ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ/「夜行観覧車」/双葉社刊

イメージ 1

湊かなえさんの「夜行観覧車」。

閑静な高級住宅地ひばりヶ丘の一軒家に住む医師の一家で殺人事件が起きた。被害者は大学病院に
勤めるエリート医師で家主の弘幸で、頭を鈍器で殴られ殺された。妻の淳子が犯行を認め警察に
連行されたが、三人いる子供の一人、末っ子の慎司が事件当夜から行方不明になっていた。淳子は
逃げた慎司を庇って犯行を認めたのか。事件当日の夜、隣家の主婦遠藤真弓は、医師の家で激しく
言い争う不穏な親子の会話を聞いていた。そして、その日の夜中にコンビニで逃げた慎司と
ばったり出会い、一万円を貸していた。慎司は自分が貸したお金で逃走を図っているのだろうか
――裕福で幸せに見えた家族の裏に何があったのか――人間の暗部を描いた家族小説。


100人待ちの予約本がようやっと回ってきました。蔵書が多いので、思った程には待たされ
なかった方ですが。ちなみに新作の『往復書簡』はあと三人待ちくらい。これも蔵書が多いから
あっという間に回って来そう・・・今回って来られてもちょっと困るんだけど^^;;考えなし
にぽんぽんと予約していると、一気にどどっと回ってくるから厄介です。予約は計画的に!が
出来るといいんだけどねぇ。読みたい本はとりあえずすぐ予約!とかしてるとほんと自分の首を
締めることになるんだなぁというのを痛感する今日この頃・・・。とりあえず毎回引き取り期限の
短い方から3~4冊借りているのだけど、この間うっかりしていて一冊引き取り期限を過ぎて
しまって、予約取り消しになってしまった本があって悲しかったです。せっかく回って来たのに
なぁ(ちなみに奥泉光さんの『シューマンの指』。本屋で装幀見た瞬間「読もう!」と思った
本だったので楽しみにしてたのになぁ(T_T))。

この本に関しては、私の後に450人以上の人が待っているので、さっさと読んで返さなければ、
と思いながら読み始めましたが、相変わらず読みやすくてリーダビリティは抜群なので、いつもの
ごとくにあっという間に読み終えてしまいました。
今回もまた、一癖も二癖もあるようなキャラ大集合。よくぞこんなに嫌な人間ばっかり書ける
よなぁ、とある意味感心してしまいます。出てくる人物、みんなどっか歪んでて理解出来ない
思考回路してるんだもの。ほんと、読んでいてムカムカイライラさせられました。特にムカついた
のは遠藤家の一人娘・彩香と、高橋家の長男・良幸の彼女・明里。得体の知れない不気味さが
あったのは近所に住む好奇心旺盛で野次馬根性丸出しの老女・小島さと子。それ以外の人物も
基本的には自己中心的で、共感するところの少ない嫌なタイプが多かったです。人間心理に
深く斬り込む作品とも云えるのかもしれないけど、単に嫌な人間の内面を延々読まされただけ
のような作品とも云えるような。殺人事件が起きるけれど、その真相はさほど驚愕するような
ものではないし、ミステリーとして読むべき作品ではないですね。物語は基本的には二つの
家族の視点が交互に語られ、合間にインターバルとして両家の近隣住民である小島さと子の
独白が挟まれています。正直、この小島さと子部分は必要だったのかなぁという気がしなくも
ない。最後に彼女自身の物語の真相が語られるのかと期待していたのに、結局意味深な独白
だけで終わっちゃってるし。まぁ、彼女の言葉から大体の背景は推測できはするのだけど、
もっと直接彼女がどれ位相手から嫌がられているのかとか虐げられているのかとか、そういう
ところをきちんと書いてほしかった。高橋家への嫌がらせに関しては全く理解不能というしか
なかったし、好奇心で隣家の問題に首を突っ込むところは嫌な印象しか受けなかったのだけど、
基本的には悪い人ではないようなので、もしかしたら息子からは本当に心配されているだけ
だったりするのかもしれないですが。でも、確実に息子の嫁からは敬遠されるタイプでしょうね。
こんな人間が姑だったら結婚後も苦労しそうだもん・・・。

前半はほんとに出て来る人物の心理がマイナスの感情ばかりでうんざりしたのだけど、終盤は
それぞれの人物が少しだけ前向きになれる要素が入っていて、救いはある終わり方になっています。
終盤、遠藤啓介が比奈子の友達を連れて高橋家の嫌がらせの痕跡を消しに行くところはなかなか
感動的な良いシーンだとは思うのですが、でも、どうも湊さんの作品に関しては、そうした明るい
要素が不要に思えてしまうんですよねぇ・・・。それは私がひねくれているからかな^^;『告白』
のあの徹底した黒さを期待しちゃうところがあるから、最後にそういう明るい要素があると拍子抜け
しちゃうというか・・・。
タイトルの『夜行観覧車』のくだりもイマイチ作品にはまっているように感じなかったのですが。
読みやすいし筆力は相変わらずあると思うのだけど、どうも殺人事件にしても人間心理にしても、
中途半端な印象が否めず、全体的にパンチに欠けるという感じがしました。作者は何を狙って
いたのかなぁ・・・。『家族小説』なのは間違いないとは思うのですけれど。真弓のパート仲間で
おめでたの噂があった晶子が高橋家のあの人物と繋がってる辺りの人間関係なんかは湊さんらしい
複雑さだな、と思いましたけどね。全体の人間関係はちょっと分かりづらかったです。そんなに
登場人物が多い訳ではないのですが、脇役の描き分けがイマイチはっきりしなかったからかも。
まぁ、その辺もあんまり気にせずさらっと流して読んでしまったのですけれどね^^;
毎回、ちょっとづつ構成を変えて新境地を切り拓こうとしているのはわかるのだけど、どうも
それが上手く行っていないような・・・。読ませる力はあるのに、どの作品も似たような印象に
なってしまうのがちょっと残念な気がしますね。新作はまた趣向が変わっているようなので、
一応期待しておこう。