磨きの途中で、窓の向こうの
庭に馬がいるのを見つけ、歯磨きを終えて近寄って見るとお腹が大きかった。そして、馬の
お腹の中から白い僕の手が飛び出て、正彦は思わず僕の手を引っ張った。そして、引っ張り
続けた挙句に出て来たのが背中に鬣のある14歳くらいの僕だった。最初、馬から生まれた
僕は、御之市にある湯引野児童園に引き取られることに決まりそうだったけれども、正彦の
強い希望もあって、結局河原家に引き取られることになった。僕は、福井に伝わる神話の風神
ナルオトヒコから正彦が思いついた成雄という名前をつけられ、河原家の次男として生きる
ことになる。ヒトとしての生活に慣れた頃、僕は蛇を操る楡という少女と出会う。この出会い
が、僕のヒトとしてのアイデンティティを変えて行く――講談社創業100周年記念出版書き下ろし
作品。


隣町図書館の『本日発売された本』コーナーにて発見。いやはや、またしても思わぬ行幸に恵まれ
ました。蛇足になりますが、私はいつも、二週間に一度通っている隣町図書館に行った場合、
見る棚(コーナー)の順番が大抵決まっています。まず始めに①返却カウンターで借りた本を返し、
それから②『本日発売の本』コーナーをチェックし、その裏側にある③『本日返却された本』
コーナー、その後で④一般書のあ~わの書棚を順番に見て、⑤YAコーナーを物色、⑥文庫棚
さらりと眺め、その裏にある⑦洋書文庫コーナー、そして時間があれば⑧単行本の洋書コーナー
の順で廻ります。先日、最初に②の『本日発売の本』コーナーを見た時、この本は置いてありませんでした。
でも、そこからいつものように一巡して、⑧まで見た後、なんとなくもう一度②を通り過ぎたところ、
さっき置いてなかったこの本が燦然と平台に輝いているではないですか。そう、私がいつもの如くに
のんびり借りる本を物色している間に入荷されていたのですね。もう一度通りかからなかったら
気付かず終わってました。なんたるラッキー。ほんとに発売日当日だったと思う。入荷前予約とかは
いなかったんですねぇ、多分。という訳で、いち早く買ったかのごとくに読める運びとなったのでした。
前置き長くてすみません(だって嬉しかったんだもん)。
隣町図書館って、こういうラッキーに度々出会えるから有り難い存在なのよね。

どうでもいい前置きはさておき、本書。前作『ビッチマグネット』に続き、ディスコ探偵水曜日
の読みにくさはどこに行った?と驚く程の読み易さ。ただ、設定自体は『ディスコ探偵』に匹敵
するくらいのぶっ飛びよう。なんせ、のっけから馬から14歳の少年が生まれて来るんですから。
しかも、鬣(たてがみ)つき。馬からなんで人間が!?っていう疑問は、読み進めて行くと一応
明らかにはなるのですが、それでもそれで納得が行くかというと・・・でも、なぜか舞城ワールド
に入ってしまうと、そこをツッコむ気になれなくなるから不思議だ。そっか、馬から人間が生まれる
こともあるかもしれないねー、うんうん、となぜか知らず納得してしまっている(されてしまって
いる?)自分がいるんだよね。それが舞城ワールドだから。ってことで納得できちゃう。主人公の
成雄が恋する楡の設定も相当にヘンテコ。蛇の口の中で生きているんだから。彼女がなぜ蛇の中に
いるのかも読み進めて行くとわかってくるし、その背景にはかなり悲惨な過去が隠されてもいるの
だけれど、普通に絵的に見て、蛇の口の中から女の子が出て来る図ってのは相当にシュール。
でも、なぜか蛇の中にいるこの少女と成雄との純愛が心に響くんだよね。途中、この楡のいる
湯引野児童園に隠された恐るべき事実が明らかにされる辺りから、物語が一気にキナ臭くなり、
スケールが大きくなりすぎて多少ついて行けないところがあったのだけれど、その中にあっても
成雄の楡への強い想いだけは終始ブレがない。楡の行動に疑心暗鬼になったりもするのだけれど、
最終的にはやっぱり楡が好きってところに落ち着くところが舞城さんらしい。今回も、テロリズム
出て来たり、殺人が出て来たり、荒唐無稽な設定が次々と出て来ても、根底にあるのはやっぱり
愛でした。成雄のアイデンティティ確立ってのもテーマなのかもしれないけど、それよりは楡との
純愛の方が印象に残ったな。

正直中盤以降は何が何だかって部分も多かったのだけど、疾走感溢れる文章で最後までぐいぐいと
引っ張られて読了。舞城ワールドはやっぱり顕在でした。ただ、ラストは引っ張った割にはあれ?
ここで終わるの?って感じの唐突感がありましたが・・・でも、あれ以上更に引っ張られても
読むの辛かったかも^^;それでなくても、最後の方は日帰り旅行の帰りのバスの中で眠さとの
戦いの中での読書だったので・・・(しかも、集中しようとすると、横で姪っ子が邪魔をする
という、最悪の読書環境^^;←でも読む)。
うん、まぁ、面白かったから満足です。多少の消化不良は舞城作品では当たり前のことだしね。

ところで、主人公の成雄は、『山ん中の獅見朋成雄』に出て来た成雄とは関係があるのでしょうか。
ビジュアル(容姿)は同じなんだけど、設定がまるで違うから、パラレルワールドみたいな世界
ってことなのかな。『山ん中~』の内容全く覚えてないからおさらいしたくなりました。

この本の最終ページに今後の舞城作品の予定が載っているのですが、これからかなり派手に活動
なさるようですね。楽しみだけど、ついて行けるかなぁ・・・(アヤシイ)。越前魔太郎の方は
早々に諦めたからなぁ・・・(そもそもあれは舞城さんが書いてる訳じゃないらしいしね)。