ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾くるみ/「蒼林堂古書店へようこそ」/徳間文庫刊

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乾くるみさんの「蒼林堂古書店へようこそ」。

扇町商店街から西に折れた脇道の左手にひっそりと店を構えるミステリ専門の古書店、蒼林堂
古書店。店の奥には、四畳半程の喫茶スペースが設けられており、百円以上の売買をした客
には、一杯の珈琲が振舞われるというサービスが受けられる。店が始まって以来ずっとマスター
である林が続けているサービスである。林の高校時代の同級生である大村は、ミステリ好きと
いうこともあり、開店以来の常連だ。毎回、一冊の本を買って喫茶スペースのカウンター席に
陣取り、購入した本を時間をかけて読み終えた後再度店に売ってから、帰途につくのである。
そんな常連客は大村一人ではない。ミステリ好きの高校生・柴田五葉や、モデルのように美しい
小学校の教師・茅原しのぶも、マスターとこの店に惚れ込んで通いつめる常連仲間だ。そんな
常連客が集まると、なぜか誰かが不思議な謎の話を持ち込み、ささやかな推理合戦が始まるのだ。
そんな彼らの十四ヶ月が過ぎた時、小さな奇跡がそこに――すべてのミステリ好きに捧げる、
古書店連作ミステリー。


うほほーい。これは良かった!前作のスリープは、もう乾さんはしばらくいいかなぁと
思ったくらい肌に合わないSFミステリだったのだけど、こちらは好みど真ん中!・・・と思えた
のは最後の一編を読んでからではあるんですが^^;でも、基本的な設定自体もミステリ好きには
たまらない。なんせ、舞台はミステリー小説専門の古書店。しかも、奥には喫茶スペースがあり、
百円以上の本を買えば一杯タダで珈琲を飲ませてもらえる。好きなミステリを珈琲を飲みながら
ゆったりと心ゆくまで読みふける事ができる古本屋!そんな古本屋があったら、無類のミステリ
好きとしては、もう毎日でも通うしかないでしょう。いやはや。ほんっとに、うちの近くに
出来ないかな、蒼林堂古書店。って、思いながら読んでました。しかも、買取価格がえらい
高い。普通、絶版にもなってないような文庫本で買い取り価格が百円以上になるなんて、有り得
ないって気がするんですが・・・少なくとも、私が過去に本を売った限りで、文庫がそんなに
高くさばけた試しはない。といっても、漫画は山ほど売ってるけど、小説ってほとんど古本屋で
売ったことはないのだけど^^;実際、本が綺麗ならそれくらいの値段で売れることもあるの
かな??この辺りは専門家のもねさん辺りに詳しくお話を伺いたいところですが(苦笑)。

でも、はっきり言って、一編ごとの謎解きはミステリって言っていいのかはばかるようなレベルの
ものばかりで、一作づつを切り取って読んでいる限り、さほど出来のいい作品とは思えない。
それよりは、一編ごとの終わりに挿入されている、マスターの林による『林雅賀のミステリ案内』
の部分の方がミステリ好きとしては楽しい。各テーマごとに古今東西のミステリ小説がたくさん
紹介されていて、ミステリ入門書として最適。面白いミステリを探している方には、読んでみたい
ミステリがきっとたくさん見つかるのではないかな。

常連たちによる月一回の日常の謎解き会合風景を描いた14編が収録されていますが、作中の
時系列も一作目から最終話までで14ヶ月が流れます。この最終話で実に乾さんらしい仕掛けが
用意されています。一作づつは、つまらなくはないけど大して驚きもない凡作と感じるもの
ばかりだったのですが、それが最後に伏線の一部分だったことがわかり瞠目しました。ベタ
ではありますが、やっぱりこういう形で驚かせてくれる作品は好きですね。それまでのマスターの
態度から違和感はあったし、最後に何かありそうだな、とは思っていたのですけれどね。どっちに
転ぶのかなぁと思っていたので、素直に温かく嬉しい気持ちになりました。そして、最終話の後、
14番目(最後)の『林雅賀のミステリ案内』のラスト二行でもっと幸せな気持ちにさせて
もらいました。最後まで読むと、これがミステリー小説であり、○○小説でもあったことがわかり
ます。基本○○小説は苦手なんだけど、こういうのは好きだなぁ。とても優しい気持ちで読み終え
られて、お気に入りの一冊となりました。


マスターのミステリ案内で紹介されたミステリは知らないものもたくさんあって、読んでみたい
ものがいっぱい。作家名さえ知らないものもいくつもあったので、ミステリ好きとしては不徳の
致すところ。まだまだ世の中には知られざる名作ミステリがいくらでもあるのですね。
もちろん、既読も多く、知ってる作品が紹介されているととても嬉しい気持ちになりました。

蒼林堂古書店に集う常連たちのキャラも良かったです。しのぶ先生のキャラは今ひとつ掴めない
ところも多く、あまり好感が持てるって感じでもなかったのですが、その理由も最後にわかり
ますしね。もちろん、最後にはとても素敵な女性だな、と思えました。ミステリー好きに悪い人
はいない筈だしね!(どんな偏見?^^;)
高校生コンビもいい味出してて好きでした。五葉君とキララちゃんのその後も気になりますが。
っていうか、モンブランの真相は結局どうだったんでしょうか。そこは明かして欲しかったなぁ。


はー、どこかにないかな、蒼林堂古書店みたいな素敵な古本屋。私も常連客になって、思い切り
ミステリの話で花を咲かせてみたいです(ヘヴィな会話に置いてかれそうだけど^^;)。
そうそう、黒猫の京介の存在も良かったですね。ミステリー小説にはやっぱり猫がつきもの
なんですかね。一匹の黒猫と、一杯の珈琲と、一冊のミステリと過ごす日曜の午後。
最高に贅沢な、至福の時ですね。