ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

齋藤智裕/「KAGEROU」/ポプラ社刊

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齋藤智裕さんの「KAGEROU」。

職がなく、結婚もせず、借金だけがかさんで行く人生に疲れきったヤスオは、倒産して廃墟と化した
デパートの屋上遊園地の金網から飛び降りようとしていた。しかし、飛び降りる寸前、黒尽くめで
端正な顔立ちの男に引き止められる。男は、ヤスオにある取引をしないかと持ちかけて来た。男は
全日本ドナー・レシピエント協会、略して全ド協の京谷と名乗った。男の取引とは、ヤスオの臓器を
高額で買取るという、臓器売買のことだった――。迷惑をかけてきた田舎の両親にヤスオの死後、
高額のお金が残せるという話を聞き、ヤスオはその話を受け入れることに・・・第五回ポプラ小説
大賞受賞作。


はい。というわけで。齋藤智裕さんの処女作でございます。今更、『・・・誰?』と疑問を投げかける
人はいないと思いますが。昨日発売してすでに60万部を超えた(らしい←ネット調べ)、俳優水嶋
ヒロさんの小説です。なぜ、図書館派の私が発売二日目にして記事が書けるのか。え、誰も気に
してない?^^;い、一応説明させてください・・・。べ、別にそこまで水嶋ヒロの大ファンって
訳じゃないってことをまずお伝えしておきたい。確かに俳優時代好きでしたけれども。正直、作家
転向のニュースを聞いた時点でかなりのイメージダウンだったんです、私の中では。作品を一冊も
出さないうちから作家に転向するって言えちゃうって、世の中の職業作家さんを馬鹿にしてるのか!
と思っちゃったんだもん。一作でも作品どっかで書いてて、手応えを感じてるってのならまだ納得
出来たんですけどね。でも、そんなことをブツブツ言っていたら、水嶋ヒロ、ポプラ大賞受賞』
のニュースですよ。仰け反りましたね。そして、自分の発言を深く後悔し反省しましたよ。でも、
作品の評価は読んでみなくてはわからないではないですか。これはもう、自分で読んで確認する
しかない!と、読む気満々で、昨日は暇を見て図書館に予約しに行かねば!と朝から意気込んで
いたわけなのですが。そんな時に職場の人間(もうすぐ還暦、小沢一郎似)が、私が本好きなのを
知っているので水嶋ヒロの本は読まないのか?』と聞くので、『読みたいから買って~』
ダメ元で言ってみたら(お堅い本しか読まないタイプの人間なので)、どうやら朝の情報番組を
見てかなり気になっていたらしく『じゃ、お金出してやるから今すぐ買ってこい』と言われまして。
即行で買いに走って、目出度く他人のお金で購入に至った訳なのでした(え、ズルイ?^^;)。
友人に話したら『策士だね』と言われました・・・エ、エヘヘ。
でもって、暇な時間に読み始めたら、結構引きこまれまして。半分くらいは職場で読んで、あと
半分は家に帰って一気読み。多分合せて2時間程度で読めちゃったんじゃないかな。岩井志麻子
さんも言ってましたが、この読ませるところは評価してもいいんじゃないかと。ただ、彼女が
苦言したように、ちょこちょこ出て来るおやじギャグには私もちょっと引いたところがあったの
ですが^^;でも、このおやじギャグもラストの伏線の一部になっているので、不必要とも
云えないのですが。

事前情報から、『生命』がテーマだと聞いていたし、水嶋ヒロのお堅くて生真面目そうな性格
から、もっと小難しい重い話かと思ってちょっと身構えて読んだところがあったのですが、
テーマの割に予想外に作風が軽くてすらすら読めてしまうので、そこはちょっと拍子抜けした
ところはありました。文章やキャラ造形に関しては、どちらももう一歩光るものがあって
欲しかった。特に文章は、始めのうちは慣れてないのか、すごくぎこちなく拙く感じました。
読み進めるうちにあまり気にならなくなりましたが。
ストーリー展開に関しては、なかなか引きこまれる展開で、私は普通に面白いと思いました。
確かに映像化向きの作品って感じがします。主人公はともかく、主人公と臓器売買契約を交わす
キョウヤのビジュアルイメージは間違いなく水嶋ヒロ自身。黒ずくめで美形で穏やかな性格。
なんか、『メイちゃんの執事』の執事役やった時の水嶋ヒロそのまんまって感じがしました。
そして、心臓移植を待っている病弱な美少女ヒロインは、やっぱり絢香の顔を思い浮かべて
しまった。まぁ、将来実際映像化されたとしても、絢香が起用されることはないだろうけど^^;

終盤の展開は少々ご都合主義に感じなくもないのですが、まぁ、ポプラ社だし、寓話的とも
云えるハッピーエンドになっているのもご愛嬌なのかも。実際の医療の現実では有り得ない
のでしょうけれど、あくまでもフィクションの世界と割りきって読むべき作品でしょうね。

私は思ったよりもずっと面白かったと思ったんですが(割と斜に構えて読んでたんで^^;)、
賞金2000万の文学賞の大賞作品かと聞かれると、ちょっと首を傾げたくなってしまうかも。
全体的にもう一歩書きこんで、テーマの掘り下げや人物描写や心理描写に深みが欲しかった。
世間の評価は賛否両論みたいですねぇ。特に、アマゾンの評価、酷かったな~。あんなに☆1つ
の評価がたくさんある作品初めて見ましたよ・・・(書評自体も、さっき見た時点で400
レビュー超えててビックリしました・・・発売二日で^^;)。これが水嶋ヒロという色眼鏡
を完全にはずした状態で読まれていたら、どうだったのかな、という感じはしますね。間違いなく
こんなに売れてる作品にはなってないと思うし、話題作にすらならなかったかもしれない。
『生命』をテーマにした割に、さほどそのテーマが掘り下げてあるようには思えなかったし。
どちらかというと、軽めのエンタメとして楽しめる作品って感じかな。まぁ、本をたくさん
読む人にはあんまりお薦めしないけれど、普段本を読まない人なら読みやすくてとっつき
やすいんじゃないかな。


あと、読書メーターでも話題になってますが、ラスト1ページの意図なのか誤植なのか
わからないシール部分が非常に気になります。裏から透かしてみようとしたんですが、下に
字が書いてあるように見えないんですが。第二版からどうなるんでしょうか。下にあった字は
『○○○(人の名前)』だったのかなぁ。出版側が意図しない完全な誤植だとしたら、なんとも
お粗末な仕事をしたものだと呆れるしかないのですがね。

良くも悪くも、しばらく出版界を賑わせそうな作品なのは間違いないですね。印税推定6千万
だって・・・うへぇ。