ミステリ読書録

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東雅夫編/「厠の怪 便所怪談競作集」/MF文庫ダ・ヴィンチ刊

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東雅夫編「厠の怪 便所怪談競作集」。

誰もが利用する身近な空間であるとともに、古代の神話から現代の都市伝説に至るまで怪談奇談と
ことのほか縁の深い、恐怖のふるさと・便所。そこは日常生活で唯一、人が孤絶を余儀なくされ、
また無人であることが常態とされる場所でもある……。懐かしくも恐ろしい厠=便所をテーマとする
書き下ろし小説8篇にエッセイ2篇を加えた、妖しくもニオイたつ、空前絶後の便所怪談競作集。
ようこそ、恐怖のふるさとへ!(あらすじ抜粋)
<寄稿作家>京極夏彦平山夢明福澤徹三、飴村行、黒史郎、長島槇子、水沫流人、岡部えつ、
松谷みよ子


世にも珍しい【便所】をテーマに書かれたアンソロジー。京極さん、平山さん、飴村さんの
名前が入っていたらこれはもう、どんなにえげつなかろうが気持ち悪そうが、借りるしかない
でしょう。最近、植村花菜さんのトイレの神様なんて唄も大流行してますが、あんな感動秘話
とは大きく隔絶された大変お下劣かつえげつない怪談話ばかりが収められております。トイレと
いうのは閉鎖空間ですし、基本的に一人で使用するものですし、怪談には昔から事欠かない題材
ですね。私の小学校の頃にもトイレの花子さん『赤い紙、青い紙、黄色い紙』みたいな
怪談話やら学校のトイレに纏わる都市伝説はいくつもありました。ただ、本書に寄稿された作品
は、ほとんどの作家が『汲み取り式便所』を題材にしているところが興味深い。
私の母方の親戚の田舎の家にも家から離れたところに汲み取り式の便所があって、夜中にトイレに
行きたくなる度に玄関を出てそこに行くのが怖くて怖くて仕方がなかったことを思い出しました。
臭いも強烈だし、変な虫もいるし、何よりあの黒い穴の空間から何かが出て来そうでぞわぞわ
落ち着かなかったです。もう、シチュエーションだけでも怖い。昔からトイレに纏わる怪談が
かくも多いのも頷けるというものですね。
正直、眉を顰めたくなるような作品も多かったです。読んでるだけで臭いが漂って来そうで、
食欲減退もいいところ。はっきりいって、食事時に読むべき本ではありません。食後すぐに読む
のもやめておいた方が良いでしょう。じゃ、いつ読めばいいんだって聞かれても返答に困るの
ですが^^;;初めましての作家さんも多かったけれど、印象に残ったのはやっぱり期待していた
作家の作品でした。最後に松谷みよ子さんが寄稿されていて、懐かしさで涙が出そうでした。
小学校の図書室に彼女の本がたくさん蔵書されていて、良く読んでいたのです。今回寄稿された
作品は小説でなく、学校のトイレに纏わる怪談話を集めて紹介するものでした。日本らしい
民話や怪談はいくらでもご存知でしょうから、松谷さんらしい作品とも思いましたけれど。
下のお話ですから、当然お下品ではあるのですが、各作家の特色が出ていてなかなか面白い
趣向のアンソロジーだな、と思いました。



以下、各作品の感想。

京極夏彦『便所の神様』
京極さんの文章だと不思議と便所がテーマでも下品に感じないから不思議。でも、行間から
臭気が漂って来るような錯覚を覚えてきつかった。途中の展開は『厭な小説』、オチは『幽談』
『冥談』系って感じでしょうか。両者の厭な所を一緒くたにしたような『厭な小説』。

平山夢明『きちがい便所』
これは強烈だった。さすが平山さん。人が読んで不快な小説書いて来るなぁって感じ・・・。
父親がどんどん狂って行く様子が怖気を誘い、家中が彼のつけた便だらけになっていく様が
とにかく気持ち悪い。こんな家には絶対住みたくない。っていうか、なんで家族は逃げ出さない
のか、そこが一番不思議だったかも・・・オチの救いの無さも平山さんらしい。二度と読みたく
ないけど、強烈に印象に残った一作。

福澤徹三『盆の厠』
少年が経験するひと夏の怪と従姉に対する性の目覚めがテーマかな。なかなか良かった。オチも
一応ホラー的要素で締めくくられているところが秀逸。ただ、怖さはあまりなかったですが。

飴村行『糜爛性の楽園』
ははは。笑うしかない。飴村さんらしすぎる話で(苦笑)。相変わらず強烈なキャラクターを
創り出す才能は突出してますね。えげつないことこの上ないお話なので、評価は分かれそう。
汚いし気持ち悪いし下品だし、読んでいて吐きそうになりましたが、面白かったです(人間性
疑われそうな感想だな^^;)。

黒史郎『トイレ文化博物館のさんざめく怪異』
トイレ文化博物館・・・こんな博物館には行きたくないですね・・・。これはなんかイマイチ
ピンとこないお話だったかも。オチもどう捉えていいのやら。

長島槇子『あーぶくたった ─わらべうた考』
多分文章は巧い方なのだろうけど、なまり言葉がすごく読みにくかった。わらべうたの明るい
曲調に反して、歌詞の意味深な暗喩がオチの救いのなさを助長させていますね。

水沫流人『隠処(こもりく)』
これは一番ダメだったかも。何が書きたいのか、オチも何が言いたいのかあんまり伝わって
来なかった。

岡部えつ『縁切り厠』
「縁、流そうか」と聞かれてお願いすると縁が流してもらえるってのは、縁を切りたい人間が
いる人にとっては便利な神様なのかも。お咲さんは多分、その人のためになる縁しか切らない
んだろうな。基本、いい神様なのかもしれない。

松谷みよ子『学校の便所の怪談』
先述したように、学校のトイレの怪談を集めて紹介した作品。トイレに関する怪談もいろいろ
あるものですね。なかなか興味深かったです。

東雅夫『厠の乙女 ─便所怪談の系譜』
トイレに纏わる評論。ここまでで少々食傷気味になっていたのでささっと読み流し・・・
(スミマセン^^;)。



後半は馴染みのない作家さんが多かったせいもあってか、いまひとつノレない作品が多かった
かな。まぁ、京極さんと平山さんと飴村さんの作品が読めただけでも、読んだ甲斐のある
アンソロジーでした。暑い夏に、こんな変化球の怪談アンソロジーはいかがでしょうか。
重ねて忠告しますが、食事時には読まれないことをお勧め致します。