ミステリ読書録

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京極夏彦/「西巷説百物語」/角川書店刊

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京極夏彦さんの「西巷説百物語」。

人が生きて行くには痛みが伴う。そして、人の数だけ痛みがあり、傷むところも、傷み方も
それぞれちがう……様々に生きづらさを背負う人間たちの業を、林蔵があざやかな仕掛けで
解き放つ。シリーズ第五弾(あらすじ抜粋)。


「これで終いの金毘羅さんやで」


大好きな巷説シリーズ、最新刊です。発売記念イベントがあるというので、行って来ました。
このイベントがまぁ、めちゃくちゃお得でして。イベント+直筆のサイン本つきで2200円。
有り得ません。だって、本だけで1900円するんですよ!?サインだけで付加価値300円
以上あるでしょう。しかも、サインがめっちゃかっこいい。このサインもらえるだけであと
1000円出しても全然惜しくない。
普段あまり東京に来てくれない京極さんが、東京でイベントをやるとなったら、もうこれは
行くしかないでしょう。というわけで、いそいそと仕事終わりにかけつけたのでした。
最初一人で行こうかと思っていたのだけど、巷説ファンの友人にこの話をしたら、彼女も別途で
チケットを入手したというので、イベント前に食事して一緒に会場入り(別々に取ったから
席はばらばらだったけど^^;)。
イベントは全部で四部構成。一部は京極さんによる巷説シリーズの一編の朗読(『帷子辻』)。
二部がアニメ(『小豆洗い』)。三部が杉江さんとのトークショー。四部が実写映画
『怪・福神ながし』)。
イベントの始まりが9時半という遅い時間で、四部までいると終電が間に合わなくなってしまう
為、私は三部で泣く泣く帰途につきました。ただ、多分四部の映画はWOWOWで以前に観ていると
思うので、まぁいいかって感じ(もしかしたら、探せばどっかにビデオが残っているかも・・・)。

驚いたのは京極さんの朗読の上手さ。巷説シリーズの世界観そのものの声と語り口。二部の
アニメの声優なんかよりもよっぽど又市さんはイメージぴったりでした。人物によって声色を
きちんと使い分けていて、登場人物の誰が話しているのか(といっても、二人とナレーション
くらいしか出て来なかったけど)如実にわかるんです。落語とかやっても上手にやれそう。
しかし、ほんとに何でも出来る人だなぁとしみじみ感心してしまった。しかも、どれも普通の人
より遥かに上手に出来てしまうんだから脱帽です。いやはや。超人ってこういう人のこと言う
んだろうなぁ。
それに対して、二部のアニメは不満しか覚えませんでした。キャラ造詣からしてどう考えても
間違ってる。ストーリーも脚色しまくりだし。ほんとに、又市さんのビジュアルにはびっくり
だったよ・・・私の中では又市さんは田辺誠一のイメージなんだよーー!(間違っても、
六平直政さんでは、ナイ)
そして、やっぱり三部のトークショーが一番楽しかったです。巷説シリーズの裏話なんかも
たくさん話してくれました。一作目でやめたかったってのには驚いた。楽しんで書いているの
かと思いきや、毎回嫌々ながら水木(しげる)御大に命令されて仕方なく続けていたそうな。
『怪』が続く限りは書き続けると思っていたのですが、一応本書で完結なのだそうです。
書いていない長編が一本あるそうなのですが、書かれるかどうかは未定だそう。ちなみに、
私が観れなかった映画『福神ながし』はその長編の一部なんだそうです(つまり、これだけは
原作が存在しないお話なんだって)。
しかし、こんなに短い期間で二回も書評家の杉江(松恋)さんに会うことになろうとは(笑)。
まぁ、このイベント自体が、杉江さんのブログで情報を知ったんですけどね(苦笑)。
お化け大学校なんて学校ができてるのも全く知らなかったです。さすがに入学金払って
入ろうとは思いませんでしたが^^;

京極さん、当日配布されるサイン本のサインをイベントの直前まで書いてらしたそうで
(300人分!)、かなりお疲れ気味のご様子でした。でも、いつもの和装に黒い手甲、
相変わらずの出で立ちで素敵でした。あっという間の時間でしたが、楽しい一夜でした。




って、前置きが長くて(長すぎて?^^;)すみません^^;一応、イベントレポートは書いて
おきたかったので~^^;
さてさて、肝心の本書の感想ですが。前置きが長くなったのでなるべく手短に・・・(おい)。
タイトルにあるように、今回の舞台は江戸を飛び出して西、つまり大阪です。そして、メインで
出て来るのも又市さんたちではなく、西で同じような仕掛け稼業を生業にしている林蔵一味。
一文字屋仁蔵が営む、読み本刷り物の版元『一文字屋』は、上方の裏渡世を束ねる陰の顔があり、
林蔵一味はその手下として働いています。一文字屋に持ち込まれた依頼を遂行する為、彼らは
いろんな仕掛けを施す。この辺りは又市さんたちのやることと基本的にはそんなに変わりません。
ただ、仕掛け自体は又市さんたちよりは地味かな。今回、どの話も語り手が林蔵たちのターゲット、
つまり悪人側。これは京極さんご自身も言ってらしたことなのだけれど、どんなに悪人でも、
語り手になるとその心理描写が直接伝わって来るから、なんとなく情が芽生えて完全な悪人に
感じられなくなるんですよね。もちろん、最初に悪いことをしたのは語り手側(悪人側)な訳で、
最終的には林蔵たちによる鉄槌が下されることになる訳なんですけれど。でも、林蔵たちは、
最後の最後で、標的である人物に選択肢を突きつける。そこで正しい選択をすれば、最悪の
事態は避けられる筈なのだけれど、悪人はやっぱり最後まで悪人でしかなく、間違った選択を
選んでしまうのですよね。そして、結局は因果応報に落ち着く。どのお話も容赦のないラスト
ではあるのですが、不思議と読後感は悪くない。やっぱり、勧善懲悪の世界だらかでしょう。
悪いことをした人間には、それ相応の罰が下る。そういうところに胸がすく思いがするんです
よね。

ただ、唯一『豆狸』だけはちょっぴり毛色が変わっていて、語り手は悪人ではなく、終わり方も
因果応報ではありませんでした。それがまたほろりと出来る良いお話になっていて、こちらは
こちらで良かったです。

書き下ろしのラスト一編『野狐』では、又市さんや百介さんといったお馴染みメンバーも出演。
林蔵×又市の二大スター(笑)の競演が嬉しい一作でした。内容的には切なくやるせない作品では
あるのですが。又市さんにも悲しい恋の過去があったように、林蔵にも悲恋の思い出があったの
ですね・・・。

仕掛けは又市シリーズよりも控えめですが、勧善懲悪の世界観はこちらも共通で、巷説シリーズ
らしい小技の効いた作品ばかりで楽しめました。とにかく、やっぱり文章が抜群に素晴らしいので
淀みなく読めるところがいいですね。文章読んでるだけで満足。やっぱり、このシリーズは
いいなぁ。でも、林蔵の決め台詞さながらに、本当に本書で巷説シリーズは一応の終焉を
迎えたと言っていいようです。先述した『福神ながし』の長編の構想はあるそうなのですが、
もし書かれるとしても、角川から本書のような形式で出ることは多分ないだろうということです。
大好きなシリーズが終わってしまうのは本当に寂しい。でも、きっと又市さんや林蔵にはまた
違う作品で出会えると信じています(又市さんは幽霊シリーズにも必ず登場しているしね)。
取り敢えず、これが一段落ついたってことは、次はいい加減『鵺の碑』の番でしょう。だから、
いい加減書いて下さい。ほんとに、お願いしますよ、もう。


頂いたサイン本。サインめっちゃかっこよくないですか!?右上の文字は、もらった人によって
違うらしい。どうやら私と同じ『桂男』が一番多いみたいですが(多分、一番簡単に書けるから
だろうな(苦笑))。中には絵が描いてある人もいたようです。ううう、羨ましい~~~!!
でも、これでも十分。一生の宝にします♪
ちなみに左のポストカードもおまけとして挟まってました。これもかっこいー(*^^*)

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記事がやたらに長くてすみません^^;
このシリーズは、ほんとに時代物とか時代劇とか好きな人には是非とも読んでもらいたい。
まさしく京極版『必殺仕事人』。胸がすくような勧善懲悪の世界を是非堪能してもらいたいと
思います。



<追記>
シリーズの順番がわかりにくいとおっしゃっている方がいらっしゃいましたので、刊行された順
を書いておきますね。少しでも参考にして頂ければ幸いです。


巷説百物語(こうせつひゃくものがたり)』
『続巷説百物語(ぞくこうせつひゃくものがたり)』
後巷説百物語(のちのこうせつひゃくものがたり)』 ※直木賞受賞作。
『前巷説百物語(さきのこうせつひゃくものがたり)』
『西巷説百物語(にしのこうせつひゃくものがたり)』


多分みなさん、続と後で混乱するんでしょうね(笑)。前と西はわかりやすいですから。
『後~』は明治時代が舞台で、又市さんたちと別れた百介さんが老人になっていて、過去を
振り返る形式になっている作品。時代が違うから当然とはいえ、亡くなっているキャラがいると
やっぱり悲しかったな。

ただし、時系列はこの通りではありませんし、一話完結形式になっているので、どの作品から
読んでも基本的にはあまり問題はないと思います。本書なんかは、一作目(『巷説~』)と
重複してる感じかな。
本書の中に巷説世界の解説リーフレットがついていて、とても有り難い。
リアルタイムで読んでいる身としては、いつも脇役で出て来た登場人物とか時系列とかさっぱり
忘れてる状態で読んでるので^^;;
ちなみに本書で活躍する林蔵は、『前巷説~』に出て来たキャラってことなんですが、
やっぱりきれいさっぱり忘れていたのでした・・・あ、あはあは~(汗)。