ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「若様組まいる」/講談社刊

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畠中恵さんの「若様組まいる」。

明治二十三年、ミナこと皆川真次郎は西洋菓子屋を開いた。店には、旧幕臣の「若様組」の面々や、
女学校に通うお嬢様・沙羅が甘い菓子と安らぎを求めてやってきた。その少し前―。徳川の世で
あれば、「若殿様」と呼ばれていたはずの旧幕臣の子息・長瀬達は、暮らしのために巡査になること
を決意。今は芝愛宕の巡査教習所で訓練を受けていた。ピストル強盗の噂が絶えない物騒な昨今、
教習所でも銃に絡む事件が起きた。若様組の他、薩摩出身者、直参で徳川について静岡に行った
士族達、商家の子息達、さまざまな生徒に、何やら胡散臭い所長や教員を巻き込んで、犯人捜しが
始まる(あらすじ抜粋)。



アイスクリン強しの前日譚。といっても、主役はお菓子職人だったミナではなく、彼の友人で
元士族出身の巡査たち『若様組』の面々が巡査教習所で訓練を受け、巡査になるまでのお話。
教習所内でのお話とはいえ、仲間内で困ったことがあると困った時のミナ頼みとばかりに、ミナに
泣きつくので、ミナもちょこちょこと登場します。みんなのマドンナ、沙羅お嬢様の活躍は少な
かったですが、そのかわりに彼女の父親が美味しいところで顔を出したりしています。
明治の巡査は巡査になるまでにこういう訓練をするのか~と、なかなか興味深く読んだのですが、
前作同様、全体的にストーリーにもう少し起伏があったら良かったかなぁと思いました。一応
ミステリ的な要素もあるのですが、そこもそれほど重視したストーリーでもないし。まぁ、
畠中さんにそこまでミステリとしての面白さを期待してはいないので(酷)、こんなものかな、
って感じではあるんですが。どちらかというと、巡査教習所内での同期たちとの確執や友情なんかが
メインのテーマと云えるでしょう。個性的なキャラたちが思い思いに動いて、若様組のメンバーたち
を翻弄するって感じ。何かと周りから目をつけられる若様組のメンバーたちが、教習所内で起きる
様々なトラブルにどう対処し、立ち向かって行くのか、彼らは無事二ヶ月で卒業出来るのか、
というところが読みどころ。『アイスクリン~』でも強烈な個性を放っていた園山さんが、今回も
結構なトラブルメイカーぶりを発揮して、若様組のメンバーたちを困らせています。園山さんの
キャラって、どうも不思議というか、クールで理性的な外見を持っているのにメンバーたちの中で
一番腕っ節が強くてキレやすい暴力的な性格っていうのが、なんだか自分の中でキャラ的に成立
しないんですよね。個性的なのは間違いないのですが、その時々でキャラにブレがあるように
感じてしまって、好感を持てるのか、持てないのか定まらない感じ。一番好きなのはやっぱり
長瀬かな。若様組のリーダーで頼りになるし、園山に対抗出来る位には武道も強いし。暴れ者かと
思いきや、案外穏やかな性格ですしね。四章でいきなり姿を消したのには面食らいましたが。
事情はわかるけど、若様組のリーダーでもあるのだし、誰かに一言あっても良かったのではない
かなぁ。

あと、二章のラストでミナが長瀬を殴った理由にも拍子抜け。『アイスクリン~』で、沙羅とミナ
と長瀬の三角関係が発展しそうでしなかったことがちょっと不満だったのですが、長瀬の真意が
出て来て、なるほど、と思いました。長瀬には長瀬の、ミナにはミナの事情があって、自由に
恋愛する訳にはいかない時代だったということなんでしょうね。現代であれば、間違いなく
沙羅を巡る恋愛バトルが勃発してるところなんでしょうけどね。一番可哀想なのは沙羅なのかも。
この作品ではまだ14歳だからそういう段階にないかもしれないですが、『アイスクリン~』では
16だか17になってる訳ですしねぇ。素敵な殿方が周りにいるのに、恋愛感情なしで見られる
ってのはなんとなく寂しいような。まぁ、怖い怖い父親の存在もネックになるでしょうけど。
やっぱり、親が決めた婚約者と結婚していくんですかね。

アイスクリン~』よりは不満が少なかったかなぁ。あっちは何を軸に書きたいのかわからない
ようなところがあったけど、こちらはその点ではすっきりしていたし。ただ、やっぱりもうちょっと
全体通しての山場があって欲しかったというか、全体的に平板な展開なので、ちょっと最後は
読み飽きてしまったところもあったかも。
そうそう、ミナのお菓子はこの時から変わらず美味しそうで、やっぱりお腹が空きました(笑)。