ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

霧舎巧/「新・新本格もどき」/カッパ・ノベルス刊

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霧舎巧さんの「新・新本格もどき」。

霧舎巧新本格の名品をふたたび「もどく」。記憶喪失が治ったはずの探偵・吉田さん。しかし、
かわりに失ってしまった仲間との思い出を呼び覚まさんと、看護師・上岡エリがなりきり名探偵
となって、吉田さんを彼女の相棒に指名する!ミステリマニアのてんぷら屋の大将、コスプレ
マニアのエリの姉・姿子。まとまりのないメンバーとともに、探偵コンビが怪しげな組織の陰謀を
華麗な推理でサックリ解決!?二階堂黎人森博嗣北村薫西澤保彦芦辺拓麻耶雄嵩
オリジナル作者公認、新本格ファンもどきどきの霧舎ワールド、全開!満を持して作者が自らを
「もどい」た新作書下ろしも収録(あらすじ抜粋)。


前作新本格もどきがとても面白かったので、続編が出ると聞いて、今度はどんな作家の作品を
もどくのか、とても楽しみにしていました。が、しかーし、今回はイマイチ自分の好みど真ん中
っていう元ネタ作品がないせいか、前作よりもちょっと乗り切れなかった。しかも、一作目で
出てきたドクター・オーガのキャラを後々まで引っ張ったおかげで、最後の方は人間関係ごちゃ
ごちゃすぎて、何が何だかよくわからなくなってしまった感じがしました。前作の、一話完結
形式の方が「もどいた感」がしっかりあってずっと面白かったのに。前作でも連作形式ではあった
けれど、それぞれがきちんと完結した上での連作になっていたので、混乱せずに楽しめていたのに
なぁ。まぁ、元ネタ作品自体にそれほど思い入れのない作品が多かったので、余計にそう感じた
のかもしれません。キャラ間の会話なんかは面白くて何度も吹き出しながら読んでいたのです
けれどね。マスターが転職していてちょっとビックリしました。カレー屋からなぜ天ぷら屋に・・・?
前作の内容もイマイチ覚えてなくて、前作で吉田さんに記憶が戻ったことすらすっかり忘れて
いました^^;
それにしても、各作品の終わりに挿入されている『寸断されたあとがき』を読むと、このシリーズ
って毎回、枚数制限との戦いなんだなぁというのがわかります。元ネタを「もどき」ながら、
ドクター・オーガを中心にした謎も追い、尚且つ吉田さん本人の記憶喪失の問題も取り入れ
ようとするものだから、そりゃ短編で書くには限度があるよ。枚数制限のせいで削られた
イデアには、読んでみたいものがいくつもありました。残念。できれば、ドクター・オーガ
関係は初回で忘れて、それぞれ単独の事件で書いて欲しかったなぁ。ちょっと、個人的には
不満の多い二作目でありました。




以下、各作品の短評と元ネタ。若干ネタバレしてます。未読の方はご注意を。





人狼病の恐怖』
元ネタは二階堂黎人氏の人狼城の恐怖』。作者のドクター・オーガとの戦いがここから
始まった・・・。これ一作で終わらせておけば良かったのにねぇ・・・。ミステリとしては
オーソドックスな○○トリックですね。ありがちですが、きれいにミスリードされてました^^;
『ジンロウビョウ』は作中で私も絶対何かの伏線だと思っていたのですが・・・枚数制限の
せいで中途半端な扱いになっちゃったんですね^^;本歌は世界最長のミステリ(まだそう
ですよね?)として超有名作ですが、未読^^;でも、蘭子ものは読んでいるので、もどきネタ
に関しては普通にわかって問題なし。

『すべてがXになる』
元ネタは森博嗣氏のすべてがFになる。本歌は巷の評判とは反対に、私は苦手な作品
なのですが、こちらのトリックは面白かったです。きちんと真相に理系が絡んでいるところも
良く考えられていますね。真相読んで、タイトルに納得。

覆面作家は二人もいらない』
元ネタは北村薫氏の覆面作家は二人いる』ノックスの十戒を逆手に取ったトリックは
なかなか面白かった。でも、『賀』って名前はどう読むのだろう?あちらでは実在する名前
なのかなぁ。北村さんなら円紫師匠と私シリーズが来るかと思いきや。こっちの方がキャラが
はっきりしているから書きやすいのは確かでしょうね。

『万力密室!』
元ネタは西澤保彦氏の『念力密室!』。うわ、これ来たかー、って感じでした^^;どうも
本歌の方はキャラが好きになれずシリーズ途中まで読んで止まってる状態なのですが^^;
ミステリがどうとかよりも、チューモンインとかカンコーヘンとかの元ネタでも出て来る略語
とかの言葉の応酬の方が面白くて印象に残りました(苦笑)。

『殺人史劇の13人』
元ネタは芦辺拓氏の『殺人喜劇の13人』。これは本歌の方を読んでいないので、もどきネタも
全くわからず。芦辺さんの文章ってどうも読みにくくてダメなんですが、その読みにくい感じも
出ていてさすが。この作品あたりから<HOOK IN SHOW>のメンバーの人間関係が複雑になってきて
頭が混乱しだしました^^;

『夏と冬の迷走曲』
元ネタは麻耶雄嵩氏の『夏と冬の奏鳴曲』。本歌は読んでませんが、デビュー作を読んでいるので
メルパルク鮎にはウケました(笑)。ここに来て人間関係整理しきれず、誰が誰だが迷宮に
入り込んだ気分に・・・。ラストの吉田さんの刑事へのセリフは、長年のまややファンならニヤニヤ
しちゃうところでしょう。私には中のいくつかしかピンと来なかったですけれど^^;ちなみに、
エピローグの意味はすぐにわかりましたよ(苦笑)。

『<おかずの扉>研究会』
元ネタは霧舎さんご本人の『<あかずの扉>研究会』。ご自身の作品をもどくのは非常に
嫌だったそう。まぁ、そりゃそうだよね。尊敬していて好きだからこそ、既存のミステリ作家の
作品を「もどく」わけで。自分のじゃ本末転倒ってやつだし。なんか、これやっちゃったら、
もう次はないって言われてるみたいでちょっと悲しい。ミステリの真相はもう、最後まで
人間関係把握できずに真相読んじゃったので、どこで驚いていいやらわかりませんでした・・・
河井瑠花に金井利佳に刈間真里香に名村里子・・・誰が誰だよ、もう!って感じでした(アホ)。




全体的に、一作完結でもう少しすっきり読ませて欲しかったなぁ。なんか、読み終えても真相で
印象に残ってるのって、『すべてがXになる』のXの真相くらいかも。他はもう、どれがどれだか
ごっちゃになっている・・・読み終えたばかりなのにーー^^;;
本歌への思い入れも、前作とでは差があったしなぁ。
でも、このシリーズはやっぱり面白いので、是非ともまだまだ続けてほしいですね。今度は
どんな作品を「もどく」のか。取り上げられていない新本格作家はまだまだいるのだからね。

でも、一番残念だったのは、前作の時は帯の『もどかれた作家からの著者へのメッセージ』が
図書館側の好意で貼りつけられてあったのに、それが今回なかったこと。仕方ないから、今度、
書店で確認してこよう・・・(しょぼん)。