ミステリ読書録

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湊かなえ/「往復書簡」/幻冬舎刊

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湊かなえさんの「往復書簡」。

あれは本当に事故だったのだと、私に納得させてください。高校卒業以来十年ぶりに放送部の
同級生が集まった地元での結婚式。女子四人のうち一人だけ欠けた千秋は、行方不明だという。
そこには五年前の「事故」が影を落としていた。真実を知りたい悦子は、式の後日、事故現場に
いたというあずみと静香に手紙を送る―(「十年後の卒業文集」)。書簡形式の連作ミステリ
(あらすじ抜粋)。


湊さんの最新刊。タイトル通り、書簡のみで構成された中編が三編収録されています。ここ
数作ラストに救いを持たせる作品が多かった湊さんですが、この作品では登場人物にも毒の
ある人物がほとんど出てこず、作品自体も読み終えて心が温かくなる作品ばかり。そろそろ
路線変更しようという現れなんでしょうかね。三作とも、書面による文通交換の中で、過去の
ある出来事(事件)の真相が少しづつ明らかにされていく形式の書簡ミステリー。どれも子供
の頃の出来事というところは同じですが、それぞれに違った趣向の作品なので、基本は同じ
展開なのですが、飽きずに読み通すことが出来ました。パソコンや携帯がこれほど普及した
世の中で、敢えて文通という旧式の手法を取り上げたところが良かったですね。小説媒体だと
印刷された活字になってしまうとはいえ、手紙というツールでのやりとりというのは、やっぱり
温かみが感じられて素敵です。森見さんの『恋文の技術』を読んだときにも思いましたが、
最近文章を自分の直筆で書くということがめっきりなくなってしまったので、たまには誰かに
自分の字で手紙を書くのもいいな、と思いました。といっても、私は自分の字にコンプレックスが
あるので、人に自分の字を見られるのはちょっと恥ずかしいのですが・・・^^;きれいな字が
書けるって、それだけでその人の好感度もアップしちゃいますね。私も日ペンの美子ちゃん
やっておけば・・・と何度後悔させられたことか(しかし、あれはほんとに効果があるのかね)。
最近一番字を書く機会が多いのは図書館の書面での新刊予約なんですけれど。ほんと、私の字
悪筆で読みにくくて、毎度司書の方に申し訳ないなぁと思います・・・(すみません)。



おっと、脱線^^;では、以下、各作品の感想を。
若干ネタバレ気味になっておりますので、未読の方はご注意ください。







『十年後の卒業文集』
高校卒業して10年、夫の海外赴任で海外在住になった悦子は、高校の同級生千秋が消息不明で
行方不明になっていることに驚き、同級生に手紙で連絡を取ることに。千秋の行方不明は、
高校三年の時のある事故が原因で顔に傷を負い、心を病んだせいではないのか・・・。

千秋の失踪の真相は意外にあっけないものでしたが、終盤で明かされる手紙のからくりには
驚きました。でも、いくら10年が経っていて女性が化粧で変わるとはいえ、誰にも気づかれずに
・・・てのは無理があるんじゃないかなぁ?


『二十年後の宿題』
小学生の頃にお世話になった竹沢先生から、過去に受け持った6人の生徒がその後どうして
いるのか調べて欲しいと頼まれた大場は、一人づつの居場所を調べて会いに行き、その顛末を
手紙で知らせることに。その6人とは、竹沢先生の旦那さんが水死した際に一緒にいた生徒たち
だった――。

6人目の人物がある人物と同一人物だったというのはさすがに偶然が過ぎるだろう、とツッコミ
たくなったのですが、ラストで明らかにされる事実を知り、溜飲が下がりました。そもそもの
発端からして違っていたのですね。事件の真相はとてもやるせないものでした。竹沢先生と
その旦那さんの人となりやその時の実情が明らかにされて、余計に悲しみが増しました。私が
同じ立場だったら、家族と教え子、どちらを優先して助けるでしょうか・・・。非難されようとも、
やっぱり竹沢先生と同じ選択をしてしまうのではないかな・・・。
ラストはここまで先生の為に奔走した大場君が可哀想な結末を迎えるのかと思ったのですが・・・
心温まる結末に嬉しくなりました。報われて良かったねぇ。

『十五年後の補修』
国際ボランティア隊に志願し、二年間P国に渡ってしまった恋人の純一。寂しい万里子はエアメール
でのやりとりを提案。ぎこちないながらも、二人の文通が始まった。しかし、二人の間には小学生
の頃のある出来事が暗い歪みとなって凝り固まっていた。

これは一番面白かったかな。出だしのラブラブ恋文のやりとりには、こっちが小っ恥ずかしく
なるくらいだったのだけれど、途中からだんだん不穏な空気になってきて、ある事実が明らかに
された所で黒さが爆発したので、湊さんの本領発揮!?と思ったのですが・・・今回はそれが
いい方向に裏切られました。なんだか、有川さんの作品を読んでる気分になりましたが(苦笑)。
ベタな展開すぎて苦笑しちゃいそうになるけれども、こういうラストはやっぱり素敵だね。




湊女史の作品にしては、登場人物にもストーリーにもほとんど毒がないので、今までの作品を
読んできたファンにとってはちょっと意外な作品かもしれません。湊さんの黒いところが大好き
な人間としてはちょっと残念でもあるのだけれど、作品としては面白い趣向だし、ミステリと
しても楽しめて良かったです。こんな心温まる感動作も書ける人なのだね(←失礼発言)。
今後はどんな方向性になって行くのかな。なんだかんだいって、今後も注目しちゃう作家さん
なのは間違いありません。