ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾ルカ/「蜜姫村」/角川春樹事務所刊

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乾ルカさんの「蜜姫村」。

変種のアリを追って、東北の山村に迷い込んだ、東京の大学の講師で昆虫学者の山上一郎は、
瀧埜上村の仮巣地区の人々に助けられ、命をとりとめた。翌年、山上は医師でもある妻の和子を
説得し、一年間のフィールドワークのために、再び仮巣地区を訪れた。この村には医師がいなかった
ため、和子にとってもそれはやりがいのある仕事に思えたのだった。優しくて、親切な村の人々。
だが、何日かその村で生活していくうちに、和子は違和感を覚える。――みんな健康すぎる・・・
医師もいないのに・・・(あらすじ抜粋)。


乾さんの最新刊。書店で見かけた時からこれは好みそうだぞ、と思って楽しみにしていたの
ですが、期待通り面白かったです。予想していた物語とは全然違っていたのですが^^;
『メグル』や『あの日にかえりたい』なんかの切ない感動作とはまたガラっと作風を変えて、
ホラー+ファンタジー+サスペンス+恋愛と、いろんな要素てんこ盛りな感じで、ジャンル
を特定出来ない作品でしたが、一度読み始めたら物語の吸引力に引っ張られて読む手が止め
られず、結局ほぼノンストップで読み通してしまいました。相変わらずこの人の読ませる力は
すごいです。出だしは、新種のアリの研究の為に滝埜上村にやってきた昆虫学者とその妻が
親切な村の住人の家に間借りさせてもらい、村の生活に馴染んで行くところから始まるの
ですが、医師である妻が村人たちに無料の健康診断を申し出るところから、村人たちの
彼らへの態度がおかしくなり始めます。そこからまた怒涛の展開が繰り広げられまして、
禁忌の場所へと立ち入った夫の失踪、一人残された孤独な妻の妊娠、出産を経て、この地で
健やかに三歳に育った娘がある奇病に罹ってしまいます。手の施しようのない程の状態に
なってしまった娘の命を救う為に、母親はある人物とある契約を交わします。そこからの
展開がまたすごい。とにかく、娘を救う為にある人物が施す行為のグロテスクさといったら。
この辺りのグロさは、デビュー作の『夏光』に通じるものがありますね。こういうのをまた
読みたかったんですよ~。このなんとも言えない気味悪さを出せるのは乾さんならではって
感じがしますね。

第二部は、またがらっと作風が変わって、浮世離れした天上での生活が描かれます。平安時代
後宮生活を描いているような雰囲気。ここでは、ロミオとジュリエットばりの、身分違いの
純愛が中心。決められた許嫁がいるとも知らずに、幼少の頃から側に仕えて守ってくれた男を
愛してしまった少女が、定められた運命に抗って行く姿を劇的に描きます。展開としては
昼のメロドラマみたいですが、これがなかなかに読ませる展開の連続で、時間を忘れてのめり
込んで読みふけってしまいました。特に面白かったのが、紅蝶がお優に性教育するくだり。
春画を使って恥じらうお優に無理矢理男女の睦事を叩き込むところが、真剣なんだろうけど
なんだか妙に滑稽で面白かった。教える紅蝶だってまだ十代のうら若き乙女な筈なんだけどね^^;
その後、大蜂と関係を持ってしまった後で、お優の性教育に対する反応が微妙に変化して、
お優が女として少しづつ花開いて行くところの描き方も巧いですね。ちょっとエロティックな
描写も出て来ますが、下品ではないので浮いた感じもなく、お互いの愛が感じられて私は
全然不快ではなかったです。何より大蜂がかっこよくって。お優が惹かれるのもわかるな~って
感じ。まぁ、黒王と大蜂のキャラは、言ってみれば典型的な悪役とヒーロー役って感じでは
あるのですが、こういう作品にはそのステロタイプな感じがハマるんですよね。二人が
逃避行してからは追手の存在を気にしつつ愛を育む二人にハラハラドキドキ・・・。最後は
引っ張った割に意外と呆気ない結末でちょっと拍子抜けではありましたが・・・。
まぁ、蜜姫が約束を守るひとだという描写はその前に伏線として出て来るので、納得出来ない
こともないのですが。ページ数増やして、もう一波乱あっても良かったかな~とは思いました。

とにかく、スピーディで盛りだくさんな展開にぐいぐい読まされました。好き嫌いはありそう
ですが、私はとても面白く読みました。ページ数の割に密度の濃い物語で満腹って感じ。
『夏光』系を待ち望んでいた人にとっては待望の作品とも云えるのではないかな。乾ルカ
底力を感じる作品でした。

それにしても、乾さんってお綺麗な方なんですねぇ。ブログのお友達のふわわん桜さんのところで
紹介されていた著者インタビューの近影を見たらタレントさんみたいに美人さんでビックリ・・・。
辻村さんでも思うことだけど、こんなに美人さんで作家としての実力もあるなんて、天はほんとに
一人の人に二物も三物も与えるんだなぁ、とちょっぴり嫉妬心が湧いてしまうのでした^^;
でも、このインタビューで語られる読書やマンガ遍歴がすごく共感出来る内容で嬉しかったです。
乾さん、かなりのミステリ好きなんですね。ミステリも書いてほしいなぁ。