ミステリ読書録

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ポスタルノベル編/「『バイバイ、ブラックバード』をより楽しむために」/双葉社刊

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ポスタルノベル編「『バイバイ、ブラックバードをより楽しむために」。

太宰治の未完の絶筆「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、まったく新しい物語
「バイバイ、ブラックバード」。その著者である伊坂幸太郎のロングインタビューのほか、
解説、太宰治の「グッド・バイ」を収録(紹介文抜粋)。


タイトル通り、伊坂さんのバイバイ、ブラックバードをより楽しく読むための本。
「バイバイ~」を書くきっかけになったお話から、各作品の制作秘話など、インタビュー
形式でつづられています。
読む前に、『本編を読んでから読んだ方が良い』という情報を得ていたけれど、確かに
私もそう思いました。弱冠ですが、本編のオチに関するネタバレがあったりするので、こちら
から先に読まれる方はその辺注意が必要かもしれません。まぁ、大したネタバレでもないので、
そこまで神経質になる必要はないとは思いますが。ただ、本編を合わせて読んだ方がいいのは
間違いないです。何せ、元ネタとなった太宰治『グッド・バイ』の全文が載ってますし、
伊坂さんご本人のインタビューもとても興味深かったです。読むのが早い人なら30分くらいで
読めちゃうんじゃないかな。
ちょっとショックだったのは、伊坂さんが連作短編集というものがお好きでないってこと。
短編自体も好きじゃないみたいで、あまり書きたくないのだとか。でも、本書は『ゆうびん
小説』という企画自体が面白いということで、書く決心をしたのだそうです。私は伊坂さんの
連作短編大好きだから(『死神の精度』『チルドレン』辺り)、今後も積極的に書くことは
なさそうなので残念。
嬉しかったのは、『伊坂さんが考えられる「自分(伊坂)らしい小説」とはどんなものか?』
との問いに対してのお答え。
『ちょっと変わったキャラクターとそれに振り回される人がいて、登場人物たちのやりとりが
楽しくて、いろんなところに張ってある伏線が少しづつ繋がっていき、要所要所で「ああそう
なんだ」とはっとする感じ』
まさに、まさに私が好きな伊坂作品そのものを言い現わしているではないですか。ご自身が
ちゃんと自分の作品の魅力をわかってらっしゃるのであれば、今後も読み続けて大丈夫だろうと
感じました(一時、「どうしちゃったの、伊坂さん?」って時期があったからね^^;;)。
伊坂さんは、ご自身の作品が『徹底したエンタメ作品』だってことがわかってるらっしゃる
のでしょうね。そして、読者がそうした伊坂作品を一番望んでいることも。

この本のもう一つの読み所は、当然同時収録された太宰の『グッド・バイ』。本編読んで、是非
読んでみたいなーと思っていたので、これはありがたかった。そして、読んで良かった、と強く
思いました。未完ですが、伊坂作品に匹敵するくらい面白い。未完なのが本当に悔やまれる位。
本編で強烈な印象を残すのが繭美というキャラですが、その繭美と同じような立ち位置にいる
のがキヌ子という女性。この女性、ビジュアルこそ繭美とは正反対の超がつく程の美人ですが、
怪力で主人公を振り回すという意味では非常に似たキャラクターだと云えます。間違いなく、
キヌ子のキャラをベースに繭美というキャラが生まれたことがわかります。繭美を美人にしなかった
理由もインタビューの中で触れられていますので、気になる方は是非本文をお読みください。
キヌ子のキャラの面白いところは、週に6日は乞食の如くの汚い格好をした超汚ギャル、残り
一日は最高に着飾って外出する、というトンデモない私生活を送っていること。このギャップが
なんとも云えないインパクトを与えていると思う。そんなキヌ子に振り回される主人公の
情けなさも、本編の星野のキャラに通ずるものがありますね。星野は太宰の田島よりも優しいし
気が弱いけれど。

インタビューでは一作ごとの制作秘話が語られているのですが、意外だったのは四話がほぼ
実話だというところ。伊坂さんの身近な方が次々と健康診断の精密検査に引っ掛かってしまい、
その結果を心配して、結果がわからないまま二度と会えなかったら・・・と考えたことがきっかけ
なのだとか。確かに、ある一定の年齢を超えると周りの人にそういうことがいつ起きてもおかしく
ないですものね。もちろん、自分にも当然起こり得る訳ですけれど。
あと、四話のヒロインで数字に強い神田那美子のキャラもモデルがいるのだそうです。四話の
ラストシーンで那美子が数字を見てほほ笑むシーンが私は大好きだったのですが、伊坂さんも
この四話のラストシーンが一番好きだと知って嬉しかったです。

本編を読んで面白かったという方には是非併せて読んで頂きたいですね。もう一度本編を
読み返したくなること必死です(私は図書館本だったので手元に本がないのが残念でなりま
せんでした)。




ところで、余談ですが、友人から今月号のCREA(クレア)』という雑誌は本好きには面白い
特集だよ、と唆されて(笑)購入してみたのですが、その中に伊坂さんの特集ページもありまして、
非常に嬉しい情報が載っていたのでご紹介しておきたいと思います。


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まず、次に出る予定の新刊は『マリアビートル』というタイトルで、伊坂さん曰く「新幹線の
なかで、殺し屋が殺し合ってるだけの小説」だそう(苦笑)。でも、読者から「もう伊坂はエンタメが
書けないのじゃないか」と噂されたのが悔しくて、一大エンターテイメントとして書いた作品
だそうなので、また伊坂さんらしい傑作エンタメ作品が読めそうです。

そして、もうひとつ嬉しい情報。来年の後半辺りに、あの『死神の精度』の続編が出る予定だそう。
ちなみに、この伊坂特集の中で、『クレア読者が選ぶ伊坂作品ベスト10』みたいな記事があるの
ですが、その中で堂々一位に輝いていたのがこの『死神~』。金城武主演で映画化されたことも
大きいのでしょうね。ただ、短編嫌いのせいなのか(^^;)、今度は長編で構想を練っている
ところだそうです。楽しみですね!(ちなみに、2位『重力ピエロ、3位『ゴールデンスランバー』、
4位アヒルと鴨のコインロッカー、5位『陽気なギャングが地球を回す』・・・と続きます。
映画化された作品ばかりですね~)。

さらに余談ですが、この雑誌、他にも嬉しい特集がてんこ盛り。本好きにとっては、本当に
美味しい雑誌で、買って良かったです。ちなみに気になる記事のラインナップだけでも記しておくと、

関係者が明かす東野圭吾真実の姿』(東野ファン必読!)

道尾秀介×米澤穂信×辻村深月 『素顔の居酒屋座談会』(なんとも贅沢な座談会!)

書き下ろし紀行エッセイ万城目学せんとくんに会う』(奈良紀行)

書き下ろしお散歩エッセイ森見登美彦が歩く』(坂道でめぐる東京「山の手」散歩)

紙の本だから楽しめる『装丁の世界』(有名装丁家さんがぞろりと紹介されてます)

今だから読みたい『胸キュン少女マンガ講座』(『君に届け』の作者椎名軽穂さんのインタビューも)

『鎌倉文学散歩のすすめ』(鎌倉行きたい熱が上がります)


などなど。あと、なんといっても、表紙が福山雅治サマ!もちろんインタビューも載ってますし、
『竜馬伝』見てる人なら楽しめる竜馬や幕末特集ページなんかもありました(私は興味ないので
当然スルー^^;)。

本屋で見かけたら気になるページだけでも立ち読みしてみると良いかもしれません^^
好きな作家のページは全部面白かったのと、個人的には『装丁の世界』のページがすごく
興味深かった。本の各部所の名前なんかも勉強になりました。