ミステリ読書録

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東野圭吾/「犯人のいない殺人の夜」/光文社刊

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東野圭吾さんの「犯人のいない殺人の夜」。

親友が死んだ。枯れ葉のように校舎の屋上からひらひら落ちて。刑事たちが自殺の可能性を考えて
いることは俺にもわかった。しかし…。高校を舞台にした好短編「小さな故意の物語」。犯人が
いないのに殺人があった。でも犯人はいる…。さまざまな欲望が交錯した一夜の殺人事件を描いた
表題作。人間心理のドラマと、ミステリーの醍醐味を味わう傑作七編(あらすじ抜粋)。


読んだのは初版の単行本版なのですが、画像が探せなかった為、仕方ないので文庫版の写真を
載せておきました。すみません^^;あらすじも抜粋で重ねてすみません(最近手抜きばっか・・・)。
『未読の東野作品を減らそうキャンペーン』久々の復活です。忘れている訳ではないのだけれど、
なかなか過去作品にまで手が出せないのが正直なところ^^;新作はなんとか追いかけられて
いるのですけれどね~^^;『白銀ジャック』もようやく回って来たようなので、近々読む予定。
ま、あんまり期待しすぎない方が良さそうな感じですが・・・(苦笑)。
本書は初期の頃の短篇集。さすがに文章も内容もまだまだ若いなぁって感じ。一作一作の出来
としては、正直あまり良いとは云えない。ほとんどの作品でオチが読めてしまいました^^;
基本的にほとんどの話が半分倒叙ものに近いような形式のせいもあるかもしれないですけど。
ただ、まぁ、若いだけに、今の作品にはない初々しさみたいなものは感じました。ちょっぴり
ヒリヒリする苦い結末も、その後に出される『○○小説』シリーズの毒要素の片鱗が感じられるし。
良くも悪くも、東野さんの若さが出ている短篇集ではないでしょうか。



以下、各作品の感想。若干ネタバレ気味のものもあります。未読の方はご注意を。




『小さな故意の物語』
親友が屋上から落ちて死んだ。頭脳も才能も容姿もすべて持っていて満ち足りた生活をしている
ように見えたのに。何故?

親友の死の真相は、案の定という感じ。伏線も割とあからさまなので、オチが読めてしまう人は
多いんじゃないのかな。なんとも、やりきれない真相。タイトルの黒さが東野さんらしい(笑)。

『闇の中の二人』
教え子の信二から、『朝起きたら三ヶ月になる弟がベビーベッドの中で死んでいた』と告げられた
弘美。現場は物取りの犯行のように見せかけられていたが、真相は・・・。

これも真相は多分こうだろうな~と思ったら、概ねその通りでした^^;でも義母のしたことは
あまりにもえげつないし、許せないですね。 犯人のしたこと(殺人)はもっと許しがたい行為では
あるけれど、動機には納得出来ました。その光景が浮かんでゾクリ、としました。

『踊り子』
英語塾の帰りに、私立の有名女子校の体育館で一人新体操の練習をする少女に一目惚れした孝志は、
彼女が練習する毎週水曜日に体育館を覗くことが週課となった。しかし、孝志がある行動に出た
次の週から彼女が練習に来なくなってしまい・・・。

最初、家庭教師の黒田が孝志の為に動くのは何か後ろ暗いことがあるからかも、とかいろいろ
勘繰ったりしていたのですが、純粋に教え子の為の行動だったのでちょっと拍子抜けしたところは
あったのですが、真相は孝志にとってはあまりにもやるせないものでした。これは確かに教えられ
ないよなぁ・・・。善意の殺人ってこういうことなんだろうか。なんともやりきれない結末でした。

『エンドレス・ナイト』
大阪に単身赴任している夫が殺されたとの警察からの一報を受けた厚子は、大阪へ向かう。大阪
の町が大嫌いな厚子は、夫から一緒に来て欲しいと言われた時に断った。その大阪の町で夫は
殺された。夫の事業は上手く行ってなかったらしい。夫の死の真相は――。

これも早々にオチが予測出来てしまいました。担当刑事が厚子が大阪出身だと見抜いたところは
感心したものの、その理由が「匂いでわかる」ってのはガッカリ^^;もっと論理的に見抜いて
欲しかったよ・・・。

『白い凶器』
食品会社の材料課課長が会社の敷地内で死体となって発見された。六階の窓から落ちたらしい。
その日残業をしていたのは森田という男の社員と、中町由希子という女子社員。森田は中町に
求愛していた。捜査が進まない中、また一人材料課の社員が殺されて――。

動機は完全に自己中心的な理由で、単なる逆恨み。人間の思い込みって怖いなぁ・・・。合間に
挟まれるモノローグの会話の相手に関してはすっかりミスリードされてました^^;

『さよならコーチ』
「さよならコーチ」の言葉を残して、直美は死んだ。彼女は、かつては名の知れたアーチェリーの
名選手だったが、ここ数年はピークを過ぎて下り坂だった。最後の望みの綱だったオリンピック
選考会でミスを連発し、最後のチャンスも逃してしまった。そのことが苦になったのか。彼女は
自分が自殺する姿をビデオに残していた――。

直美の自殺方法は、いかにも理系な東野さんが考えそうな方法って感じ。普通、こんな面倒くさい
方法選ばないと思うけどなぁ。ちょっとガリレオシリーズっぽいですけど。死の真相は予想の
範囲内でしたが、蜘蛛でテープのからくりに気づかせる辺りは巧いですね。

『犯人のいない殺人の夜』
建築家・岸田創介の自宅で殺人事件が起きた。その場に居合わせた家族や息子の二人の家庭教師
たちは、口裏を合せて事件を「なかったこと」にしようと画策するのだが――。

これは一番構成が凝っていて面白かったですね。ページ数も一番多いですし(笑)。ラストの
真相にはヤラレタ~って感じでした。完全にミスリードされてましたねぇ。<夜>の部分の
『あたし』の一人称にどうも毎回違和感を覚えていて、<今>の章の『俺』と混同しちゃう所が
あったのですが^^;ラストシーンにも息を飲みました。ぞぞぞ。



まぁ、相変わらずすらすら読めるので、読書停滞気味の時には最適なんですけどね、東野作品。
これはちょっと全体的に小粒な短篇集って感じだったかなぁ。表題作は良かったですけど(全く
救いのない暗黒オチですが^^;)。
未読の東野作品、まだまだ残っているので、図書館で見つけ次第どんどん読んでいきたいな、
と思っております(東野作品自体、人気あってなかなか置いてないんだよねぇ・・・(ため息))。