ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大門剛明/「確信犯」/角川書店刊

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大門剛明さんの「確信犯」。

広島で起きた殺人事件。被告人は無罪を勝ち取った。だが何人かは知っていた。彼が真犯人で
あると。14年後、この事件を担当した裁判長が殺されたことから事態は動く。裁判員制度などの
司法改革の是非を問う社会派推理(あらすじ抜粋)。


雪冤横溝正史ミステリ大賞を獲った大門さんの三作目です。今回も司法の問題を取り上げた
社会派作。『雪冤』のテーマが冤罪だったのに対して、本書は真逆。無罪になった被告人が、実は
有罪だった、という司法裁判の誤りが事件の発端。有罪の犯人を無罪にしてしまった裁判官たち
が14年経って、殺人事件に巻き込まれて行く社会派ミステリーです。今回も、耳慣れない司法の
専門用語や薀蓄がたくさん出て来るのですが、それ程難解に感じずに読ませる手腕はなかなかです。
ただ、同じ場面を違う人物の視点からそれぞれ追う手法が多用されているせいで、時系列が前後
することが多く、少々読んでいて回りくどさを感じることがしばしば。さほどページ数が多い作品
ではないのに、なんとなくテンポ良く読めず、冗長さを感じたのはその辺りが原因かもしれません。

登場人物も好感が持てる人がほとんどおらず、特に穂積のキャラ造形は前半と後半で別人の
ようにブレがあって違和感ばかり覚えてしまいました。確かに変わるきっかけとなる出来事は
あるのですが、だからといってあそこまで激変しちゃうっていうのはちょっと納得行きかねる
ものがありました。あんなにプライドが高くて野心の強い人間が、いくら人の死が絡んでいる
からといって、あそこまでプライドをかなぐり捨てる人格に変わるものでしょうか・・・。
もともと正義感の強い人間というならまだ納得できたと思うけど、前半の彼の言動を読んだ
限りでは、正義感なんてカケラも持ちあわせていないような人物に感じられたので・・・。
そもそも、若い頃とはいえ、法廷で裁判官が居眠りするって時点で仕事をなめているとしか
思えないのですが。それに、そこまで人格を変えるほど好きだったのに、なぜあんなに長い間
音沙汰なしだったのかも腑に落ちないし。
響子にしても、乃愛にしても、どうも言動に引っかかるところが多くて、あまり好感が持て
なかったです。特に、乃愛のラストの裏切りは酷い。完全に自分のエゴを通す為の自己満足
でしかなく、相手のことを全く考えてあげない行動には唖然。それまで偽の証拠をでっち上げる
ほど、相手のことを信じてあげていたと思っていただけに、ラストでの豹変ぶりには呆れてしまい
ました。こんな人間が司法の場に出たらどうなってしまうのでしょうか・・・。我がもの顔に正義を
振りかざすんだろうなぁ。
拓実って結局彼女のことを本当はどう思っていたのでしょうか。そこに愛はあったのかな・・・。

ミステリとしては、今回も二転三転する真相にはなっているので、それなりに楽しめたのですが、
デビュー作に比べると意外性も少なく、地味な印象。過去の出来事が複雑に絡んでいるので、
全体像がちょっとわかりにくかったです。

それにしても、ラストはなんとも後味が悪い。結局、上に立つ立場で私利私欲で動かない
人間なんていないってことなのかな・・・。誰からも人格者と言われる人間が、誰よりも
強欲だったという訳で。ラストシーンに出て来る二人は、どちらにも嫌悪しか感じなかった
です。政治や司法の正義って何なんでしょう。なんだか、暗澹とした気持ちになってしまい
ました。

ただ、法テラスという機関の存在なんかは全く知らなかったので、勉強になりました。裁判員
制度を始め、現在の司法の問題点に切り込みつつ、ミステリとしても読ませる手腕はやっぱり
買いたいですね。一作ごとに社会派ミステリ作家としての地位を確固たるものにしていっている
ように感じます。すでに4作目も発売されているようで、なかなか筆が早いところも、勢いに
乗っている証拠なのでしょう(ちなみに現在予約中で、そろそろ回って来そうな気配・・・^^;)。
デリケートな問題が多いだけに、批判なんかも来るでしょうけれど、今後もこの分野で書き
続けて問題提起して行って欲しいですね。