ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾くるみ/「スリープ」/角川春樹事務所刊

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乾くるみさんの「スリープ」。

2006年1月29日6時に始まった<科学のちから>という、中学生がレポーター役を務める
学情報番組が、同番組の人気レポーターだった羽鳥亜里沙の最後のテレビ出演だった。容姿
端麗で頭脳明晰な亜里沙は、同番組の中学生レポーターたちの中でも一番人気が高かった。その
亜里沙が突然テレビから姿を消したその理由に関して、世間では様々な憶測が飛び交ったが、
真実はわからないまま30年の時が経った。30年後の世界、亜里沙はどう生きるのか――
著者6年ぶりの書き下ろし長編ミステリー。


イニシエーション・ラブ系のお話かと期待して読んだのですが、内容はこてこての近未来系
SFでかなり面くらいました。というか、もう、やっぱり私はSFとは合わないんだなぁとしみじみ
痛感させられました。とにかく、未来科学研究所での冷凍睡眠の薀蓄とか、何が書いてあるのか
さっぱり理解できず、正直ほんとに何度も挫折しようか迷いました。でも、読書メーターとかの
感想見てるとラストで乾さんお得意のどんでん返しがあるようなので、やっぱり最後まで読ま
ないとダメだよなぁと度々心の葛藤を繰り返しながら、なんとかかんとか意地で最後まで読み通し
ました。別にこれは個人的にSFが肌に合わないってだけで、一般の方、特にSF好きの方が読めば
かなり面白く読めるお話なんだろうと思います。でも、ほんとに後半の1/3辺りになるまでは
苦痛でした。亜里沙が戸松に黙って実家に行くところとか、亜里沙と戸松の恋愛の辺りとかは
まだすらすら読めて良かったのですが。ただ、そうしたひとつひとつのパーツがどうも上手く
物語にはまっているような印象がなかったのですが・・・。実家に行くところだって、もっと
危険な目に遭うのかとドキドキしながら読んでいたのに、あっさり家に帰りついて、しかも
戸松にばれることもなく終了。兄が亜里沙に対して微妙な感情を持っているような意味深な
描写も特に膨らむこともなく何の伏線でもなかったし。亜里沙側と軍やまりんとの追走劇も
いまいち緊迫感がないままあっさりクライマックスになっちゃうし。なんか、どうも全体的に
盛り上がりがなかったように思いました。もちろん、この作品の最大のキモとなるのは最後に
明かされるある事実の部分なんでしょうが、申し訳ないけれど、それも途中でなんとなく
オチが見えちゃったんですよね。だから、イニラブの時みたいなガツンとやられたという
衝撃は全くなかったです。確かに『騙し』の手法としては上手いのでしょうけれど、伏線が
結構見え見えなところもあるので、気付ける人は気付けちゃうんじゃないかなぁ。同じ真相に
するにしても、書き方次第でもっと衝撃的になったような気はする。まりんと要美の関係とか、
亜里沙とまりんの関係とか、大して作品に必要とも思われないレズ要素を入れる辺りとか、
わかりにくSF薀蓄とか、なんだか、読んでいてどうも西澤保彦さんのSFを読んでいる気分に
なってしまった。ちなみに貫井要美(ぬくいいるみ)って、思いっきり乾くるみアナグラム
なってるけど、なんでこのキャラで?と不思議で仕方なかったです。何がしたかったんだ、
乾さん・・・。

30年後の『なっているであろう日本』の設定は、細かく考えてあって面白かったですけどね。
特に、服を着たままお風呂に入るってのはともかく、一瞬で乾かせちゃう機能はいいなぁと
思いました。でも、自分が観たい番組だけをお金を払って視聴するっていうテレビの有料制度は
なって欲しくないな。いくら一番組辺りの値段が安いからって、その都度お金がかかるって
思うと、テレビ観なくなりそうだ。あんまり、実現化されそうもない設定だなぁと思いました。

多分、SFに抵抗のない人にとっては面白く読めるのだろうと思います。個人的にはちょっと
黒べるこよりの感想になってしまいました。結局、冷凍睡眠で凍らせたアノ人物に関しては放置
ってところも、何だかなぁって感じ。いろんな情報を中途半端に入れた結果、散漫な印象になって
しまった感じがなきにしもあらずのような。ちょっと、残念な読書でありました。

しばらくこの手(科学系)のSFものからは遠ざかろうかと思います・・・。
アホな文系頭しか持ってなくてすみません・・・。
やっと回って来た蒼林堂古書店の方に期待しよう。