ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

初野晴/「空想オルガン」/角川書店刊

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初野晴さんの「空想オルガン」。

吹奏楽部憧れの聖地・普門館を目指して、ついにチカたちの県立清水南高校も初初陣の日が
やってきた。しかし、肝心の地区大会の前日、チカはマンションから転倒した5歳の男の子を
受け止め、怪我を負ってしまう。先行き不安な出来事で出鼻をくじかれた部員たちの前に更なる
難題がふりかかる。今度はハルタが得体の知れない稀少な老犬を拾って連れ歩いていると、彼らの
前に飼い主だと申し出る二人の人物が現れたのだ。売れば高額で取引されるであろう老犬を目当てに、
どちらか一人は嘘をついている――ハルタとチカは本当の飼い主を見つけられるのか。そして、
地区大会の結果は――シリーズ第三弾。


やー、面白かった、面白かった♪やっぱりこのシリーズは楽しいなぁ。前作はミステリ色が
薄れて、今後だんだんミステリから離れて行くのかなぁとちょっと残念に思っていたのだけれど、
今回はミステリとしてもなかなか良かったのでは?特に私は二作目の『ヴァナキュラー・モダニズム
とラストの『空想オルガン』が好き。どちらも結末であっと言わされました。作品としては
『ヴァナキュラー~』が一番好きかな。細い感想は後述しますが、ラストまで読んで冒頭に
戻って、改めてぐっとくるものがある作品で、真相のトンデモなさも含めて、シリーズ全作品
の中で一番心に残ったかも。
今回はようやくチカたちの吹奏楽部がコンクールに出場するお話。正直、いくら草壁先生の力が
あるにしても、地区大会→県大会→東海大会、と、無名の吹奏楽部が辿るにしてはとんとん拍子に
上手く進みすぎて、違和感ありあり。まぁ、そこはお話の流れで必要なんでしょうから、あまり
ツッコまずにおくべきなんでしょうけれど^^;相変わらず草壁先生自身の人物像が浮かび上がって
来ないのがなんとも惜しい感じなんですけど。これは敢えて明かさないようにしているのかなぁ。
なんだかかなり重い過去を抱えているようで、気になって仕方ありません^^;
今回もチカちゃんを中心に、各キャラ間の会話や独白が楽しくて、何度も読んでいる最中吹き出し
しまいました。いやー、ほんと、チカちゃんいいキャラだなぁ。こういう子がひとりいると、
学生生活もさぞや楽しかろう。しかし、ベランダから落ちた子供をキャッチするとは、チカちゃん、
君は一体何者なんだい・・・。ハルタとの漫才のような掛け合いも健在。なんだか、この二人が
一緒にいれば不可能も可能になりそうな気がするね。いつまでも仲の良いベストコンビでいておくれ。



以下、各作品の感想(『序奏』は割愛^^;とてもグッとくる言葉が述べられているけれどね)。

『ジャバウォックの鑑札』
地区大会会場でハルタが保護した老犬の正体は、純血種なら数百万から数千万の値がつくという
軍用犬【チベタン・マスティフ】。名乗りでた二人のうちのどちらが飼い主なのか。
老犬でもそんなに価値があるものなんでしょうか。ハルタがお金目当てで犬を保護したことに
違和感を覚えていたのだけれど、後のお話でその理由が明かされます。おいおい、ハルタ~~^^;

『ヴァナキュラー・モダニズム
防音完備の賃貸物件。間取り図では5つある筈の部屋が実際には4つしかないのは何故なのか。
ハルタがお金を欲しがった理由がわかります。ビックリ・・・。でもそれがわかった後のチカちゃん
の反応にウケました。『爆弾持ってこい。テントごと吹き飛ばして、わたしもあんたと死ぬ』
チカちゃ~~~ん^^;ハルタのお姉さん登場。強烈です。素敵!(おい)ハルタは小さい頃から
女難の運命にあったのですね・・・他の二人のお姉さんもそのうち登場するのかな。
これの真相にはほんとに目が点。巨大な○○○。島田さんの斜め屋敷や東川さんの館島に次ぐ
トンデモトリック登場。でも、作った真意にほろり。先に述べましたが、ラスト読んでプロローグ
部分に戻るととても切ない気持ちになりました。これ好きだなー。

『十の秘密』
県大会での台風の目・清新女子高校。見た目はギャルの格好だが、演奏とパフォーマンスは一流。
彼女たちの強さの秘密には理由があった・・・。
2Lペットボトルのシーンには爆笑。チカちゃんを始め、清水南の部員たち、素直すぎるよ(笑)。
トーノさんの秘密には脱力というか、高校生で有り得ない・・・とかなりがっくりしたのですが、
○○症というありきたりの真相じゃなかっただけ意外性はあると云えるのかな。でも、キャラと
合ってないから全然リアリティがなかったです。ナナコたちのキャラは外見はともかく、みんな
好感持てましたけどね。

『空想オルガン』
オレオレ詐欺で騙した老婆からお金を受け取る為に吹奏楽東海大会に来た男。男はなりすました
老婆の息子からあるものを譲り受けていた――。
語り手の男が何の罪もない老婆相手に詐欺を働く過程にムカムカしながら読んでいたのですが、
次第に明かされる彼の秘密に胸が痛みました。これは一番初野さんらしい展開の作品ですね。
○○移植・・・。気になったのは、老婆が息子に対して『謝りたかったこと』とは何だったのか。
もしかして、息子の友達のことだったのかな、と思ったのですが・・・。ラストで明らかにされる
男の正体にハッとさせられました。全然気づいてなかったです。お見事!
そして、誰にも見られない離れたところで涙するチカちゃんの心中を思うと・・・頑張れ。



ラストの一作でまた新たに強力な部員を得たことで、来年度はいよいよ普門館出場が現実になって
行くのかもしれません。
まだまだ彼らの活躍と成長が読みたいです。チカ×ハルタ×草壁先生の三角関係の今後も気になる
しね。更なる続編を期待します。