ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

飛鳥部勝則/「黒と愛」/早川書房刊

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飛鳥部勝則さんの「黒と愛」。

久しぶりに会ったテレビ局のカメラマン崔川から、幽霊が出るという噂の絶えない、封鎖された
アミューズメントパーク<奇傾城>での心霊特番の撮影に一緒に来て欲しいと頼まれた探偵の
亜久。奇傾城は不穏な噂が絶えない場所だった。亜久は、そこで霊能リポーター役の高校生・
黒と出会う。黒い髪に黒い制服を来た美少女は、初対面の亜久に「あなたは鋏が好きですか」
と問いかけた。やがて、黒い少女に魅入られた男が密室の中で惨殺された。不可能状況での
犯罪を行ったのは、幽霊なのか、それとも――奇形の城で起きる陰惨な事件の果てにあるもの
とは、憎悪か、愛か。書き下ろしゴシック本格ミステリー。


えー、またしてもやってくれました。飛鳥部さん。2008年度のマイベストミステリ、堂々の
2位に輝きました(が、だから何だという位権威はありませんが)堕天使拷問刑。究極の
キワモノミステリとして、大変気に入った作品だったのですが、その飛鳥部さんがまたもそれに
匹敵する超弩級のキワモノミステリをぶちかましてくれました。舞台となる奇傾城自体がもう
トンデモナイ位の胡散くささ。見てくれからして、和洋折衷で気持ち悪さ爆発の奇形のお城が舞台。
城主の北条は奇妙なもの、不気味なもの、気持ち悪いものに対して過剰な嗜好を持っていて、
本当の城を遊園地に改装して、自分の趣味を思いっきり反映させたアミューズメントパークを
創ってしまいます。が、あまりにも悪趣味が過ぎるので全く流行らず、その上、展示室の一つで
自殺事件が起き、閉園の憂き目に遭ってしまう。その上、閉園後は幽霊が出るという噂が出て、
心霊スポットになってしまう始末。もう、舞台設定だけでもキワモノ感満載。でも、出て来る
登場人物もそれに負けないトンデモキャラばかり。
もちろん、奇傾城の城主・北条を筆頭に、北条の身の回りの世話をする大女のカネ、初対面の人に
必ず「鋏が好きか」を問う全身黒ずくめの美少女高校生・黒に、彼女の趣味に付き合う同級生の
茉莉や智史、彼女に変質的な愛情を注ぐ司書・・・どの登場人物もみんなどこか壊れていて、
変態的。これでもか、というくらい作者のGOTH趣味がどこででも顔を出します。グロさや
ナンセンスな要素が満載なので、その手の描写に免疫がない人にはちょっとキツいかもしれません。
私は嬉々として読んでしまったのですが・・・(変態?)。
もう、ここまで書いてくれたら笑うしかない(苦笑)。特に、終盤の、264ページからの展開が
圧巻です。圧巻というか、呆気に取られるというか、なんともはや。奇傾城の地下で繰り広げ
られるある場面には目が点。完全に別次元に行っちゃった感じです。今回も何でもアリだなぁ~
と呆れつつ、あまりの飛鳥部さんらしさに笑ってしまいました。この地下で行われていたことに
ついては、山口雅也氏のある短編小説を思い出したのですが。ほんとに、ナンセンスというか、
なんというか。有り得ないだろう、とツッコミを入れたくなること必死。まさに象徴派が好んで
描く『聖アントニウスの誘惑』の具現化・・・(絵画に詳しい人ならどんな絵かおわかりになる
でしょう)。まぁ、このシーンが実際に起きたことなのかどうなのか、その辺りはぼかして
書かれているのですけれど。奇傾城の地下ならば、北条という変態趣味を持つ人物ならば、もしか
して・・・と思えてしまうところが怖いところです。この辺りまで読むと、もう、作者の変態的で
怪奇的な脳内宇宙にどっぷり浸かって、読む方の精神状態も危うくなってしまいそうです・・・。
エグい、グロい、痛い、などサディスティックな描写に免疫のない方は危険なのでご注意を。
黒と、黒の母親との『二日間の密室』の場面も凄かった・・・痛いし、酷いし。もう、読んでいて
気が遠くなりかけました・・・。そりゃ、鋏嫌いにもなるよね、こんな体験すれば^^;;

ただ、今回も基本はしっかり本格ミステリ。二転三転する真相にはその都度驚かされ、翻弄
させられました。実は一点、あからさまに矛盾している箇所があって、その点にずっと引っかかり
ながら読んでいたのです。そこが伏線なのは間違いないのだろうけど、それが時系列の矛盾なのか、
人物の矛盾なのかがわからず、もう一度読み返すべきかどうかずっと煩悶しながらも、結局
先へ進んでしまったのですが。結局、その時点でもう一度読み返してみたら、作者の仕掛けた罠に
気づけたかもしれないので、悔しかった。結局、まんまと騙されてしまいました。手法は非常に
オーソドックスなのですけれどね。明らかに誰もがおかしいと感じる部分があるので、これから
読まれる方は、その違和感を是非とも追求して読んでみて頂きたいと思います。

蒲生殺害の密室の真相についてはちょっと拍子抜けだったのですが、殺害方法に関してはなかなかの
大技トリックで面白かった。脳内ではちょっとイメージしにくかったので、映像で見てみたいと
思いましたが(でも、こんな作品を映像化するのは、まず日本では無理だと思うけど^^;;)。
蒲生殺害の真犯人に関しては全く推理出来ず。ああ、そっちか~と思いました。この真犯人も
実に飛鳥部さんらしい黒さ。その前にいくつか提示されていた謎も全てがこの真犯人と繋がって
いて、この人物がいかに黒く残虐なのかが浮き彫りにされ、空恐ろしくなりました。この黒さは
貴志さんの悪の教典のアノ人物を彷彿とさせました。うう、怖い・・・。でも、ラストは
なぜか物悲しく、爽やかな余韻があって、読後感はそれ程悪くない。事件の真相自体が後味悪いのは
間違いないのですが。このあたりは、『堕天使~』にも通じるものがあるかな。といっても、
あちらのラストのような嬉しいサプライズはありませんでしたが。
しかし、最後に出て来た沢口京って何者なんでしょうか。もしかして、他の飛鳥部作品に出て来る
キャラだったりするのかな??突然最後の最後に見知らぬ伏兵が出て来て面食らいました^^;

まぁ、今回もツッコミ所満載すぎて、ツッコみようがない位のキワモノっぷりが素晴らしかった
です。この人は、もう、このままこの路線で突っ走って欲しいですね。今回も、いろんな
ガジェットがてんこ盛りで、読み終えてしばし脱力。頭がくらくらしました。
一部のマニアにしか受けそうにもない気がしますが、本格ファンならある程度は楽しめると
思います。ただ、作者の変態趣味に付き合える耐性のある方じゃないと、最後まで読み通すのは
苦しいかも^^;私はとっても面白く興奮して読んでしまいましたけれど・・・(変態?)。

兎にも角にも、取り扱い厳重注意の変態キワモノミステリであることは間違いありません。
読まれる方は、ご覚悟を。