ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊坂幸太郎/「マリアビートル」/角川書店刊

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伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」。

元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、東京発盛岡行きの東北
新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」。
ツキのない殺し屋「七尾」。彼らもそれぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込み―物騒な奴らが
再びやって来た。『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。3年ぶりの書き下ろし長編
(あらすじ抜粋)。


伊坂さん新刊。グラスホッパーの続編なのですが、正直読んだのが昔すぎてほとんどキャラも
内容も覚えておらず・・・新作を読むにあたっておさらいしようと思っていたのに、それも結局
出来ずに読んでしまいました^^;鈴木のキャラだけはなんとなく覚えていたのだけれど。
でも、メインとなる殺し屋たちは前作のメインキャラとは違うので、あんまり前作の内容を
覚えてなくても問題はなかったです(たぶん・・・←そう思っているのは私だけか?^^;)。
少し前に買った雑誌『クレア』での伊坂さんご本人の新作の説明『新幹線のなかで殺し屋が
殺し合ってるだけの話』という、ほんとにそのまんまのお話でした(苦笑)。出て来るメイン
キャラはほとんどが殺し屋。殺し屋じゃなくても過去に人を殺している人物もいます。それぞれに
違う目的があって同じ新幹線に乗り合わせたのだけれど、ちょっとした偶然の作用で彼らの運命が
交錯して行きます。基本的に人を殺しても何とも思わない人たちなので、最終的には殺し合いに
発展してしまうのですが、それぞれのキャラ同士の会話が相変わらず洒落ていて、人がぼこぼこ
死ぬ割には緊迫感は全くありません。それは多分『グラスホッパー』の時もそうだったように
思うのだけれど(というか、ほとんどの伊坂作品がそうなんだと思うけど^^;)。どのキャラも
個性が強いので、登場人物が多い割に混乱せずに読めるのですが、前半はスローテンポでなかなか
話が進まないせいか、ストーリーに乗れずにちょっと苦戦気味でした。終盤は伊坂さんらしく
スピード感が増して、各パートが集約していって全体像が見えて行くという相変わらずの構成の妙に
唸らされたのですけれどね。
メインとなるのは殺し屋コンビ蜜柑と檸檬、絶望的についてない殺し屋の七尾、息子の復讐に
燃える木村、その木村を手玉に取る悪魔中学生の王子。それに『グラスホッパー』で活躍した
鈴木が加わって、それぞれがそれぞれの思惑の元行動して行く。蜜柑と檸檬の果物コンビの
パートでは機関車トーマスの薀蓄が楽しめるし、七尾のパートでは七尾のついてないっぷりが
楽しいし、この二つのパートはどちらも良かったのですが、とにかく鈴木と王子が出て来る
場面がキツかった。王子のキャラがとことん生理的嫌悪を感じるような人物像に描かれている
から。作中に出て来るどの殺し屋よりも一番危険思想を持った人物で、こんな悪魔みたいな
中学生が実現したらと思うと・・・ぞぞぞ。最近、この手の悪魔的少年キャラが出て来る作品を
良く読んでいる気がするなぁ・・・。しかも、外見がみんなこぞって端正な顔立ちで、一見
邪気がなくて可愛らしい少年に見えるところが余計に怖さを増長させているような。王子の
思考回路は本当に凡人には理解不能です。毎回王子が出て来る度に『早くくたばれ!』と思いながら
読んでしまいました(怖)。でも、大抵がこういう最悪の悪人が一番最後まで生き残るっていうのが
常道でして。なんでこの場面で生き残っちゃうのーーー!と、いちいち腹を立てながら読んで
ました・・・。とにかく彼に対する生理的嫌悪は凄かった。彼の言動の全てが嫌で嫌で仕方
なかったです。拷問のシーンもやだった・・・伊坂さんって、絶対ドSじゃないか?またこういう
シーンあるのかよー、と泣きそうになりました。だから痛いシーンダメなんだってばーー(泣)。
もう、だからこそ、木村の両親の登場には拍手喝采したくなりました。最後の最後まで王子
のことだからひっくり返す何かがあるんじゃないかとハラハラしてしまいました。最後は
推測するしかないですが、あの書き方だときっちりやり遂げていそうですよね。そうじゃなければ
納得いかないし。木村のことも、彼の息子のことも、ご都合主義以外の何ものでもない展開では
あったのだけれど、その部分をそう書いてくれたからこそ、この作品がエンタメとして痛快に
読ませる作品に仕上がっているのだと思います。蜜柑と檸檬のことは残念ではありましたが、
殺し屋の世界を描くにはそういうキャラも必要だったのでしょうね。

タイトルは最初、七尾の相棒(電話でのみ登場)の真莉亜が関係して来るのかな、と思った
のだけど、○○○○○(ひらがな4文字+漢字1文字)のことだったんですね。多分前作の
グラスホッパー』を受けてのタイトルなんでしょうね。マリアビートル=レディビートル
というのも初めて知りました。へぇ~~。

それぞれの章が誰の視点かを表す冒頭の判子文字も伊坂さんらしくて楽しい。特に、蜜柑と檸檬
の場合は『果物』で、七尾の場合が『天道虫』ってのが笑えます。表紙のタイトル字の
英語のTの部分が十字架になってるところもお洒落ですね~。


殺し屋たちが殺しあうだけのこんな荒唐無稽で殺伐とした設定の作品をエンタメにしてしまう
手腕は、やっぱりさすが伊坂さんだなぁと思いました。
面白かったのだけど、なんだか読み終えてどっと疲れが襲って来たような。王子の悪魔キャラ
に精神的にかなり痛めつけられたせいかも・・・。ヤツには絶対天誅が下っていて欲しいです、
ほんとに。『なぜ人を殺してはいけないの?』なんて、聞いてくる中学生がいたら要注意、です。