ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

月原渉/「太陽が死んだ夜」/東京創元社刊

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月原渉さんの「太陽が死んだ夜」。

第二次大戦中、ニュージーランドの捕虜収容所で、日本兵が謎の死を遂げた。数ヶ月後、収容所
とは別の島にある全寮制女子校の教会堂で、少女の惨殺死体が発見された。そして四十一年後、
同じ女子校の教会堂で美しい少女たちを襲った連続殺人―三つの事件を結ぶものは何か?ひとりの
少女の祖母が遺したものそこに記されていた謎の言葉は何を語るのか…。第20回鮎川哲也賞受賞作
(あらすじ抜粋)。


鮎哲賞二作同時受賞のうちの片割れ。もう一作の『ボディ・メッセージ』の方はなんとなく食指が
動かなくて予約しなかったのですが、あらすじ読んでこっちの方は好みそうだったので手に取って
みました。舞台設定やキャラ造形はいかにも鮎哲賞らしい。本格要素てんこ盛りで、なかなか
楽しめました。ただ、一つ一つの謎の解決がさらりとしすぎていて、なんだかどれもいまひとつ
ミステリとしての山場を感じられなかったような。中心人物を誰に据えるか、というのも少し
中途半端。語り手のジュリアンなのか、彼女の親友バーニィなのか、ミステリアスな日本人
ベルなのか。どれか一人に焦点を絞った方が読みやすかったのではないかと思いました。
ニュージーランドキリスト教系の全寮制の女子校が舞台という、ゴシックな雰囲気自体は
とても好み。教会堂のお篭りに集まった女子生徒たちがもう少し書き分けられていたらもっと
良かったのだけど。途中、誰が誰だか混乱しちゃったところもあったので(この手の作品では
いつものことだけれど)。
お篭りをする7人の生徒+一人のシスターが、お篭り中に一人、また一人と猟奇的に殺されて行き、
残った人物たちがお互いに疑心暗鬼にかられていくという展開は、いかにも直球のクローズド
サークルもの。猟奇殺人の真相は、正直ちょっと説得力に欠けるように感じたし、蠟で密封した
密室方法に関してもちょっと疑問に思うところがありました。全体的に本格ミステリを意識して
いる割には、ミステリの真相には驚きがなかったかなぁ、という感じでした。
特に、殺された少女の顔にかけられた○○のことが一番引っかかったかも。一目見て、男性の
○○って、そんなのすぐにわかるもの?あと、どうやって採取したんだろう・・・??

キャラクターの中で一番異彩を放っている、黒髪でミステリアスな日本人生徒のあだ名がベル
なので、なんだか読む度に妙~~にこそばゆい気分になりました(苦笑)。本名はきちんとした
日本名があって、あだ名のベルの由来は風鈴から来ているのですけれど^^;なんとなく、自分の
アバターを想像して読んでしまった(苦笑)。ベルのキャラはなかなか個性的で良かったと思う
ので、もう少し生かして欲しかった気がするな。探偵役を担った割に、最後の扱いもなし崩しな
感じだったし。ちょっと残念な感じ(同じあだ名だから余計そう思うのかも(苦笑))。

終盤の謎解き以降がなんだかちょっとだらだらしていて、もっとすっきりさせたら良かったと思う。
ラストの『冒頭に続くプロローグ』もちょっと長すぎ。ジュリアンとバーニィのその後とかも
ちょっと蛇足に感じました。
舞台設定や雰囲気はとても良いのだけれど、それが一つ一つ巧く機能しているとは言いがたい
ような。一つ一つの謎の真相の処理がちょっと中途半端というか。なんだか、惜しい。悪くはない
のだけど、ミステリとして感心出来たかというと、それは残念ながらほとんどなかった。
タイトルももうちょっと作品に絡めて欲しかったな~。『月虹』のエピソードもとってつけた
感じで、いまいちはまっているように思えなかったのが残念でした。情景としては美しいのにな。
ただ、書き慣れたらもっと良くなるような、可能性は感じました。取り敢えず二作目が出るなら
読んでみたいかも。

巻末の各選考委員の選評をぱらぱら見ていたら、本書は北村さんが、もう一作の『ボディ・メッセージ』
の方は島田さんが推したそうな。『ボディ~』の方はもっと正統派な本格ミステリらしいので、
ちょっと気になってきた。でも、島田さん推薦はアテに出来ないって意見が多いからなぁ(苦笑)。

それにしても、月原さんの投稿時のペンネーム「月原少年」って^^;そりゃ、変えろって言われる
よなぁ。しかも、著者プロフィール見たら、少年って年でもないじゃないの(’78年生まれ)^^;
アーティスト名みたいにしたかったのかな。謎。